日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Microbial Cell
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
細胞の中では、傷ついたタンパク質や役目を終えたタンパク質を分解する仕組みが働いています。その中心の一つが「プロテアソーム」と呼ばれる大きなタンパク質分解装置です。分解すべきタンパク質には「ユビキチン」という小さな目印が付けられ、プロテアソームはこれを認識して分解します。目印に頼らずに分解する経路もあります。
増殖中の酵母では、プロテアソームは主に核の中にあります。ところが、ブドウ糖が急になくなったときや、増殖を止めた休止状態に入ったときなどには、細胞質に集まって粒状の構造を作ります。これは「プロテアソーム貯蔵顆粒(PSG)」と呼ばれ、酵母に特有の現象として知られています。こうした条件はいずれも細胞内のpHを下げます。細胞内を酸性にするだけでもPSGができることが報告されています。研究チームも以前、酢酸でPSGを誘導できることを報告しています。一方で、PSGが細胞にとってどんな意味を持つのかは、まだよく分かっていません。
ソルビン酸は酢酸と同程度の解離定数をもつ、油になじみやすい弱酸です。酢酸よりずっと低い濃度で酵母の増殖を抑えますが、細胞内のpHを下げる効果は酢酸より穏やかだとされています。ただし、酵母がソルビン酸にどう反応するのかは十分に分かっていません。そこで研究チームは、出芽酵母でソルビン酸がPSGを作らせるかを調べ、酢酸の場合と比べました。
何を調べ、何が分かったか
研究チームは、プロテアソームの部品に緑色の蛍光タンパク質を付けた酵母を使いました。これにソルビン酸を与え、蛍光顕微鏡でプロテアソームの位置を観察しました。1 mMでは細胞質に顆粒は現れませんでしたが、2 mM以上では顆粒ができました。4 mMでは約30分で細胞の約20%に、3時間後には70%を超える細胞に顆粒が見られました。3 mM以下では、3時間後でも顆粒をもつ細胞は半数未満でした。
4 mMのソルビン酸は細胞内のpHを下げました。ソルビン酸を取り除くと、顆粒はすぐにほどけてプロテアソームは核へ戻りました。調べた他のプロテアソーム部品も同じように顆粒を作り、互いに同じ場所に集まっていました。これらの結果から著者らは、ソルビン酸がPSGを作らせると結論づけています。
ソルビン酸がかかった状態では、プロテアソームによるタンパク質分解が抑えられていました。抑制は、ユビキチンの目印で分解されるタンパク質でも、目印なしで分解されるタンパク質でも見られました。抑制の程度はソルビン酸の濃度に応じて変わり、PSGのでき方とも関連する傾向がありました。また、ユビキチンの目印が付いたタンパク質が細胞内にたまっていました。
研究チームは、PSGができるのに必要な因子も調べました。分解対象をプロテアソームへ運ぶ「シャトル因子」のDsk2とRad23は、休止状態などでは必要です。しかしソルビン酸の場合は、両方を欠く酵母でも半数を超える細胞でPSGができました。これらの因子は顆粒に取り込まれてはいたものの、形成の主な担い手ではないと著者らは考えています。一方、プロテアソームの部品であるSem1とRpn13を欠く酵母では、PSGができませんでした。調べた範囲では、PSGに必要な因子はソルビン酸と酢酸で違いがありませんでした。
結果の意味
著者らが最も注目しているのは、PSGができる速さです。従来の条件では十分にPSGができるまで12〜24時間、酢酸でも9時間かかりました。これに対しソルビン酸は、約30分で検出できるほどのPSGを作らせました。細胞内のpHの下がり方は酢酸より穏やかでした。それでもPSGは速くできたことから、酸性化の程度が形成の速さを決めているわけではないと著者らは見ています。
論文は、ソルビン酸がタンパク質の分解を抑えることを示しました。研究チームは以前、ソルビン酸がタンパク質の合成も抑えることを報告しています。これと合わせ、著者らはこれをエネルギー(ATP)が不足したときの節約的な応答である可能性があると論じています。さらに、こうしたタンパク質管理の乱れがソルビン酸の増殖抑制作用に関わっている可能性も示しています。ただし、ソルビン酸で生じた顆粒の微細な構造は今回は調べられておらず、未解明のままです。
この研究は、ソルビン酸がプロテアソームを短時間で顆粒に集め、その働きを抑えることを示しました。PSGを数時間以内に作らせられることは、PSG形成に必要な因子を探す実験などを効率よく進めるうえで役立つと著者らは述べています。長時間のストレス処理に伴う余計な影響を減らせる点も利点に挙げています。
原著論文の著者・所属:Shoei Tanaka(Department of Applied Biology, Graduate School of Science and Technology, Kyoto Institute of Technology, Sakyo-ku, Kyoto 606-8585, Japan)、Mitsuki Imajo(Department of Applied Biology, Graduate School of Science and Technology, Kyoto Institute of Technology, Sakyo-ku, Kyoto 606-8585, Japan)、Mieko Hayashi(Department of Biology, Graduate School of Science, Chiba University, Chiba 263-8522, Japan)、Akira Matsuura(Department of Biology, Graduate School of Science, Chiba University, Chiba 263-8522, Japan)、Shingo Izawa(Department of Applied Biology, Graduate School of Science and Technology, Kyoto Institute of Technology, Sakyo-ku, Kyoto 606-8585, Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shoei Tanaka, Mitsuki Imajo, Mieko Hayashi, et al. Sorbic acid triggers rapid formation of proteasome storage granules in Saccharomyces cerevisiae. Microbial Cell 2026-08-12. DOI: 10.15698/mic2026.08.886. 原著ライセンス:CC BY.