この研究は、バングラデシュ、オーストラリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food and Bioprocess Technology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

果物や野菜は水分を80〜95%含むため傷みやすく、乾燥は保存のために広く使われてきた方法です。しかし水分が抜けていく過程で、食品の組織は縮んだり潰れたりし、表面が硬い殻のようになる「ケースハードニング(表面硬化)」が起きることもあります。こうした変化は、乾燥品の食感や品質を大きく左右します。

研究チームは、これまでの研究では、硬さや弾性率といった機械的な性質が水分の減少にともなってどう変わるのかが、実際の乾燥条件のもとで十分に調べられてこなかったと指摘しています。とくに、試料が割れるときの応力(破断応力)が水分低下とともにどう変化するか、また乾燥方法や温度によって内部・外部の微細構造や表面硬化がどう違うかは、ほとんど明らかになっていないとしています。そこでこの研究は、リンゴ(グラニースミス)を植物性の細胞組織の代表例として用い、熱風による対流乾燥(CD)と、マイクロ波を断続的に併用する乾燥(IMCD)の二つの方法について、水分量と機械的性質の関係、および組織の変化を系統的に調べることを目的としました。

何をどう調べたか

著者らは、リンゴを直径35mm・厚さ10mmの円板状に切りそろえ、45℃と60℃の二つの温度で乾燥実験を行いました。熱風乾燥は電気ヒーターによる対流のみを用い、IMCDでは同じ装置でマイクロ波(出力1100W)を「10秒オン・40秒オフ」の周期で断続的に加えています。オフの時間は試料内部で水分が均されるのを助け、局所的な過熱を抑える狙いがあります。

機械的性質は、乾燥機と同じ温度状態を保ったまま試料を取り出し、テクスチャーアナライザーで上下から押しつぶす試験(一軸圧縮試験)によって測定しました。硬さは圧縮時にかかる最大の力として求め、破断を避けるため試料の高さの20%までの圧縮にとどめています。一方、破断応力を測る際は30〜80%まで圧縮の度合いを変えました。弾性率(材料の変形しにくさを表す指標)は、得られた応力とひずみの関係のうち弾性的にふるまう区間の傾きから算出しています。

組織の観察には走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、生の試料と乾燥後の試料について、外側の表面と、切断した内部の断面の両方を撮影しました。表面硬化の程度は、断面画像から画像解析ソフトで殻(クラスト)の厚さを測ることで評価しています。

報告された主な結果

乾燥の速さでは、IMCDのほうが同じ最終水分量に達するまでの時間が熱風乾燥より大幅に短かったと報告されています。マイクロ波は試料の内部にある水を直接加熱するため、蒸気が速く発生して表面へ向かうことが理由として挙げられています。

硬さと弾性率は、どちらの方法でも似た傾向を示しました。乾燥の初期には水分の減少とともに指数関数的に下がっていき(軟化期)、その後ほぼ一定の期間を経て、水分が少なくなった段階で急に上昇に転じます。この上昇が始まる水分量は、乾燥基準で熱風乾燥が1.06kg/kg、IMCDが0.971kg/kgでした。著者らはこれを、組織がゴム状の状態からガラス状の硬い状態へ移り変わることによる構造的な硬化の始まりと説明しています。ただし全体として、IMCD試料の硬さは熱風乾燥試料より低い値にとどまりました。

破断のふるまいには、両者ではっきりした違いが現れました。熱風乾燥では、乾燥開始から4時間目までの比較的水分が多い段階(乾燥基準で2.85kg/kgまで)で、その時点の試料高さの50〜65%まで圧縮すると割れが生じ、割れは主に試料の外縁付近から始まりました。著者らは、表面の水分が急速に抜けて密な硬化層ができる一方、内部はまだ変形しやすいままであるため、縁に応力が集中したと説明しています。これに対しIMCD試料は、乾燥の全過程を通じて破断が起こらず、構造的な粘り強さを示したと報告されています。

表面硬化の測定では、熱風乾燥試料のクラスト厚が0.880〜0.843mmであったのに対し、IMCD試料では0.483〜0.426mmと一貫して薄く、硬さも低いものでした。また両方法とも、45℃で乾燥した試料のほうが60℃よりクラストが厚くなりました。著者らは、低い温度ではゆっくり乾くため、表面の崩壊や硬化が進む時間が長くなることを理由として挙げています。顕微鏡観察でも、熱風乾燥では細胞の潰れや破壊が目立ち(とくに60℃)、IMCDでは孔(空隙)の多い構造が保たれ、生の試料に近い微細構造が得られたとされています。

この研究が示すこと

この研究は、乾燥中のリンゴの硬さ・弾性率・破断応力が水分量とともにどう変化するかを、実際の乾燥条件のもとで追跡し、それを内部・外部の微細構造や表面硬化の観察と結びつけた点に特徴があります。乾燥方法の違いが組織の構造を変え、その構造の違いが食感にあたる機械的性質を決めていく——という流れを、一連のデータとして示した形です。

著者らは、これらの知見が、食感にもとづく品質評価の手がかりとなり、植物性食品の乾燥プロセスを設計・最適化するうえでの基礎になると述べています。乾燥という身近な加工のなかで何が起きているのかを、目に見える組織の姿と、押したときの手応えの両面から結びつけた研究といえます。

著者:S.S. Tuly(Department of Mechanical Engineering, Rajshahi University of Engineering & Technology, Rajshahi, Bangladesh)、Zachary G. Welsh(Faculty of Engineering, Mechanical, Medical and Process Engineering, Queensland University of Technology, Brisbane, Australia)、Mohammad U.H. Joardder(Department of Mechanical Engineering, Rajshahi University of Engineering & Technology, Rajshahi, Bangladesh)、Azharul Karim(Faculty of Engineering, Mechanical, Medical and Process Engineering, Queensland University of Technology, Brisbane, Australia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):S.S. Tuly, Zachary G. Welsh, Mohammad U.H. Joardder, et al. Mechanistic Insights into Texture and Microstructure Evolution During Intermittent Microwave-Convective Drying of Cellular Plant-Based Food Material. Food and Bioprocess Technology 2026-09-11. DOI: 10.1007/s11947-026-04563-z. 原著ライセンス:CC BY.