この研究は、インドネシア、イエメンの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Revista cientifica odontologica (Universidad Cientifica del Sur)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
歯周炎は、口の中の細菌のバランスが崩れることで歯を支える組織に炎症が続き、少しずつ組織が壊れていく慢性の病気です。研究チームによれば、2011年から2020年にかけての歯周炎の有病率は62%で、そのうち重度の歯周炎は23.6%を占めると報告されています。歯周炎は歯を失う主な原因の一つであり、全身の病気との関連も指摘されてきました。
この病気に対する最初の治療は、スケーリング・ルートプレーニング(SRP)と呼ばれる、歯や歯根の表面に付いた細菌のかたまり(バイオフィルム)を機械的に取り除く非外科的な処置です。ただし論文では、細菌を減らすだけでは、体の側の過剰な炎症反応には対処できず、特に重症の患者では十分な改善が得られない場合があると説明されています。そこで、体の免疫反応を調整して過剰な炎症を抑える「宿主調節療法」という考え方が補助的に用いられてきました。アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬もこの目的で使われてきましたが、長期使用には消化管の粘膜障害などの副作用のリスクがあります。
こうした背景から研究チームが注目したのが、オメガ3脂肪酸です。オメガ3脂肪酸は体内で作れない必須の脂肪酸で、ナッツや種子に含まれるα-リノレン酸、魚油に多いエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)などがあり、抗炎症・免疫調節の働きが知られています。過去10年に臨床試験は多数行われたものの結果は一致せず、また既存のメタ解析はアスピリンとの併用試験や糖尿病患者を含むものがありました。そこで研究チームは、オメガ3脂肪酸のみを補助として用いた無作為化比較試験(RCT)を集め直し、その効果を系統的に統合することを目的としました。
どのように調べたか
研究チームは、PRISMA 2020の報告指針に沿って系統的レビューとメタ解析を行い、研究計画をPROSPEROに事前登録しました。2025年8月に、Scopus、PubMed、Web of Science、Cochrane Library、EBSCOの5つのデータベースを検索し、さらに引用文献をたどる検索も加えました。
対象としたのは、18歳以上で中等度から重度(ステージII〜IV)の歯周炎と診断された患者を対象に、SRPの後にオメガ3脂肪酸を補充した群と、SRPのみ(またはSRPと偽薬)の群を比較したRCTです。追跡期間は3か月以上を条件とし、アスピリンなど他の薬剤を併用した試験や、外科処置を行った試験は除外しました。評価した主な指標は、歯周ポケットの深さ(PPD、歯と歯ぐきのすき間の深さ)と、臨床的アタッチメントレベル(CAL、歯を支える組織が歯根にどこまで付着しているかを示す指標)の2つです。
検索で得られた1,023件から重複や条件に合わないものを除き、最終的に9件のRCTが解析に含まれました。試験はインド、エジプト、イラン、イラク、ポーランドで実施されたものです。EPAとDHAの合計摂取量は1日300mgから4,400mgまで幅があり、補充期間は3か月または6か月でした。研究の偏り(バイアス)のリスクはCochrane RoB2という道具で評価され、5件が低リスク、4件が「一部懸念あり」と判定されました。統計解析では、研究ごとのばらつきを想定したランダム効果モデルが用いられ、証拠の確実性はGRADEという方法で評価されました。
主な結果
PPDについては9件・362人分のデータが統合されました。論文の報告によると、SRPにオメガ3脂肪酸を追加した群は、SRPのみの群と比べてポケットの深さが0.66mm多く減少していました(平均差-0.66mm、95%信頼区間-1.03〜-0.30)。CALについては8件・312人分が統合され、オメガ3脂肪酸を追加した群で0.69mm大きい改善が報告されています(平均差-0.69mm、95%信頼区間-1.06〜-0.32)。なお、治療開始前のPPDとCALには両群で意味のある差はなかったことが確認されています。
補充期間で分けた解析では、3か月でも6か月でも同程度の改善が見られました。EPAとDHAの量で分けた解析でも、1日1,000mg未満の群と1,000mg以上の群で改善の大きさはほぼ同じで、研究チームは明確な用量と効果の関係は見られなかったと述べています。一方、研究の質で分けると、バイアスのリスクが低い5件ではPPDの減少が0.56mm、CALの改善が0.72mmで、研究間のばらつきが大きく小さくなりました。研究チームは、統合結果は主として質の高い研究によって支えられていると考察しています。
副作用については、3件の試験で有害事象の報告はなかったとされています。一方、EPAとDHAを1日4,400mgと最も多く投与した2件の試験では、吐き気や魚のにおいの口臭を訴えた参加者がそれぞれ37.5%(16人中6人)、40%(20人中8人)いました。4件の試験は有害事象に関する情報を報告していませんでした。
ただし研究チームは、結果の解釈には注意が必要だと強調しています。研究間のばらつき(異質性)がPPDでI²=91%、CALでI²=88%と大きく、GRADEによる証拠の確実性は両方の指標とも「低い」と判定されました。これは、実際の効果の大きさが今回得られた推定値と異なる可能性があることを意味します。
この研究が示すこと
この解析は、歯周炎の基本的な機械的治療に加えてオメガ3脂肪酸を補充することが、歯周ポケットの深さと付着の回復という臨床指標の上で、治療単独よりも良い結果と関連していたことを、現時点で得られる無作為化試験を整理した形で示しました。論文では、その背景にある仕組みとして、オメガ3脂肪酸からレゾルビンなどの炎症を収束させる物質が作られる点が挙げられています。
一方で研究チームは、研究間のばらつきの大きさと証拠の確実性の低さから、最適な投与量や長期使用についての推奨はまだ確立できないと結論づけています。歯周炎の治療に体の炎症反応の側から働きかけるという考え方について、現在どこまで分かっていて、どこからが未解明なのかを整理した点に、この研究の意義があります。
著者:Irmawati A(Department of Basic Dental Science and Public Health, Faculty of Dental Medicine, Universitas Airlangga. Surabaya, Indonesia.)、Muhammad Ridho F(Department of Dental Medicine, Faculty of Dental Medicine, Universitas Airlangga. Surabaya, Indonesia.)、Labib R(Department of Oral Surgery, Faculty of Dental Medicine, 21 September University of Medical and Applied Sciences. Sana’a, Yemen)、Alfatah R(Faculty of Medicine, Universitas Islam Negeri Walisongo. Semarang, Indonesia.)、Maulidina Cahyani S(Faculty of Dentistry, Universitas Brawijaya. Malang, Indonesia.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Irmawati A, Muhammad Ridho F, Labib R, et al. Efficacy of omega-3 fatty acids supplementation as an adjunct to nonsurgical periodontal therapy in periodontitis: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Revista cientifica odontologica (Universidad Cientifica del Sur) 2026-07-10. DOI: 10.21142/2523-2754-1403-2026-303. 原著ライセンス:CC BY.