近年、豆乳やアーモンドミルクなど植物性ミルクの人気が世界的に高まっています。乳糖不耐症や牛乳アレルギーを避けたい人の選択肢としてだけでなく、ヴィーガン志向の広がりも背景にあります。今回紹介する研究は、そうした植物性ミルクの中でもあまり知られていない「タイガーナッツミルク」を取り上げたものです。コートジボワールのペレフォロ・ゴン・クリバリ大学(コルホゴ)の研究グループが、同国北部コルホゴ産のタイガーナッツから作ったミルクを対象に、殺菌処理が栄養成分にどう影響するかを調べました。
タイガーナッツ(学名Cyperus esculentus、カヤツリグサ科)は塊茎を食用とする植物で、現地では「チョンゴン」と呼ばれ、生や乾燥のままおやつとして食べられています。スペインや地中海沿岸諸国では、これを水で戻してすりつぶした「オルチャータ」という飲料が親しまれており、中国でも大豆の代替となる飲料として注目されているといいます。研究チームは、コルホゴ市内の3つの市場(被災地区、プティ・パリ、中央市場)でそれぞれ異なる売り手からタイガーナッツを購入して混合し、試料としました。
どうやってミルクを作り、何を比較したのか
乾燥タイガーナッツ1kgを水で3回洗浄した後、3日間蒸留水に浸してふやかし、水500mLとともに粉砕、布でこして生のミルクを得ました。このミルクを5つに分け、1つは殺菌せずそのまま(UPL)、残り4つは72℃で10分(LP10)、15分(LP15)、20分(LP20)、25分(LP25)の条件で加熱殺菌し、それぞれの栄養特性を比較しています。分析項目は炭水化物・脂質・たんぱく質・食物繊維といった主要栄養素に加え、カリウムやリン、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛などのミネラル、フマル酸やクエン酸などの有機酸、さらにフィチン酸塩やシュウ酸塩といった抗栄養因子(体内でミネラルの吸収を妨げうる成分)にも及びました。
結果として、タイガーナッツミルクには炭水化物2.84〜3.95%、脂質1.76〜2.64%、たんぱく質1.02〜1.13%、食物繊維0.29%が含まれていることが示されました。ミネラルではカリウムが154.47〜398.70mg/100g、リンが158.31〜341.32mg/100g、マグネシウムが74.55〜98.30mg/100g、カルシウムが51.65〜99.31mg/100g、ナトリウムが24.26〜88.70mg/100gという範囲で検出されています。研究チームは、リン・カリウム・鉄・亜鉛については、この飲料を飲むことで1日の推奨摂取量をおおむね満たしうる量が含まれると述べています。
殺菌時間による変化も見られました。無殺菌のミルクは、殺菌したミルクに比べて乾物量やたんぱく質の割合がやや高く、逆に全糖や還元糖の割合は低い傾向がありました。脂質は殺菌時間が長くなるほど増える傾向(1.76%から2.64%へ)が見られた一方、フマル酸やサリチル酸などの一部の有機酸、そしてフィチン酸塩・シュウ酸塩といった抗栄養因子は、殺菌時間が長くなるほど減少し、25分間殺菌したものでもっとも低い値になったと報告されています。全体としては、20分を超える殺菌時間でほとんどの成分値が低下する傾向があったとまとめられています。ビタミンCについても、加熱に弱い性質を反映してか、殺菌時間が長くなるほど含有量が下がったとされています。
この研究をどう読むか
著者らは、検出された抗栄養因子(フィチン酸塩・シュウ酸塩)の量は、加熱調理したタイガーナッツで報告されている値よりも低く、成人における中毒量とされる値と比べても十分に少ないと述べ、この飲料を飲むことは安全性の面で問題になりにくいだろうという見方を示しています。また、有機酸の存在はミネラルの吸収を助けたり、風味や保存性を高めたりする可能性があるとも述べています。ただしこれらはいずれも今回の分析結果に基づく著者らの考察であり、健康効果や安全性を保証するものではありません。
この研究はコートジボワール・コルホゴ産という特定産地のタイガーナッツを対象にした一つの実験結果であり、他の産地や品種のタイガーナッツ、あるいは異なる殺菌条件(温度や時間)でも同じ傾向になるとは限りません。論文中でも、繊維含有量が別の先行研究(ボンドゥクー産タイガーナッツ)の報告値より大きく低かった点について、品種の違いが原因である可能性が指摘されており、産地や品種による差が大きいことがうかがえます。植物性ミルクとしての活用可能性を示す基礎データという位置づけで捉えるのがよいでしょう。
まとめ
今回の研究は、コートジボワールで十分に活用されていない農産資源であるタイガーナッツについて、ミルクに加工した際の栄養成分と、殺菌処理(72℃・10〜25分間)がそれらに与える影響を明らかにしたものです。炭水化物・脂質・たんぱく質・ミネラルを含む一方、殺菌時間が長くなるほど多くの成分値が低下する傾向があり、特に20分を超えると変化が目立つとされました。著者らは、大豆ミルクと同様に食品産業での活用が見込め、地域の生産者の収入向上にもつながりうると述べていますが、これは一つの研究による知見であり、今後の検証が待たれます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Oulai Sylvie Florence, Coulibaly Seydou Ouolouho, Kouassi Kouamé Appolinaire. INFLUENCE OF PASTEURISATION ON THE BIOCHEMICAL PROPERTIES OF SWEET PEA MILK (CYPERUS ESCULENTUS) GROWN IN KORHOGO (CÔTE D’IVOIRE). ジーエスシー・バイオロジカル・アンド・ファーマシューティカル・サイエンシズ (2026). DOI: 10.30574/gscbps.2026.36.2.0295.