著者の所属・活動拠点の国は、ロシア、ブルガリア、中国、イギリス、アイルランドです。
掲載誌:Frontiers in Plant Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜダイズでは「スピード育種」をそのまま使えないのか
新しい品種を育てる育種では、交配した植物から種子を採り、それをまた育てるという世代交代を何度も繰り返します。ダイズは一世代にかかる時間が長く、それが育種で得られる改良の速さを制限していると著者らは指摘しています。この論文は、ダイズの世代交代を速める方法についてこれまでに発表された研究を整理した総説(文献レビュー)です。
コムギやオオムギのように、日が長くなると花を咲かせる作物では、一日の明るい時間(日長)を一生を通じて人工的に長くし、世代を早く回す「スピード育種」の手法が開発されてきました。しかし、ダイズは日が短くなると開花が促される性質を持つ植物です。論文によると、ダイズでは長日条件のもとでE1と呼ばれる遺伝子のグループが、開花を促す「花成ホルモン(フロリゲン)」の遺伝子GmFT2aとGmFT5aの働きを抑え、開花が遅れます。著者らが紹介する過去の研究でも、これら2つの遺伝子は短日条件で強く働き、長日条件では働きが弱まっていました。そのため、麦類で使われる長い日長は、ダイズには逆効果になりうると論文は述べています。
鍵となる「時期によって日長を切り替える」方法
そこで著者らが中心に据えるのが、生育段階に応じて日長を変える考え方です。開花前は、品種ごとに決まった「これ以上長いと開花しにくくなる日長(限界日長)」を下回る短い日長に保ちます。論文によれば、既存の手法では10〜12時間が使われています。そして開花が始まった段階(R1期)以降に初めて日長を延ばし、種子の成熟を早めます。
論文がまとめた報告によると、短日条件を工夫して続ける方法では年に最大5世代、開花後に22時間の日長を与え、さらに未熟な種子を発芽させる方法を組み合わせた1件の研究では年6世代が報告されています。ただし著者らは、これらの数字は異なる研究・品種・施設から得られたものであり、同じ品種で「開花後の長日」と「短日のまま」の世代期間を直接比べた研究は、知る限りまだないと注意を促しています。
総説では、育成用の設備や照明についても整理されています。例えば、光を一定以上に強めても開花は約2日早まるにとどまり、追加の電力コストに見合う効果は小さいとする報告が紹介されています。また、赤色光に対する青色光の割合を高めると、開花時期を変えずに背が低く丈夫な株になった一方、遠赤色光はダイズの開花を早めず、葉柄が伸びて倒れやすくなったとされています。未熟なさやを開花後37日で収穫して8日間乾燥させると7日以内にすべて発芽し、二酸化炭素の追加や光・温度の調整とあわせて70日の世代周期につながった例も挙げられています。
速さと引き換えに生じうる課題
著者らは、世代を速める操作は植物に影響を与えずにはすまないと強調しています。開花まで10時間の日長で育てた後に22時間へ延ばした実験では、10時間のままの株に比べて、葉の光合成能力を示す複数の指標が37〜55%低下したと報告されています。一方で、さやの光合成の効率は22時間の方が高く、種子の乾燥重量は減っていませんでした。
また、遺伝的な性質がまだばらばらに分かれている集団(分離集団)で、すべての株を同じ早い日付で収穫すると、成熟の早さなどによって次世代に残る遺伝子の割合が変わってしまう可能性があると論文は指摘しています。さらに、人工気象室という特殊な環境で選んだ株が、実際の畑でも同じように優れているかはまだ確かではないとしています。総説では、遺伝子の目印を使って選ぶマーカー選抜、ゲノム情報から性能を予測するゲノム選抜、ゲノム編集との組み合わせについても検討されています。
この総説が示すこと
著者らは、これまでの証拠から、ダイズのスピード育種は世代交代を速める方法として支持されると結論づけています。その一方で、早期の種子収穫や密植といった技術は他の作物から転用できても、日長の設定はダイズの性質に合わせて組み立て直す必要があること、そして人工環境での選抜は畑で確かめる必要があることを示しています。最終的には、目標とする栽培環境で、単位時間あたりにどれだけ実際の品種改良が進んだかで評価すべきだというのが、著者らの示す視点です。
原著論文の著者・所属:Yawar Habib(Center for Bio and Medical Technologies, Skolkovo Institute of Science and Technology)、Altafur Rahman(Center of Plant Systems Biology and Biotechnology)、Gabriele Adornato(Center of Plant Systems Biology and Biotechnology)、Elshan Musazade(Key Laboratory of Soybean Molecular Design Breeding, Northeast Institute of Geography and Agroecology, Chinese Academy of Sciences)、Anshika Bhatla(Institute of Molecular Plant Sciences, University of Edinburgh)、Rachna Gowlikar(School of Biology and Environmental Science and UCD Earth Institute, University College Dublin)、Avanish Rai(Center of Plant Systems Biology and Biotechnology)、Tsanko Gechev(Center of Plant Systems Biology and Biotechnology; Department of Molecular Biology, University of Plovdiv)、Xianzhong Feng(Key Laboratory of Soybean Molecular Design Breeding, Northeast Institute of Geography and Agroecology, Chinese Academy of Sciences)、Elena Potokina(Center for Bio and Medical Technologies, Skolkovo Institute of Science and Technology; Institute of Forest and Natural Resources Management, Saint Petersburg State Forest Technical University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yawar Habib, Altafur Rahman, Gabriele Adornato, et al. Rapid generation advancement in soybean: approaches, constraints, and the stage-dependent photoperiod window. Frontiers in Plant Science 2026-10-30. DOI: 10.3389/fpls.2026.1992171. 原著ライセンス:CC BY.