日本関連:この研究は海外機関を中心とする国際共同研究で、日本の研究機関に所属する共著者が参加しています。参加国はドイツ、スウェーデン、日本です。
掲載誌:Legume Science
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
ダイズは人と家畜の重要なタンパク源です。ヨーロッパでは、穀物に偏った輪作に変化をもたらし、飼料や植物性食品向けのタンパク質を増やすため、これまでダイズ栽培が盛んでなかった地域にも栽培を広げることが奨励されています。しかし著者らによると、こうした地域で品種ごとに根粒の付き方、植物体の量(バイオマス)、収量がどうなるかについてのデータはまだ不足しています。根粒とは、ダイズの根にできる小さなこぶです。中にすむ細菌が空気中の窒素を植物が使える形に変えます。
研究チームは、灌漑を行わず雨水だけで育てる「天水栽培」の条件で二つのことを調べました。一つは、年ごとの気象の違いに対して、品種ごとに生育・根粒形成・子実収量がどう応えるかです。もう一つは、品種と環境がそれぞれどの程度影響するか、また根粒・バイオマス・収量の間にどのような関係があるかです。
ベルリンの試験畑で9品種を3年間比較
試験は2019年から2021年まで、ドイツ北部ベルリン・ダーレムにあるベルリン・フンボルト大学の試験場で行われました。土壌は砂が多く、年間降水量は平均561ミリです。
比較したのは、試験開始時に中央ヨーロッパで広く栽培されていた市販の9品種です。飼料向けの品種と、タンパク質含量が高く食品加工に適した食品向けの品種が含まれ、成熟の早さも品種によって異なります。食品向けの品種には、豆腐づくりに向くトフィナ(Tofina)などがあります。なお、リビウス(Livius)は2019年の試験には含まれていません。
収量を左右したのは品種よりも年ごとの条件
品種ごとの平均子実収量は、最も多い飼料向けの早生品種アカルディア(Acardia)で1ヘクタールあたり2317キロ、最も少ない飼料向けの極早生品種アンティグア(Antigua)で1849キロでした。品種間の差はわずかだったと著者らは述べています。一方、年による違いは大きく、全品種の平均収量は2020年が1ヘクタールあたり1019キロ、2021年が3364キロでした。
子実収量のばらつきのうち、環境による部分は87.0%を占めました。年と品種の組み合わせによる部分は5.2%、品種そのものによる部分は2.4%にとどまりました。根粒の数やバイオマスの蓄積についても、年ごとに変動はあったものの、品種間に統計的に意味のある差は見られませんでした。
最も収量が多かった2021年は、雨量が比較的多く、むらなく降りました。豆が実る「子実肥大期」には、蒸発散量(土壌と植物から失われる水分の量)が少なく、降水の不足も小さくなりました。この年は子実のタンパク質含量も最も高く、品質も優れていました。著者らは、湿度が高く、日射が弱く、30℃を超える日が少なかったことなども、この好成績に寄与したと考えています。また2020年は、春先の雨で畑に機械が入れず、種まきが他の年より9日遅れました。著者らは、短い栽培期間の中では、播種期の土壌条件も収量の安定に関わりうると指摘しています。
根粒と生育の関係、そして研究が示すこと
根粒の重さ(乾燥重量)は、草丈、地上部のバイオマス、子実収量、さや数、収穫指数(植物全体のうち子実が占める割合)など多くの特徴とマイナスの相関を示しました。根粒の数よりも重さのほうが、生育や収量との結びつきが強く現れました。考えられる理由として、著者らは、試料を採取したさやの形成期に、根粒よりも地上部の器官が光合成産物をより強く引き寄せていた可能性を挙げています。ただし著者らは、これらの相関は限られた環境のデータに基づくもので、ある特徴が別の特徴を直接左右している証拠とは解釈すべきでないと注意を促しています。調査した環境が3年分に限られている点も、著者ら自身が認めています。
著者らは、ドイツ北部でダイズを栽培するうえでの主な制約は、年ごとの降水量の変動、特に開花期や子実肥大期の雨不足であると結論づけています。今回調べた品種の中に、根粒形成やバイオマスの面で収量を一貫して押し上げるほど優れたものはありませんでした。そのため著者らは、こうした収量の上がりにくい環境に向けた品種改良では、開花期と子実肥大期の乾燥への強さを重視する必要があるとしています。この試験地では、ダイズの収量が品種の違いよりも年ごとの雨の降り方に大きく左右されていたことを、この研究は示しています。
原著論文の著者・所属:Richard Ansong Omari(Faculty of Life Sciences Humboldt‐University of Berlin Berlin Germany; Leibniz Centre for Agricultural Landscape Research (ZALF) Müncheberg Germany)、Moritz Reckling(Department of Crop Production Ecology Swedish University of Agricultural Sciences (SLU) Uppsala Sweden; Leibniz Centre for Agricultural Landscape Research (ZALF) Müncheberg Germany)、Makoto Kanasugi(Independent Researcher Tokyo Japan)、Mosab Halwani(Leibniz Centre for Agricultural Landscape Research (ZALF) Müncheberg Germany)、Sonoko D. Bellingrath‐Kimura(Faculty of Life Sciences Humboldt‐University of Berlin Berlin Germany; Leibniz Centre for Agricultural Landscape Research (ZALF) Müncheberg Germany)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Richard Ansong Omari, Moritz Reckling, Makoto Kanasugi, et al. Exploring the Variability in Growth and Yield‐Related Responses of Soybean Under Rainfed Conditions in Central Europe. Legume Science 2026-10-30. DOI: 10.1002/leg3.70165. 原著ライセンス:CC BY.