この研究は、イギリスの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Clinical Nutrition ESPEN

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)は、筋肉の維持に関わるジストロフィンというたんぱく質が十分につくられないために起こる、まれな遺伝性の病気です。X染色体上の遺伝子が関係するため主に男性に生じ、骨格筋の衰えと身体機能の低下が徐々に進み、最終的に生活の質(QoL:本人が感じる生活の満たされ具合)の低下につながると論文では説明されています。現時点で病気そのものを治す薬はないため、著者らは日常で実行しやすい方法によってQoLを改善する手立てが求められていると述べています。

研究チームは、ほかの疾患を持つ人々では食事のたんぱく質摂取を増やすことが除脂肪量(脂肪以外の体の重さ)や自己申告による痛みの改善に良い影響を示すことが報告されている一方、BMDでは栄養状態と体組成、身体機能、QoLがどのように関わり合っているのかはあまり分かっていないと指摘しています。そこでこの研究は、BMDの成人の食事内容を明らかにし、食事に関わる要因と、体組成・筋肉の大きさや筋力・QoLの測定結果との関係を探ることを目的としました。

調べ方

対象となったのは、BMDのある成人男性20人と、年齢をそろえた対照群12人です。参加者は約6週間の間隔をおいて食事記録を2回つけ、食べた量、商品名、調理法を正確に書くよう指示されました。あわせて、体組成、筋肉の厚み、筋力、身体機能を測る一連の身体検査を受け、さらに自分で感じている身体機能、痛みや疲労感、QoL、栄養に関する知識について、妥当性が確認された質問票に回答しました。

報告された主な結果

論文の報告によると、BMD群の95%が肥満または過体重に分類された一方で、除脂肪量には群間の差はみられませんでした。また、BMDのある人たちは前脛骨筋(すねの前側の筋肉)の厚みや筋力、身体機能が低く、QoL、下肢の機能、日常生活動作についても低い値を報告し、痛みと疲労感はより強いという結果が示されています(いずれも統計的に意味のある差)。

年齢、総エネルギー摂取量、自己申告による身体活動量の影響を考慮したうえで解析すると、体重あたりのたんぱく質摂取量(1日1kgあたりのグラム数)は脂肪量指数と負の関連(r = -0.698、p = 0.017)、SF36v2という質問票で測ったQoLと正の関連(r = 0.503、p = 0.040)を示しました。一方でBMIは痛みと正の関連(r = 0.684、p = 0.002)がありました。結論として著者らは、BMDの成人は非ジストロフィーの人たちに比べて総摂取カロリーと体重あたりのたんぱく質摂取量が低く、たんぱく質摂取量はほかの筋萎縮を伴う病気に対する目安を大きく下回っていたと述べています。なお、ここで示された関連は関連の強さを表すもので、どちらが原因でどちらが結果かを決めるものではありません。著者ら自身も、これらの関係の実態を明らかにするには前向き研究や介入研究が必要だとしています。

この研究が示すこと

この研究は、BMDのある成人において、体脂肪の多さ、強い痛みや疲労感、低いQoLといった特徴が同時にみられることを示すとともに、体重あたりのたんぱく質摂取量が体脂肪の少なさとQoLの高さに結びついている可能性を指摘しました。著者らは、この結果がBMDの成人におけるたんぱく質摂取の役割をさらに調べる根拠になると位置づけており、栄養という日常的な側面にも目を向ける意義を示した報告と言えます。

著者:Isobel Haslam(School of Sport, Rehabilitation and Exercise Sciences, University of Birmingham, UK; Department of Sport and Exercise Sciences, Institute of Sport, Manchester Metropolitan University, UK)、Meghann Leaver(School of Sport, Rehabilitation and Exercise Sciences, University of Birmingham, UK; Department of Sport and Exercise Sciences, Institute of Sport, Manchester Metropolitan University, UK)、S. Jennifer Barrett(School of Sport, Rehabilitation and Exercise Sciences, University of Birmingham, UK)、Paul Orme(The Neuromuscular Centre, Winsford, UK)、Paul T. Morgan(Department of Sport and Exercise Sciences, Institute of Sport, Manchester Metropolitan University, UK)、Kelly A. Bowden Davies(Department of Sport and Exercise Sciences, Institute of Sport, Manchester Metropolitan University, UK)、Christopher Ian Morse(Department of Sport and Exercise Sciences, Institute of Sport, Manchester Metropolitan University, UK; The Neuromuscular Centre, Winsford, UK)、Nathan W. Hodson(School of Sport, Rehabilitation and Exercise Sciences, University of Birmingham, UK; Department of Sport and Exercise Sciences, Institute of Sport, Manchester Metropolitan University, UK; Faculty of Kinesiology and Physical Education, University of Toronto, Canada. Electronic address: [email protected])

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Isobel Haslam, Meghann Leaver, S. Jennifer Barrett, et al. Protein intake is associated with adiposity and quality of life in adults with Becker muscular dystrophy. Clinical Nutrition ESPEN 2026-08-31. DOI: 10.1016/j.clnesp.2026.105085. 原著ライセンス:CC BY.