年齢を重ねると、噛む力や飲み込む力が少しずつ衰えていきます。食べ物や飲み物が誤って気管に入ってしまう「誤嚥」のリスクが高まり、これがきっかけで食欲が落ち、必要な栄養素が不足してしまう高齢者も少なくありません。とくに嚥下障害(飲み込みが困難になる症候群)を抱える人にとっては、安全に飲み込める食感でありながら、体に必要な栄養もしっかり摂れる食品が求められています。ロシア国立農業大学(К. А. ティミリャゼフ名称モスクワ農業アカデミー)の研究グループは、こうした課題に対応する鶏肉パテの配合設計に取り組みました。
数式を使って配合を組み立てる
この研究では、鶏肉を主原料としたパテの配合を最適化するにあたり、表計算ソフトのMicrosoft Excel 2016を用いて線形の収支方程式を組み立てるという方法がとられました。具体的には、脂肪・たんぱく質・灰分(ミネラル分の指標)・炭水化物・水分という5つの成分について、それぞれの質量割合が目標値に収まるよう連立方程式を解き、原材料の配合比率を数学的に導き出しています。単に栄養価を計算するだけでなく、高齢者の生理的な栄養必要量の基準に加えて、安全に飲み込むために欠かせない構造的・力学的な特性(食品のかたさや粘りけなど)も設計の条件に組み込まれている点が特徴です。
飲み込みやすさを高齢者自身に評価してもらう
設計されたパテについては、実際に高齢者を対象とした専門家による官能評価が実施されました。対象は「飲み込みに問題のないグループ」と「嚥下障害症候群のあるグループ」の2群に分けられ、見た目・色・におい・食感・味に加えて「飲み込みやすさ」という項目も含めた総合的な基準で評価されています。これは高齢期特有の感覚(味やにおいの感じ方の変化など)を踏まえた評価方法とされています。あわせて、パテの物理化学的な性質、構造・力学的特性、アミノ酸組成、ミネラルやビタミンの含有量、栄養バランスを示す指標なども測定されました。
結果として、最適化された配合のパテは、たんぱく質の質量割合が12.99〜13.14%、エネルギー量が100gあたり159.26〜159.64kcalという目標の品質水準に達していたことが報告されています。また、栄養素全体のバランスを示す「複合バランス基準」という指標は0.949〜0.993の範囲となり、高齢者の予防的な栄養摂取という観点から見て栄養価の高さが確認されたとされています。
この研究をどう受け止めるか
この論文はロシアの雑誌「食品加工産業」に2026年9月に掲載予定の研究であり、日本の研究機関や日本の食品事情への言及は要旨・本文の範囲では見当たりません。示された数値は、あくまで研究グループが設計・評価した特定の配合のパテについての結果であり、嚥下障害を持つすべての高齢者に同様の効果が保証されるものではない点には注意が必要です。今回紹介した内容は栄養設計と官能評価に基づく一つの研究成果であり、実際の医療・介護の現場でどのように活用できるかについては、さらなる検証が必要と考えられます。
まとめ
高齢化が進む中で、飲み込みやすさと栄養バランスを両立させた食品づくりは重要な課題です。今回の研究では、鶏肉パテの配合を数式によって設計し、嚥下障害のある高齢者を含む評価を通じて、たんぱく質量やエネルギー量、栄養バランス指標などが目標水準に達していることが示されました。今後、こうした設計手法がどのように食品開発に生かされていくのか、注目されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Полина Сергеевна Харитонова, Дунченко Нина Ивановна, Кермен Владимировна Михайлова. Проектирование пищевой системы паштетов из мяса птицы для профилактического питания пожилых людей с синдромом дисфагии. 食品加工産業 (2026). DOI: 10.52653/ppi.2026.9.9.023.