醤油や味噌のような発酵食品が独特の香りやうま味を持つのは、微生物が原料のたんぱく質を分解し、アミノ酸やペプチドといった『香りのもと』を作り出すためです。こうした仕組みを応用すれば、動物由来の肉ではなく、大豆たんぱく質を原料にして『発酵肉風味』の調味料を作ることができます。中国・北京工商大学(Beijing Technology and Business University)の食品添加物に関する研究センターに所属するXuelian Yang氏らの研究グループは、この大豆由来の発酵肉風味を効率よく高品質に作るための条件を、統計的なモデルを使って探る研究を行いました。
大豆から肉の香りを引き出す仕組み
研究チームはまず、3種類の菌株を組み合わせて大豆たんぱく質を発酵させました。発酵の過程でHPLC(高速液体クロマトグラフィー)を使い、遊離アミノ酸の量がどう変化するかを追跡し、あわせてGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)でどのくらいの大きさのペプチド(アミノ酸がつながった断片)ができているかを調べています。発酵によって得られたアミノ酸やペプチドは、その後『メイラード反応』と呼ばれる、加熱によって香りやうま味成分が生まれる化学反応にかけられ、香気成分を含む風味物質へと変換されました。
できあがった風味物質の香り成分は、HS-SPME-GC-MS(固相マイクロ抽出とガスクロマトグラフィー質量分析を組み合わせた手法)やGC-O(人の嗅覚で香りを確認しながら成分を分析する手法)、AEDA(香りの強さを希釈しながら評価する手法)という複数の分析手法を組み合わせて、どの成分が特徴的な香りを担っているかが精密に特定されました。さらに、アミノ酸・ペプチド・揮発性の香気成分という3種類のデータの間にどのような関連があるかを見るため、O2PLSという統計モデルが構築されています。このモデルによる分析から、グルタミン酸、システイン、リジンというアミノ酸と、分子量1000ダルトン未満の小さなペプチド断片が、風味の質を左右する重要な指標として選び出されました。
最適な発酵条件と得られた結果
これらの指標を手がかりに、単一の条件を一つずつ変える『単因子実験』と、複数条件を組み合わせて効率よく調べる『直交実験』が行われ、最も良い発酵条件が探索されました。その結果、3種類の菌株の接種比率を1対3対1とし、発酵開始時のpHを7.0に設定し、炭素源にはブドウ糖、窒素源には酵母エキスを用いる組み合わせが最適とされています。
この最適化された条件のもとでは、発酵液中のグルタミン酸・システイン・リジンの合計量が1591.025 mg/Lに達し、分子量1000ダルトン未満のペプチドが全体の89.3%を占める結果となりました。あわせて行われた官能評価(人が実際に香りや味を評価するテスト)でも、風味が改善したことが確認されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、特定の菌株の組み合わせと培養条件のもとで得られた実験結果であり、研究チームが今回設定した条件下での成果です。動物性の肉に代わる風味源としての大豆発酵物の可能性を示す基礎的な知見ではありますが、一つの研究であり、この製法や条件がすべての大豆発酵風味づくりに当てはまると確定したわけではありません。今回の要旨には、日本の食品や食習慣への直接の言及はありませんでした。
まとめ
この研究では、大豆たんぱく質を複数の菌株で発酵させたのち、メイラード反応で風味物質を作り出す一連の工程において、O2PLSという統計モデルを使ってアミノ酸・ペプチド・香気成分の関連を解析し、香りに寄与する重要な指標を絞り込んだうえで、発酵条件を最適化する道筋が示されました。植物性たんぱく質から肉のような風味を作り出す技術の基礎データとして、今後の応用研究に活用されることが期待されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Xuelian Yang, Rui Zhang, Yuqing Li, et al. Targeted regulation of flavor precursors and quality improvement of fermented meat flavors based on the O2PLS model. ジャーナル・オブ・フード・コンポジション・アンド・アナリシス (2026). DOI: 10.1016/j.jfca.2026.109447. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.