日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Asia Pacific Allergy
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
モモを食べてアレルギー症状が出る場合、これまでの研究では「ジベレリン制御タンパク質(GRP、Pru p 7)」や「脂質輸送タンパク質(LTP、Pru p 3)」というタンパク質に対する感作(IgE抗体ができている状態)が、重い全身症状を起こしやすい患者を見分ける手がかりとされてきました。GRPは日本で、LTPは地中海沿岸諸国で、それぞれ重症化の予測因子として報告されているといいます。しかし、これらに反応しないのに全身症状が出る患者では、何が原因になっているのかがわかっていませんでした。今回、アジア・パシフィック・アレルギー誌に2026年8月に掲載予定の症例報告は、そうした患者の一人を詳しく調べ、これまで報告のなかったタンパク質を新たなアレルゲン候補として見つけたという内容です。この研究は、藤田医科大学医学部(日本)などに所属する著者らによる日本主導の研究で、症例の計画・実験・報告のすべてを日本の研究者が担っています。
調べられたのはどんな患者か
対象は、アトピー性皮膚炎と花粉症の既往がある26歳の日本人男性1名です。気管支ぜんそくの既往はありませんでした。25歳のときに生の丸ごとのモモを食べたあと、口の中のかゆみ、唇や喉の腫れ、呼吸のしづらさ、動悸、顔面蒼白といった、複数の臓器にまたがる全身性のアレルギー症状が出たと報告されています。それ以前にモモや他の果物で口腔アレルギー症候群のような症状が出たことはなく、この出来事以降は生のモモを厳格に避けており、症状の再発はないとのことです。
血液検査では、総IgE値は45.6 IU/mLでした。花粉に対する特異的IgEはスギ、ヒノキ、ハンノキ、ヤシャブシで陽性、その他のイネ科花粉は陰性でした。モモそのものおよびPru p 1(PR-10と呼ばれる病原関連タンパク質の一種)に対する特異的IgEは陽性である一方、Pru p 3(LTP)、Pru p 4(プロフィリン)、Pru p 7(GRP)はいずれも陰性でした。皮膚プリックテストでも、生のモモには陽性反応が出た一方、モモから精製したGRPには反応しませんでした。つまりこの患者は、重症化の指標とされてきたGRPやLTPには感作されていないのに、全身性の反応を起こしていたことになります。
プロテオミクス解析でわかったこと
原因となっているタンパク質を突き止めるため、研究チームはモモの抽出物を対象に、二次元電気泳動とイムノブロット(免疫染色による検出)を実施しました。その結果、患者の血清と反応する分子量約25kDaのタンパク質のスポットが見つかりました。このスポットを質量分析装置(TripleTOF 6600)で解析したところ、主成分は「ペプチジルプロリルシス-トランスイソメラーゼ FKBP20-1」というタンパク質であることが判明しました。FKBPと呼ばれる一群のタンパク質は、免疫抑制剤FK506と結合する性質や、細胞内でタンパク質の折りたたみ・輸送・情報伝達の調節に関わる酵素活性を持つことが知られていますが、論文によれば食物アレルギーや呼吸器アレルギーにおけるFKBP20-1のアレルゲン性はこれまで報告されていなかったとのことです。
研究チームは大腸菌(Escherichia coli)を使って、このFKBP20-1に対応する組換えタンパク質(rFKBP20-1)を作製し、SDS-PAGEという手法で単一のバンドとして精製できることを確認しました。この組換えタンパク質を用いたウエスタンブロットとELISA(酵素免疫測定法)では、患者の血清が強く反応する一方、アレルギーのない3名の対照者の血清では反応が見られませんでした。なお、天然のタンパク質スポットも組換えタンパク質のバンドも、計算上の分子量より大きい約25kDaの位置に現れており、著者らはこれをFKBP20-1に含まれるプロリンの多さが電気泳動での移動を遅らせている可能性によるものと考察しています。
この研究の限界と今後の課題
著者ら自身が強調しているように、この研究は患者1名と少数の対照者を調べた症例報告であり、FKBP20-1と交差反応性(似た構造の別のタンパク質にまで反応が及ぶこと)を意味のある形で評価できる規模ではありません。そのため、FKBP20-1への感作がどの程度モモアレルギーに特異的なものかは、あくまで示唆にとどまるとされています。また、この患者はPru p 1にも感作されていましたが、PR-10は通常口腔アレルギー症候群と関連するタンパク質であり、単独で全身反応を起こした例の報告は少ないといいます。運動や入浴、非ステロイド性抗炎症薬や胃酸を抑える薬の使用、飲酒といった、症状を悪化させる要因(コファクター)も今回は確認されなかったとのことで、著者らは今回の全身反応がPru p 1単独によるものか、FKBP20-1との共感作によるものかを明らかにするには、皮膚プリックテストや好塩基球活性化試験など、さらなる機能解析が必要だとしています。GRP・LTPに感作されたモモアレルギー患者や、モモアレルギーのない花粉症患者を含む、より大規模で明確に定義された集団での検証も今後の課題として挙げられています。
まとめ
この症例報告は、モモアレルギーの重症化予測に使われてきたGRPやLTPへの感作がなくても全身性のアレルギー反応が起こりうること、そしてその一因として、これまで報告のなかったFKBP20-1というタンパク質がIgEと結合するアレルゲン候補になりうることを示したものです。ただし、これは1名の患者を対象にした研究であり、結論が確立されたわけではありません。FKBP20-1の臨床的な意味づけを確かめるには、著者ら自身が述べているとおり、より大規模な集団を対象にした今後の研究が必要とされています。
原著論文の著者・所属:Naoshi Shimojo(Collaborative Department of Advanced Allergy and Immunology, Fujita Health University School of Medicine, Nagoya, Japan)、Masaki Okamoto(General Research and Development Institute, Hoyu Co., Ltd., Nagakute, Japan)、Fumiaki Ohno(General Research and Development Institute, Hoyu Co., Ltd., Nagakute, Japan)、Masashi Nakamura(Collaborative Department of Advanced Allergy and Immunology, Fujita Health University School of Medicine, Nagoya, Japan)、Kyoko Futamura(Collaborative Department of Advanced Allergy and Immunology, Fujita Health University School of Medicine, Nagoya, Japan)、Keiko Momma(Department of Food and Nutrition, Kyoto Women’s University, Kyoto, Japan)、Hiroshi Narita(Department of Food and Nutrition, Kyoto Women’s University, Kyoto, Japan)、Kayoko Matsunaga(Department of Dermatology and Allergy, Kariya Orthopedic Hospital, Kariya, Japan)、Akiko Yagami(Collaborative Department of Advanced Allergy and Immunology, Fujita Health University School of Medicine, Nagoya, Japan)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Naoshi Shimojo, Masaki Okamoto, Fumiaki Ohno, et al. A case of systemic peach allergy without sensitization to gibberellin-regulated protein and lipid-transfer protein: identification of FKBP20-1 as a potential allergen. アジア・パシフィック・アレルギー (2026). DOI: 10.5415/apallergy.0000000000000307. 原著ライセンス: cc-by.