日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Gerodontology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
歯を失うと噛みにくくなり、肉や魚などたんぱく質を含む食品を食べる量が減ると考えられています。これまでの研究でも、歯の数が少ない高齢者はたんぱく質の摂取量が少なく、身体機能が低い傾向が報告されてきました。筋肉の主成分はたんぱく質であるため、「歯が少ない→たんぱく質が不足する→筋肉や体力が落ちる→生活機能が低下する」という流れが想定されます。
ただし、この流れを数量的に確かめた研究は多くありません。先行研究の一つは、噛む力と歩く速さの関係をたんぱく質摂取が仲立ちしていると報告しましたが、一時点の調査だったため、どちらが原因かははっきりしませんでした。そこで研究チームは、時間を追って同じ人を調べるデータを使い、残っている歯の数と生活機能の低下との関係のうち、どの程度がたんぱく質摂取を通じたものなのかを評価しました。
どのように調べたか
研究チームは、全国規模の高齢者調査「日本老年学的評価研究(JAGES)」のうち、宮城県岩沼市で2016年、2019年、2022年に行われた調査のデータを用いました。対象は、調査開始時に日常生活で介助を必要としていなかった65歳以上の1400人です。
2016年に回答された自分の歯の本数をもとに、参加者を「20本以上」「10〜19本」「0〜9本」の3グループに分けました。2019年には食事内容を尋ねる質問票でたんぱく質の摂取量を推定しました。摂取量は主に、食事から得るエネルギー全体のうち、たんぱく質が占める割合として表しています。
主な結果指標は、2019年から2022年の間に介護保険の要介護認定を受けたこと、または死亡したことです。要介護認定は、身体と認知の両面の衰えを反映する指標として用いられました。あわせて、同じ期間の体重の変化率も調べました。
分析には「媒介分析」という手法が使われました。これは、歯の数と結果との関係を、たんぱく質摂取を経由する部分(間接効果)と、それ以外の部分(直接効果)に分けて推定する方法です。年齢、性別、体格、学歴、収入、喫煙・飲酒、持病、フレイル(虚弱)の程度などの影響も考慮されています。
主な結果
歯の数が多い人ほど、たんぱく質の摂取量はやや多い傾向がありました。エネルギー全体に占めるたんぱく質の割合の平均は、20本以上のグループで17.3%、10〜19本で16.7%、0〜9本で16.8%でした。また、期間中に要介護認定または死亡に至った人の割合は、20本以上で11.1%、10〜19本で13.2%、0〜9本で19.0%と、歯が少ないグループほど高くなっていました。
しかし媒介分析では、歯の数と要介護認定・死亡との関係を、たんぱく質摂取が仲立ちしているという結果は得られませんでした。歯が20本以上のグループと比べた間接効果は、どちらのグループでも実質的にゼロでした。動物性・植物性たんぱく質に分けても同様でした。
一方、体重の変化については、たんぱく質摂取を通じた間接的な関係が見られました。歯が10〜19本のグループでは、20本以上のグループと比べ、たんぱく質摂取を経由した体重変化率への影響が−0.09%と推定されました。0〜9本のグループでは、はっきりした間接効果は確認されませんでした。著者らは、この効果の大きさは控えめなものだと述べています。また、たんぱく質の摂取目標を満たしているかどうかで分析した場合には、この間接効果は弱まり、統計的に明確ではなくなりました。
研究が示すこと
著者らは、生活機能の低下について媒介効果が見られなかった理由として、追跡期間が比較的短く、時間をかけて進む機能低下を十分にとらえきれなかった可能性を挙げています。また、参加者の約7割がすでに国の摂取目標を満たしており、グループ間のたんぱく質摂取の差が小さかったことも影響した可能性があるとしています。体重は脂肪と筋肉を区別できない指標であることや、自己申告のデータであることも限界として示されています。
それでも研究チームは、残っている歯の数とたんぱく質摂取、生活機能の低下、体重減少の関係を、時間を追って媒介分析で評価した初めての研究だと位置づけています。歯の数と生活機能の低下とのつながりは、たんぱく質摂取だけでは説明できなかった一方、体重の減少については、歯の状態がたんぱく質摂取を通じて小さく関わっている可能性が示されました。著者らは、口の健康とたんぱく質摂取の両方に目を向けることが、高齢者の体重減少を防ぐ手がかりになりうると結論づけています。
著者:Urara Taguchi(Department of Nutritional Epidemiology and Behavioural Nutrition, Graduate School of Medicine The University of Tokyo Bunkyo City Tokyo Japan)、Sachiko Ono(Department of Eat‐Loss Medicine, Graduate School of Medicine The University of Tokyo Bunkyo City Tokyo Japan)、Minami Sugimoto(Department of Environmental and Occupational Health, School of Medicine Toho University Ota City Tokyo Japan)、Jun Aida(Department of Dental Public Health, Graduate School of Medical and Dental Sciences Institute of Science Tokyo Meguro Tokyo Japan)、Hiroyuki Hikichi(School of Medicine Kitasato University Minato City Kanagawa Japan)、Satoshi Sasaki(Department of Social and Preventive Epidemiology, School of Public Health The University of Tokyo Bunkyo City Tokyo Japan)、Ichiro Kawachi(Department of Social and Behavioral Science Harvard T. H. Chan School of Public Health Boston Massachusetts USA)、Kazuto Hoshi(Department of Oral‐Maxillofacial Surgery and Orthodontics, Graduate School of Medicine The University of Tokyo Bunkyo City Tokyo Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Urara Taguchi, Sachiko Ono, Minami Sugimoto, et al. Mediating Effect of Protein Intake on the Association Between Number of Remaining Teeth and Functional Decline. Gerodontology 2026-10-01. DOI: 10.1111/ger.70127. 原著ライセンス:CC BY.