著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。
掲載誌:Journal of Food Safety
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:はちみつに潜む「芽胞」への対策
はちみつは水分が少なく糖分が多いため、多くの微生物が増えにくい食品です。しかし、細菌の中には「芽胞(がほう)」と呼ばれる非常に丈夫な休眠状態の構造をつくるものがあり、こうした芽胞ははちみつの環境でも生き残ることがあります。論文によると、とくに問題となるのは、強力な毒素であるボツリヌス毒素を産生するボツリヌス菌(クロストリジウム・ボツリヌム)で、世界で消費されるはちみつの約15%にその芽胞が含まれているとする推定が先行研究で示されています。
芽胞は熱、放射線、乾燥、化学物質などに強く、通常の加工方法では取り除きにくいとされます。一方で、加熱を強めると、はちみつの品質指標であるヒドロキシメチルフルフラール(HMF、加熱や保存で増える成分)が増えるなど、品質が損なわれるおそれがあります。そこで研究チームは、微生物のDNAを傷つけて殺菌作用を示す紫外線C(UV-C)に着目しました。UV-C単独、UV-Cと紫外線B(UV-B)の併用、60℃で15分間の加熱とUV-Cの組み合わせの3つの処理が、はちみつ中の芽胞をどの程度減らせるか、またはちみつの品質にどう影響するかを調べることが本研究の目的です。
何をどのように調べたか
ボツリヌス菌そのものは危険性が高いため、研究チームは性質の近い代替菌としてクロストリジウム・スポロゲネスを用いました。試料には、ブラジル・ミナスジェライス州の養蜂場で得られた、オレンジの花由来の単花蜜(現地名ラランジェイラ)と、複数の花に由来する百花蜜(現地名シルベストレ)の2種類を使いました。粘り気や花の由来が異なる、性質の違うはちみつとして選ばれています。
事前に菌が検出されないことを確かめたはちみつ25gに、濃度をそろえた芽胞の液を加えてよく混ぜ、処理を行いました。紫外線処理では、はちみつをガラス皿に厚さ約1mmに広げ、紫外線ランプの下で30分間照射しました。加熱を組み合わせる処理では、60℃の湯せんで15分間温めたあとにUV-Cを当てています。60℃という温度は、はちみつの酵素活性が損なわれにくいとされる先行報告をもとに設定されました。
処理後には、活動状態の菌(栄養細胞)と芽胞をそれぞれ数えました。さらに、水分活性(微生物が利用できる水の量の目安)、水分、糖度、pH、色、電気伝導度、HMFの量、流れやすさ(レオロジー特性)なども測定し、品質への影響を確かめました。
主な結果:活動中の菌は減ったが、芽胞は減らなかった
論文の報告では、オレンジの花のはちみつでは、3つの処理のいずれでも栄養細胞の数が処理しないものに比べて統計的に有意に減少しました。百花蜜では、UV-C単独とUV-C+UV-Bの処理で有意な減少がみられました。たとえばオレンジの花のはちみつでは、処理しない場合に1gあたり対数値で4.29だった栄養細胞数が、UV-C処理後には3.83になっています。
一方、どの処理でも芽胞の数を有意に減らすことはできませんでした。著者らはその理由として、芽胞のDNAを守る特殊なたんぱく質の存在や、芽胞が寄り集まることで内側の芽胞が紫外線から守られる可能性を挙げています。また、はちみつは糖分や色素などを多く含み粘り気が強いため、光を吸収・散乱しやすく、紫外線が内部まで十分に届きにくいことも、効果が限られる要因として論じています。
品質面では、処理によって水分活性と水分が下がり、糖度と粘り気が上がりました。pHには統計的に有意な差はみられなかったと報告されています。水分はすべての試料で国際基準の上限である20%以内に収まり、HMFも許容される基準内でした。オレンジの花のはちみつでは処理後のHMFは処理しないものより低く、百花蜜では処理による有意な差はありませんでした。また、すべての試料が、力のかけ方によって粘り気が変わらない「ニュートン流体」としてふるまいました。
この研究が示すこと
研究チームは、UV-C処理は単独でも加熱と組み合わせても、はちみつの品質を保ちながら活動中の菌を減らせたと結論づけています。しかし、今回の条件では芽胞はほとんど減らず、はちみつの微生物学的な安全性を高めるには追加の対策が必要であることも示されました。品質を損なわずに扱える処理と、丈夫な芽胞を確実に減らすことの間に、なお隔たりがあることを具体的なデータで示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Maria Cecília Evangelista Vasconcelos Schiassi(Department of Food Science Federal University of Lavras, University Campus Lavras Minas Gerais Brazil)、Bruna Azevedo Balduino(Department of Food Science Federal University of Lavras, University Campus Lavras Minas Gerais Brazil)、Jhenifer Cristina Carvalho Santos(Department of Food Science Federal University of Lavras, University Campus Lavras Minas Gerais Brazil)、Tainah Morais Bueno(Department of Food Science Federal University of Lavras, University Campus Lavras Minas Gerais Brazil)、Ana Cristina Freitas de Oliveira Meira(Department of Food Science Federal University of Lavras, University Campus Lavras Minas Gerais Brazil)、Gabriela Fonsêca Leal(Department of Food Science Federal University of Lavras, University Campus Lavras Minas Gerais Brazil)、Roberta Hilsdorf Piccoli(Department of Food Science Federal University of Lavras, University Campus Lavras Minas Gerais Brazil)、Patrícia Aparecida Pimenta Pereira(Department of Food, School of Nutrition Federal University of Ouro Preto Ouro Preto Minas Gerais Brazil)、Jaime Vilela de Resende(Department of Food Science Federal University of Lavras, University Campus Lavras Minas Gerais Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Maria Cecília Evangelista Vasconcelos Schiassi, Bruna Azevedo Balduino, Jhenifer Cristina Carvalho Santos, et al. Effects of Ultraviolet Radiation and Heat Treatment on the Inactivation of Clostridium sporogenes Endospores in Honey. Journal of Food Safety 2026-10-01. DOI: 10.1111/jfs.70102. 原著ライセンス:CC BY.