この研究は、デンマーク、イギリスの研究機関の研究論文です。

掲載誌:GeroScience

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

健康的な食習慣は、心血管疾患やがんなどの病気のリスクを下げ、寿命にも関わると考えられてきました。近年は、老化の進み具合を血液から推定する指標として「エピジェネティック・クロック(エピジェネティック時計)」が使われています。これはDNAメチル化と呼ばれる化学的な修飾のパターンから生物学的な年齢を推定するもので、推定年齢が実年齢を上回る状態は「エピジェネティック年齢加速」と呼ばれ、加齢に関連する病気や死亡のリスクの高さと結びつくことが繰り返し報告されています。

これまでの横断的な観察研究では、食事の質が高い人ほどエピジェネティック年齢の加速が小さい、という関係が一貫して示されてきました。しかし観察研究では、食習慣と老化の両方に影響する遺伝的要因や育った環境といった「交絡」の可能性を完全には取り除けません。著者らは、この関係がどの程度そうした測定されていない交絡によるものなのかは分かっていないとして、一卵性双生児のデータを用いた検証を行いました。

何をどう調べたか

研究チームが用いたのは、デンマークの双生児コホートGEMINAKARのデータです。1997〜2000年の初回調査と2010〜2012年の追跡調査の両方に参加し、食事調査票・DNAメチル化データ・共変量がそろっている一卵性双生児132組(264人)が解析対象となりました。参加時の平均年齢は36歳で、54%が女性でした。

食事は、過去1年間の食品・飲料の摂取頻度を尋ねる質問票から評価し、2013年のデンマークの食事ガイドラインへの適合度を点数化した「デンマーク食事指標(DDI)」を算出しました。野菜・果物、魚、全粒穀物(食物繊維で代用)、肉、飽和脂肪酸、添加糖の6項目からなり、0点(まったく従っていない)から6点(完全に従っている)までの範囲をとります。老化の指標としては、実年齢をよく反映する第一世代のPCHannum・PCHorvath1、健康状態や死亡リスクの情報を取り込んだ第二世代のPCPhenoAge・PCGrimAge、そして年数ではなく老化の「速度」を推定するDunedinPACEの5つが用いられました。

解析の要になるのが、二種類の比べ方です。一つは参加者を個人単位で比較する方法。もう一つは、同じ双生児のペアの中で、二人の食事得点の差と老化指標の差を突き合わせる「双生児ペア内解析」です。一卵性双生児は遺伝情報を共有し、育った環境も共通しているため、ペア内で比べれば遺伝や共有環境による交絡を取り除けます。著者らは、初回時点・追跡時点の横断的な関係と、初回から追跡までの変化という縦断的な関係の両方を調べました。

報告された主な結果

著者らは、全体としてはどの解析でも強い関連は認められなかったと述べています。そのうえで、いくつかの傾向が報告されました。

個人単位の横断解析(初回時点)では、5つの指標すべてで推定値が負の方向、すなわちガイドラインへの適合度が高い人ほど老化指標が実年齢より若い方向を示しました。とくに顕著だったのはPCGrimAgeとDunedinPACEで、DDIが1点高いごとにPCGrimAgeで0.55〜0.67年の減速、DunedinPACEで3.1%の老化速度の低下に相当する大きさでした。この負の方向の傾向は追跡時点の横断解析でも同様に見られました。

ところが、同じ初回時点のデータを双生児ペア内で比較すると、この関連は見られなくなりました。著者らは、この減衰は個人単位の推定値が遺伝的要因や共有環境によって交絡されている可能性を示唆すると解釈しています。なお今回の対象は一卵性双生児のみで二卵性双生児が含まれていないため、遺伝の影響と共有環境の影響をさらに切り分けることはできなかったと述べられています。

さらに予想外だったのが縦断解析です。個人単位でもペア内でも推定値は主に正の方向で、初回から追跡までに食事得点が改善した人ほど老化指標が加速する方向を示しました。ただし信頼区間は広く、著者らはこのパターンの理由を明らかにするには下位集団を比べる解析が必要だが、該当する人数(17人)が少なすぎて今回は検討できなかったとしています。BMI・喫煙・身体活動を共変量に加えても結果はほとんど変わらず、これらの生活習慣要因の影響は小さいと報告されました。

この研究が示すもの

著者らは、横断的・個人単位の解析では従来の研究と一致して食事の質の高さとエピジェネティック老化の減速の関連が見られた一方、同じ関連が双生児ペア内解析でも縦断解析でも確認されなかった点を結論の中心に据えています。つまり、これまで報告されてきた食事と生物学的老化の関連の一部は、遺伝や共有環境による交絡を反映している可能性があるということです。

著者らはこの解釈自体、より大規模な研究で確かめる必要があると明記しています。また、対象が糖尿病・心血管疾患のない人から選ばれていること、食事が自己申告であること、標本規模が比較的小さく統計的検出力に限りがあることなども限界として挙げられています。観察研究である以上、逆の因果関係や双生児間で共有されない要因による交絡も否定はできません。

それでもこの研究は、食習慣と老化の関係を調べるうえで、同じ遺伝情報をもつ双子という「自然の対照群」を使うと見え方が変わりうることを具体的に示しました。観察研究で見えた関連がそのまま食事の効果を意味するとは限らない——研究デザインが結論を左右することを、実際のデータで浮き彫りにした報告といえます。

著者:Marianne Nygaard(https://ror.org/03yrrjy16 grid.10825.3e 0000 0001 0728 0170 The Danish Twin Registry, Department of Public Health University of Southern Denmark Odense Denmark)、Hannah R. Elliott(https://ror.org/0524sp257 grid.5337.2 0000 0004 1936 7603 MRC Integrative Epidemiology Unit University of Bristol Bristol UK)、George Davey Smith(https://ror.org/0524sp257 grid.5337.2 0000 0004 1936 7603 MRC Integrative Epidemiology Unit University of Bristol Bristol UK)、Caroline Relton(https://ror.org/00a0jsq62 grid.8991.9 0000 0004 0425 469X London School of Hygiene & Tropical Medicine London UK)、Kirsten Ohm Kyvik(https://ror.org/03yrrjy16 grid.10825.3e 0000 0001 0728 0170 The Danish Twin Registry, Department of Public Health University of Southern Denmark Odense Denmark)、Christine Dalgård(https://ror.org/03yrrjy16 grid.10825.3e 0000 0001 0728 0170 The Danish Twin Registry, Department of Public Health University of Southern Denmark Odense Denmark)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Marianne Nygaard, Hannah R. Elliott, George Davey Smith, et al. Dietary pattern and epigenetic aging: a longitudinal twin study. GeroScience 2026-09-26. DOI: 10.1007/s11357-026-02550-y. 原著ライセンス:CC BY.