2型糖尿病の管理というと、まず思い浮かぶのは「栄養の知識をしっかり身につけること」かもしれません。糖尿病について正しく理解し、望ましい食事の考え方を持てば、日々の食行動も自然と改善し、血糖コントロールも良くなる——そう考えるのは自然なことです。しかし、知識や態度と実際の食行動、そして血糖コントロールとの関係は、本当にそこまで単純なのでしょうか。今回紹介するのは、タイ東北部の農村地域に暮らす2型糖尿病患者を対象に、この関係を詳しく調べた研究です。
研究でわかったこと
この研究は、タイ東北部にあるヘルスプロモーティング・ホスピタル(地域保健を担う医療機関)に通う2型糖尿病患者70名を対象にした横断研究です。参加者は、HbA1c(過去1〜2か月の平均的な血糖値を反映する指標)が7%未満の「血糖コントロール良好群(36名)」と、7%以上の「血糖コントロール不良群(34名)」に分けられました。研究チームは、知識(Knowledge)・態度(Attitude)・実践(Practice)を評価する「KAPフレームワーク」を用いた半構造化質問票により、参加者の背景情報、身体測定値、体組成、血液検査値、そして栄養に関する知識・態度・食行動を調べました。さらに、平日2日と休日1日を含む「3日間の食事記録」をもとに、INMUCAL Nutrientsというプログラムで詳細な栄養摂取量を分析しています。
結果として、参加者全体では栄養知識が高い人の割合は71.4%、態度が「まあまあ良好」とされた人の割合は52.9%と、比較的高い水準にあった一方、適切な食行動ができている人の割合は58.6%にとどまり、知識や態度に比べるとやや低めでした。食行動については、血糖コントロール良好群と不良群の間で統計的に有意な差が見られました(p = 0.038)。
栄養摂取量の面では、血糖コントロール不良群は良好群と比べて、総エネルギー・炭水化物・単純糖・タンパク質の摂取量が有意に多いという結果が示されました。また、HbA1cおよび空腹時血糖値は、総エネルギー・炭水化物・単純糖・亜鉛の摂取量と正の相関を示し、タンパク質とリンの摂取量については空腹時血糖値のみと正の関連が見られました。一方で、ロジスティック回帰分析では、KAPの各領域(知識・態度・食行動)と血糖コントロールとの間に統計的に有意な関連は認められませんでした。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究の結果からは、農村部のタイ人2型糖尿病患者において、血糖コントロールは栄養知識や態度そのものよりも、実際の食事摂取パターンとより強く関連していることが示唆されています。言い換えると、「知っていること」と「実際に食べているもの」の間にはギャップがある可能性があるということです。研究チームは、こうした結果を踏まえ、地域の実情に合わせた、コミュニティに根ざした食事介入の必要性を指摘しています。
ただし、この研究は70名という限られた人数を対象にした横断研究であり、ある一時点での関連を見たものです。因果関係を証明するものではなく、他の地域や集団にそのまま当てはまるとは限りません。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意しながら読んでいただくのがよいでしょう。
まとめ
今回紹介した研究では、タイ農村部の2型糖尿病患者において、栄養知識や態度の水準は比較的高かったものの、適切な食行動の割合はやや低く、血糖コントロールの状態は知識や態度よりも実際の食事摂取内容(エネルギー・炭水化物・単純糖・タンパク質など)とより強く関連していることが報告されました。糖尿病の食事管理を考えるうえで、「知っている」ことと「実践できている」ことの違いに目を向ける一つの手がかりとなる研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:タイ農村部の2型糖尿病患者における栄養知識・態度・食行動・食事摂取量と血糖コントロールの関連(ダイアベトロジー・2026年07月)