パスタの原料といえば小麦粉が定番ですが、小麦アレルギーやグルテン不耐性を持つ人向けに開発される「グルテンフリーパスタ」は、風味や食感、栄養価の面で改善の余地が指摘されることがあります。今回紹介するのは、砂糖の原料となる甜菜(てんさい)を搾ったあとに残る副産物、「押出加工甜菜パルプ(ESBP)」を、グルテンフリーパスタに加えることでどのような変化が起きるかを調べた研究です。
甜菜パルプは砂糖製造の過程で生じる搾りかすで、通常は廃棄されたり飼料に回されたりする素材です。この研究で使われたESBPは、食物繊維を58.0%、タンパク質を6.2%、糖分を18.0%含んでおり、廃棄物を機能性のある食品素材として活用できないかという発想のもとに検討されています。
研究でわかったこと
研究チームは、通常のグルテンフリーパスタと、タンパク質を強化した「高タンパク質(HP)」タイプのグルテンフリーパスタのそれぞれに、ESBPをさまざまな割合で添加し、調理特性・食感・色・生理活性成分(ポリフェノールなど)・抗酸化活性・消費者による官能評価を調べました。
まず調理特性については、ESBPを加えるほど「調理損失(茹でている間にパスタから溶け出す成分の量)」が増える傾向が見られ、高タンパク質タイプで15%添加した場合には、無添加と比べて2.9倍にまで増加したと報告されています。食感については、ESBPの添加によって「切断仕事量(パスタを噛み切るのに必要な力の総量)」が増加し、高タンパク質タイプの15%添加では9.65 N·sに達したことから、パスタの内部構造がより結合しやすくなった可能性が示唆されています。一方で、機器で測った硬さそのものは比較的安定していたとのことです。
色については、ESBPの添加によって明らかな暗色化が見られました。通常タイプのパスタでは、15%添加した場合、茹でた後の明度(L*値、数値が高いほど明るい色)が70.8から56.2まで低下したと報告されています。
生理活性成分については、15%添加した場合にもっとも大きな増加が見られ、フェノール含量は72%増加し、ABTS法という手法で測定した抗酸化活性も有意に高まったとされています。さらに詳しい分析(HPLC-DADという手法)により、増加したフェノール成分の中心は「ヒドロキシ安息香酸類」、特にガリン酸と4-ヒドロキシ安息香酸であることが確認され、それぞれ最大48%、44%増加したと報告されています。
ただし、消費者による官能評価では、ESBPの添加量が10%を超えると受容性が明確に低下することがわかりました。高タンパク質タイプでは、総合的な受容性スコアが35%低下したと報告されており、その背景には「土っぽい香り」の強まりや、調理損失の増加が挙げられています。
これらの結果から、研究チームはESBPの効果はパスタの種類(通常タイプか高タンパク質タイプか)によって大きく異なることを指摘し、生理活性成分の向上と、技術的・官能的な品質のバランスを考えると、10%程度の添加が最適な妥協点になると結論づけています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、甜菜パルプというこれまで廃棄されがちだった副産物を、グルテンフリーパスタの機能性素材として使う可能性を探ったものです。フェノール成分の増加や抗酸化活性の向上が確認された一方で、添加量が多いと調理特性や色、消費者からの評価が低下するというトレードオフも同時に示されています。研究チーム自身も、今後はこれらのフェノール化合物が実際に体内でどの程度吸収されうるか(消化管での生体利用性)や、技術的な課題を克服する必要があると述べており、まだ研究の途上にあるテーマといえます。一つの研究の結果であり、実際の商品化や健康効果を保証するものではない点にも留意が必要です。
まとめ
甜菜パルプという食品副産物を活用することで、グルテンフリーパスタの生理活性成分や抗酸化活性を高められる可能性がある一方、添加量が多すぎると調理特性や風味、消費者受容性が損なわれることが、今回の研究で示されました。研究チームは10%程度の添加が、機能性と品質のバランスが取れた水準になりうるとしています。食品副産物の新たな活用法として、今後の研究の展開が注目されるテーマです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:押出加工した甜菜パルプ副産物がクラシックおよび高タンパク質グルテンフリーパスタの生理活性成分、抗酸化活性、品質に及ぼす影響(モレキュールズ・2026年07月)