日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

アサリ(学名 Ruditapes philippinarum)は、日本の干潟や内湾で採れる代表的な食用二枚貝です。論文によれば、国内の漁獲量は1983年に160,424トンでピークを迎えた後に減少し、2024年には4,439トン、ピーク時のわずか2.8%になったと報告されています。著者らは、この減少の原因を特定することを研究の目的とはしていません。むしろ、こうした状況が、いま手に入るアサリをどう活かすか、またアサリを補うような別の貝を評価できないか、という食資源の観点からの検討につながったと述べています。

注目されたのが、暖かい海にすむ近縁種のヒメアサリ(Ruditapes variegatus)です。見た目はアサリとよく似ていますが、別の種です。研究チームは、この貝の可食部の成分を調べた報告が既にある一方で、成分の詳しい分析と、遺伝子による種の確認、そして水分やタンパク質量を揃えた比較を組み合わせた食品科学的な検討は限られていると指摘しています。そこで著者らは、北海道の厚岸、宮城県の万石浦、中国産の市販品という3つのアサリ試料と、沖縄県石垣島のヒメアサリ試料を比べ、(1)4試料でどのような成分の姿が見られるか、(2)湿重量あたりのアミノ酸量の差は、乾物やタンパク質あたりに換算するとどれだけ縮まるか、(3)石垣島のヒメアサリは、さらに詳しく調べる価値のある成分だったか、という3点を検討しました。

どのように調べたか

試料は2025年1月にそろえられました。厚岸のものは漁業権への配慮から現地の市場で購入し、万石浦と石垣島のものは研究用に採取、中国産のものはスーパーマーケットで購入しています。各産地につき、軟体部(貝の身)およそ250グラム分をまとめて1つの分析用試料としました。1個体あたりの身がおよそ6グラムとすると、それぞれ40個体以上の身が混ざっている計算になります。ただし著者らは、この「まとめる(プール)」方式では産地ごとのばらつきを測れず、統計的な検定に必要な独立した繰り返しにはならないと明記しています。そのため本研究は、統計的に種や地域の差を検定するものではなく、4つの試料を記述的に比べる調査として設計されました。試料はすべて−80℃で冷凍保存したうえで、外部の分析機関に成分分析を委託しています。

分析されたのは、一般成分(水分、タンパク質、脂質、灰分、炭水化物)、アミノ酸組成、タウリン、ビタミンA関連物質やビタミンB12、ミネラル、脂肪酸です。なお脂肪酸は、4試料すべてで定量限界を下回ったため、主要な比較には用いられていません。石垣島の試料については、ミトコンドリアのCOIという遺伝子領域の塩基配列を読み取り、外見(特に水管の形)とあわせて種を確認しました。また、産地の環境を説明するための参考情報として、海面水温と人工衛星から得たクロロフィルa(植物プランクトンの量の目安)のデータも整理されていますが、これらは成分値との関係を統計的に検証するためには使われていません。

主な結果

湿重量(食べる状態の身の重さ)100グラムあたりの総アミノ酸量は、厚岸が8.670グラムで最も多く、次いで石垣島のヒメアサリが6.800グラム、万石浦が6.135グラム、中国産市販品が5.555グラムでした。厚岸の試料は水分が最も少なく、タンパク質が最も多く、アスパラギン酸やグルタミン酸、グリシン、アラニンなど量の多いアミノ酸のいくつかで最高値を示し、タウリンやビタミンA関連の値も比較的高い結果でした。ただし著者らは、今回の分析は総アミノ酸量を測ったもので、味に直接関わる遊離アミノ酸の部分を区別していないため、味の良し悪しを示すものではないと断っています。

興味深いのは、水分やタンパク質の濃さの影響を取り除いて換算すると、試料間の差がぐっと縮まった点です。乾物あたりでは507.0〜559.4 mg/g、タンパク質あたりでは829.1〜850.0 mg/gの範囲に収まりました。つまり、食べる状態での差の多くは、身に含まれる水分とタンパク質の濃さの違いを反映していたことになります。また、FAOの成人向け基準と照らし合わせた必須アミノ酸のバランスは4試料とも高く、消化率で補正していない値として97.1〜100という結果でした。いずれの試料でもバリンが最も低い比率のアミノ酸でした。

石垣島の試料は、遺伝子と形態の両面からヒメアサリであることが確認されました。COI配列の遺伝的距離は、アサリの参照配列との間で平均0.2975だったのに対し、石垣島の個体どうしでは平均0.0053で、アサリとははっきり異なる系統であることが示されています。そしてこのヒメアサリの成分値は、湿重量あたりでもタンパク質あたりでも、3つのアサリ試料の範囲の中に収まっていました。一方、中国産市販品については、正確な採取場所も、天然か養殖かも、流通の履歴も分からないため、著者らはこれを中国産アサリを代表するものとは扱わず、あくまで市販品という一つの参照例として位置づけています。

この研究が示すこと

この研究が伝えているのは二つのことだと言えます。ひとつは、貝の栄養成分を比べるときに「どの基準で測るか」が結果の印象を大きく変えるということ。食べる重さあたりで見える差が、水分やタンパク質の濃さを揃えると小さくなるという事実は、成分表の数字を読むうえでの基本的な注意点を具体的に示しています。

もうひとつは、外見がアサリに似ていて別種であるヒメアサリについて、遺伝子で種を確かめたうえでの成分データが用意されたことです。著者らは、この試料の値がアサリ試料の範囲内にあったことを、さらに繰り返しを伴う評価を行う根拠にはなるとしつつ、種としての栄養的な同等性や優位性を示すものではなく、アサリの代替品であることを立証したわけでもないと明確に述べています。ロットや季節をまたいだ繰り返し調査、取り扱いの標準化、安全性や食味の検討などが必要だという位置づけです。ひとつの丁寧に記述されたデータが、次に何を確かめるべきかをはっきりさせる——この研究は、そうした土台づくりの役割を担っています。

著者:Tomoyasu Yamazaki(Toyo Institute of Food Technology, 23-2, 4-Chome, Minami-Hanayashiki, Kawanishi 666-0026, Hyogo, Japan)、Kenji Okoshi(Toyo Institute of Food Technology, 23-2, 4-Chome, Minami-Hanayashiki, Kawanishi 666-0026, Hyogo, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tomoyasu Yamazaki, Kenji Okoshi. Nutritional Profiles of Ruditapes philippinarum and the Complementary Food-Resource Potential of the Warm-Water Clam Ruditapes variegatus. Foods 2026-08-28. DOI: 10.3390/foods15173038. 原著ライセンス:CC BY.