思春期は自分でお金を使って食べ物を選ぶようになる時期で、このとき身についた食習慣は大人になっても続きやすいといわれています。学校は生徒が長い時間を過ごす場所であり、健康的な食事を後押しできる重要な拠点として世界的に注目されてきました。しかしアフリカ東方のインド洋に浮かぶ島国コモロでは、学校の周りでどんな食べ物が売られているのかという基本的な実態調査がほとんど行われていませんでした。今回、コモロ最大の島であるグランドコモロ島の都市部・準都市部にある中学・高校を対象に、生徒が学校生活の中でどのような食べ物や飲み物にさらされているかを調べた研究が報告されました。
どうやって調べたのか
研究チームは、生徒数が多い2つの地区(都市部のモロニ・バンバオ地区と準都市部のイツァンドラ・アマンヴ地区)からそれぞれ4つの自治体を無作為に選び、公立・私立を合わせて32校の中学・高校を無作為に抽出しました。方法は複数を組み合わせています。まず32校の校長や教頭などに、給食制度の有無や食堂の運営状況などを尋ねる質問紙調査を実施しました。さらに、校内で食べ物を売る業者(13件)と、校門周辺で営業する屋台などの業者(15件)を対象に、その日実際に売られていた食品を32品目のリストに沿って直接観察しました。加えて、校内業者9人と校外業者16人には、健康的な食品を提供するうえでの難しさや、今の商売のやり方を変える意思があるかを尋ねる半構造化インタビューも行っています。売られていた食品は、非感染性疾患(生活習慣病)の予防に役立つとされる『健康的』な食品群(全粒穀物、豆類、種実類、緑黄色野菜、その他の野菜・果物など)と、摂取を控えることが推奨される『不健康』な食品群(加糖飲料、焼き菓子、揚げ物、加工肉、ファストフード、超加工されたしょっぱいスナックなど)に、国際的な食事指針の枠組みに沿って分類されました。
わかったこと
調査した32校のうち、給食制度を実施している学校はゼロで、食品の値引きなど生徒向けの支援を行っていたのはわずか1校でした。多くの生徒は自費で食べ物を買うか、家から昼食を持参するか、いったん帰宅するかのいずれかに頼っていました。14校には業者が運営する食堂やキオスクがあり、15校では校門付近に少なくとも1つの屋台などの業者が営業していました。校内の食堂で調理設備を備えていたのはわずか4校にとどまり、多くの業者は自宅で調理するか、調理不要の既製品を仕入れて売っていました。校内の販売所では、机やいすなど座って食べられる場所がある学校は13校中3校のみ、メニュー表示はゼロ、手洗い用の石けんが置かれていたのも3校のみで、その一方で塩や砂糖は多くの学校で自由に使える状態でした。
実際に売られていた食品を見ると、校内・校門周辺ともに、ケーキや菓子類、揚げ物(サンブーサやバジアと呼ばれる現地の揚げ菓子など)、清涼飲料水、市販の果汁飲料といったエネルギー密度が高く栄養価の低い食品が中心で、6割を超える業者がこうした菓子類やスナックを扱っていました。一方で果物や野菜、肉、魚、豆類はほとんど売られておらず、調査当日、校内の業者では肉・魚・豆類・緑黄色野菜を扱う業者はゼロでした。校門の外の業者の方がやや品ぞろえが良く、キャッサバなどの白い根菜(15件中7件)、鶏肉などの未加工の肉(15件中4件)、魚(15件中3件)、色の濃い果物(15件中2件)を扱う業者もいましたが、それでも全体としては不健康な食品が健康的な食品を大きく上回っていました。
インタビューからは、業者たちが健康的な食品を提供したくても踏み切れない事情が見えてきました。最大の理由は生徒の購買力の低さで、ある校内業者は「1人の子どもが持っているのは100~150コモロ・フラン(約0.3米ドル)ほど」と語っています。校内業者が見積もった生徒1人あたりの1日の飲食費は平均で約0.97米ドル(0.58~1.15米ドル)にとどまっていました。また、電気や冷蔵設備がないためヨーグルトなど傷みやすい健康的な食品を扱いにくいこと、家庭での手作りに頼らざるを得ず小麦粉などの材料費が高騰していることも、業者が挙げた障壁でした。校外の業者からは、これに加えて、生徒がすぐ食べられる既製のスナックを好む傾向や、売れ行きを保つには需要に合わせた商品を売らざるを得ないという事情も語られました。食品の安全性への配慮から、個包装された市販スナックの方が衛生的だと考えて選ばれている面もあるようでした。学校側からの規制やルールに言及した業者はごく一部で、菓子類や炭酸飲料の販売を校長から制限されていたと答えた業者は1人だけでした。それでも、校内・校外いずれの業者も、資金面・社会面・制度面での支援があれば、より健康的な食品を扱う意思はあると答えています。
この研究をどう読むか
この調査は32校というコモロの主要都市部の中学・高校のうち、およそ36%にあたる学校を対象にしており、著者らはこれを研究の強みの一つとして挙げています。ただし学校数自体は多くないため、統計的な検定は行われておらず、都市部と準都市部の違いを比較することもできていません。また、この研究は「学校の内外にどんな食品が売られているか」という供給側の実態を調べたものであり、生徒が実際に何をどれだけ購入し食べているか、食品の価格、生徒自身が学校の食環境をどう感じているかについてはデータが集められていません。それでも著者らは、実際の購買行動にかかわらず、すべての生徒が校内・校門周辺で不健康な食品にさらされている状況そのものを明らかにできた点を、この研究の目的として位置づけています。あくまで一つの横断的な調査であり、ここから得られた実態が今後の対策の出発点として示されたものと理解するのが妥当です。
まとめ
コモロの都市部・準都市部の中学・高校では、給食制度がほぼ存在せず、生徒は校内外の業者が売る菓子類や揚げ物、清涼飲料水といった不健康な食品に日常的にさらされていることが、この横断的な混合研究法による調査で示されました。業者側は資金力の乏しさや設備不足、生徒の購買力の低さ、明確なルールの不在といった制約の中で今の商品構成を続けている一方、条件が整えば健康的な食品提供に前向きな姿勢も示しています。著者らは、業者が抱える経済的な制約を減らすこと、生徒や保護者を含めた学校コミュニティを巻き込むこと、そして国や学校レベルでの制度的な後押しを整えることが、今後の学校食環境の改善に必要だと述べています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Housna Hassani, Moussa Mohamed Ahmed, Agnès Le Port, et al. Adolescents’ exposure to unhealthy foods and beverages in and around schools in urban Comoros: a cross-sectional mixed-methods study. ビーエムシー・パブリックヘルス (2026). DOI: 10.1186/s12889-026-28897-7. 原著ライセンス: cc-by.