年齢を重ねると聞こえが悪くなるのは自然な変化と考えられがちですが、その進み方には食生活が関わっているかもしれません。今回紹介する研究は、アメリカで長期間続けられている大規模な地域住民調査『アテローム性動脈硬化症リスクコミュニティ研究』のデータを使い、中年期に何をどれだけ食べていたかと、その後の高齢期の聴力との関連を調べたものです。
研究チームには、糖尿病や食事と慢性疾患の関係を専門とするジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院の研究者や、聴覚と公衆衛生を専門とする同大学コクレア難聴・公衆衛生センターの研究者、スペインのIMDEA栄養研究所の研究者らが名を連ねています。
中年期の食事内容と老年期の聴力を約30年間追跡
対象となったのは、研究開始時点で45〜64歳だった2773人です。参加者の食事内容は、信頼性が確認された食物摂取頻度調査票を用いて中年期に2回にわたって評価され、たんぱく質・脂質・炭水化物といった主要栄養素の摂取量に加え、『低炭水化物型』『低脂質型』といった食事パターンへの当てはまり具合も点数化されました。その後、最長で30年後にあたる高齢期の受診時に、0.25〜8キロヘルツの範囲の音を使う純音聴力検査によって、聞こえがよいほうの耳の聴力が測定されています。得られたデータは、年齢や他の主要な交絡要因を調整したうえで、複数の統計モデルを用いて解析されました。
たんぱく質摂取が多いグループで良好な聴力、脂質摂取が多いグループで悪い傾向
解析の結果、中年期に総たんぱく質の摂取量が最も多かったグループ(上位5分位)は、最も少なかったグループ(下位1分位)と比べて、特に中音域・高音域で聴力が良好な傾向がみられました。また、たんぱく質摂取量が多いグループでは、何らかの難聴を経験する見込みが低いことも示されており、その指標であるオッズ比は0.63(95%信頼区間0.47〜0.84)でした。難聴の程度別にみても、軽度難聴に対する相対リスク比は0.63(信頼区間0.46〜0.85)、中等度以上の難聴に対しては0.64(信頼区間0.44〜0.94)と、いずれもたんぱく質摂取量が多いグループでリスクが低いという関連が示されています。
一方、総脂質の摂取量が多いグループでは、聴力の状態がより悪い傾向と関連していました。逆に、脂質を控えめにする『低脂質型』の食事パターンへの当てはまりが強いグループほど、難聴の見込みが低いという関連もみられています。なお、総炭水化物の摂取量については、聴力との明確な関連は認められませんでした。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、食事内容と聴力という、これまであまり結びつけて語られてこなかった要素の関連を、長期間の追跡データを使って探ったものです。ただし、これは特定の集団を長期間観察して関連を調べた研究であり、たんぱく質摂取を増やせば難聴を防げる、あるいは脂質摂取を減らせば聴力が改善する、といった因果関係を直接証明するものではありません。食事以外の生活習慣や健康状態など、聴力に影響しうる要因が完全には調整しきれていない可能性もあります。一つの研究として示された関連であり、結論が確定したわけではない点に注意が必要です。
まとめ
中年期にたんぱく質を多く摂取していた人ほど、また脂質を控えめにする食事パターンを続けていた人ほど、高齢期の聴力が良好である傾向が示されたと報告されています。日々の食事が加齢に伴う聞こえの変化とどう関わるのかを考えるうえで、参考になる知見の一つといえそうです。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Humberto Yévenes-Briones, Casey M Rebholz, Esther Lopez-Garcia, et al. Association Between Mid-life Macronutrient Intake and Late-life Hearing Loss: The Atherosclerosis Risk in Communities Study. ジャーナルズ・オブ・ジェロントロジー・シリーズA (2026). DOI: 10.1093/gerona/glag214. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.