著者の所属・活動拠点の国は、ドイツ、イタリア、中国です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
献血は今の医療を支える欠かせない仕組みですが、世界で年間1億1800万単位以上の血液が集められている一方、多くの国で献血者の確保は簡単ではありません。献血には健康状態を確認する適格基準がありますが、この基準は明らかな病気を除外することが目的で、体重や生活習慣、食事内容といった、時間をかけて献血者の健康に影響しうる要素までは十分に捉えきれない可能性があります。イタリアの大学「マグナ・グラエキア」の臨床栄養部門などの研究グループが、成人の献血者698人を対象にオンライン調査を行い、栄養状態や生活習慣がどれほど多様であるかを調べました。
どのように調べたか
調査は2025年4月23日から9月6日にかけて、Googleフォームを使った無記名のウェブアンケートで実施されました。対象は18歳以上で、生涯に一度以上献血した経験がある男女です。回答は男性297人(42.6%)、女性401人(57.4%)の計698人から得られ、平均年齢は35.4歳でした。アンケートでは身長・体重、喫煙や運動などの生活習慣、食品群別の摂取頻度、栄養に関する知識、献血前後の食事の変化、鉄欠乏の既往、献血後の症状(疲労感やめまいなど)を尋ねています。食事の傾向は、主成分分析という統計手法でいくつかのパターンに整理したうえで、k平均法というグループ分けの手法を使い、参加者を似た食習慣ごとに分類しました。さらに、鉄欠乏の既往や献血後の症状に関係する要因を、年齢・性別・BMI(体格指数)・喫煙・運動習慣・食事パターンを同時に考慮した統計モデル(多変量ロジスティック回帰分析)で調べています。
わかったこと
まず体格については、過体重・肥満にあたる人がコホート全体のおよそ半数を占め、特に男性と高齢の献血者に多く見られました。平均BMIは男性26.22、女性24.70で、男性は肥満とまでは言えなくても過体重に分類される人が48.0%にのぼりました。一方、鉄欠乏の既往や献血後の症状を報告したのは女性に多く、統計モデルでも、女性であることは鉄欠乏の既往と強く結びついており(オッズ比4.62)、献血後の症状の起こりやすさとも関連していました(オッズ比3.07)。年齢が10歳上がるごとに献血後の症状の起こりやすさはやや下がる傾向も見られました(オッズ比0.73)。
食事の摂取頻度を見ると、男性は女性に比べて生肉・加工肉、ピザ、揚げ物、レトルト・調理済み食品、加糖飲料やワイン・ビールなどのアルコールを多く摂取していた一方、女性は果物・野菜の摂取頻度が高いという違いがありました。また、主成分分析とグループ分けの結果、食事パターンは大きく3つに分類されました。加工肉・揚げ物・調理済み食品・ピザ・加糖飲料が多い「欧米型・超加工食品型」、魚・果物・野菜・豆類・オリーブオイルが多い「地中海式に近い型」、ワインとビールの摂取が目立つ「混合飲酒志向型」です。若い献血者ほど欧米型・超加工食品型に分類されやすく、喫煙率も高く、運動習慣も少ない傾向が見られた一方、高齢の献血者は食習慣自体は地中海式に近く良好である一方、過体重・肥満の割合はむしろ高いという、一見矛盾するような特徴も示されました。ただし興味深いことに、この3つの食事パターンのどれに属するかは、鉄欠乏の既往や献血後の症状の起こりやすさとは統計的に独立した関連を示しませんでした。栄養に関する知識を問う6項目では、献血前後に水分をしっかり取ることへの理解は高かった一方、お茶やコーヒーが鉄の吸収を妨げるという知識は最も正答率が低い項目でした。また、食事の変化は献血後よりも献血前に報告されることが多く(献血前は41.0%が何らかの変化を報告、献血後は22.8%)、献血前は血液検査を意識してアルコールや加糖飲料、揚げ物などを控える人が多い一方、献血後に鉄分の多い食品を積極的に摂る人はそれほど多くありませんでした。
この研究を読むうえでの注意
この研究は、ある一時点での自己申告アンケートに基づく横断調査であり、体重や鉄欠乏の既往、献血後の症状はいずれも本人の申告によるもので、血液検査などの客観的な指標で確認されたものではありません。また、月経による出血量や閉経の有無、ホルモン避妊薬の使用といった、女性の鉄欠乏リスクに関わりうる情報は収集されていません。食事パターンと鉄欠乏・献血後症状との間に統計的な関連が見られなかった点についても、著者らは、鉄の状態は食事だけでなく吸収のされやすさや献血の頻度、個人差のある造血反応など複数の要因が絡み合うためではないかとしており、この一つの調査だけで食事の影響がないと結論づけられるわけではありません。今回の対象や方法に日本の研究機関や日本特有の食品・食習慣への言及は見当たりませんでした。著者らは、献血者向けの栄養指導や生活習慣に着目した予防的な関わりが役立つ可能性を挙げていますが、それが実際に長期的な健康維持や献血の継続にどうつながるかは、今後の追跡調査や介入研究で確かめる必要があるとしています。
まとめ
今回の調査では、献血の適格基準を満たしている人々の中にも、体格や生活習慣、食事内容の面でかなりの多様性があることが示されました。特に女性は鉄欠乏や献血後の体調不良を報告しやすく、男性や高齢の献血者では過体重・肥満が目立つなど、性別や年齢によって注意すべき点が異なる可能性がうかがえます。ただしこれは一つの横断調査の結果であり、因果関係を示すものではなく、今後さらに研究を重ねて確かめていく必要があります。
原著論文の著者・所属:Elisa Mazza(Department of Clinical and Experimental Medicine, University Magna Græcia)、Samantha Maurotti(Department of Clinical and Experimental Medicine, University Magna Græcia)、Yvelise Ferro(Department of Medical and Surgical Sciences, University Magna Græcia, Catanzaro, Italy)、Francesca Rita Noto(Department of Medical and Surgical Sciences, University Magna Græcia, Catanzaro, Italy)、Carmelo Pujia(Clinical Nutrition Unit, AOU “Renato Dulbecco”)、Nancy Paone(Department of Medical and Surgical Sciences, University Magna Græcia, Catanzaro, Italy)、Alessia Sestito(Clinical Nutrition Unit, AOU “Renato Dulbecco”)、Marta Moraca(Clinical Nutrition Unit, AOU “Renato Dulbecco”)、Ilda Fatima Martino(Department of Clinical and Experimental Medicine, University Magna Græcia)、Arturo Pujia(Department of Medical and Surgical Sciences, University Magna Græcia)、Tiziana Montalcini(Department of Clinical and Experimental Medicine, University Magna Græcia)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Elisa Mazza, Samantha Maurotti, Yvelise Ferro, et al. Beyond donor eligibility: nutritional and lifestyle heterogeneity and implications for long-term donor health preservation. フロンティアーズ・イン・ニュートリション (2026). DOI: 10.3389/fnut.2026.1903623. 原著ライセンス: cc-by.