この研究は、イタリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:BioTech

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

「活性酸素は悪者」という見方を問い直す

運動をすると、筋肉の中では活性酸素や活性窒素と呼ばれる反応性の高い分子(まとめてRONS)が一時的に増えます。かつては細胞を傷つける「悪者」とみなされがちでしたが、近年は、適度で一時的なRONSの増加が、ミトコンドリア(細胞のエネルギー工場)を増やしたり、体にもともと備わった抗酸化の守りを強めたりする「合図」として働くことが分かってきました。

そこで栄養学では難しい問題が生じます。過剰な酸化ストレスは回復を妨げますが、抗酸化物質で合図そのものまで消してしまえば、トレーニングの効果も弱まりかねません。この総説で著者は、野菜、果物、豆類、全粒穀物、ナッツ、エキストラバージンオリーブオイル、魚を組み合わせる地中海食が、活性酸素を単に消し去る(スカベンジする)働きを超えて、運動に応じた体内の信号伝達をどのように調整しうるのかを検討しています。

何をどのように調べたのか

本論文は、既存の研究を幅広く読み解いて考え方を整理する「ナラティブレビュー(叙述的総説)」です。著者は2000年1月から2026年8月までに主要な医学文献データベースに収載された論文を中心に、細胞実験、動物実験、人を対象とした観察研究、比較対照を置いた人での介入研究を検討しました。網羅的な系統的レビューではなく、結果を統計的に統合する解析も行っていません。

特徴は、証拠を二つの軸で区別して扱った点です。一つは研究の種類で、細胞や動物の実験は「仕組みとしてあり得るか」を示すもの、人の観察研究は「関連」を示すもの、人の対照試験は効果を判断する際に最も重く見るもの、と位置づけています。もう一つは摂取の形で、食事パターン全体、個々の食品、成分を一定にそろえた抽出物、単一成分の高用量サプリメントを別々に評価しました。名目上は同じ成分を含んでいても、量や吸収のされ方、体内でできる代謝物が大きく異なるためです。

主な報告内容

著者らがまず強調するのは、「食べたもの」と「体の組織が実際に触れるもの」は違うという点です。ポリフェノールの多くはそのままの形ではあまり吸収されず、肝臓などで化学的に修飾された形や、腸内細菌によって分解・変換された小さな分子として血液中に現れます。そのため、試験管内で測った抗酸化力や、元の化合物を高濃度で細胞に与えた実験の結果を、そのまま人の体に当てはめることはできないと論文は指摘しています。食品の組織構造や加熱・加工、品種や熟度も、吸収される成分を変えるとしています。

腸内細菌の役割も取り上げられています。食物繊維は腸内細菌によって短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)に変えられ、炎症やエネルギー代謝に影響しうると考えられています。論文で紹介されている人での研究では、持久力トレーニング中に地中海食を取り入れると腸内細菌の構成が変わり、血中のプロピオン酸と酪酸が増え、同時に最大酸素摂取量(持久力の指標)も向上しました。ただし著者は、これは並行して見られた関連であり、これらの代謝物がトレーニング効果の向上を直接もたらしたことは示されていないと述べています。

人での研究全体については、方法や対象者、運動の種類、期間などがばらばらで、一部の持久力、代謝、血管、回復に関わる指標で利点の可能性が示されるものの、運動能力を一貫して高める効果を支持するものではないとまとめています。回復を早めるという証拠も限られているとされます。

一方、ビタミンCやEなどの高用量抗酸化サプリメントについては、トレーニングに対する一部の分子レベルの反応を弱める可能性があることが報告されています。ただし体力や競技成績への影響は研究によって一様ではありません。著者は、これは抗酸化物質を多く含む食品を否定するものではなく、成分の形や量、摂り方によって体の反応が変わることを示しており、サプリメントと食品を同等に扱うべきではないとしています。

この総説が示すもの

著者は、地中海食の役割を「活性酸素を消すこと」ではなく、運動による合図がうまく働き、回復し、適応が進むための体内環境を整えることにあるかもしれない、と捉え直しています。そのうえで、何をどの形で食べ、それが体内でどのような代謝物になって届くのかという「実際の曝露」に注目し、まず食品から考える枠組みが、食事と運動の関係をよりよく説明しうると提案しています。仕組みとしてのもっともらしさと、人で実証された効果とを区別して読むことの大切さを示した整理といえます。

著者:Stefania D’Angelo(Department of Medical, Human Movement, and Well-Being Sciences (DiSMMeB), University of Naples Parthenope, 80133 Naples, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Stefania D’Angelo. Beyond Antioxidant Scavenging: Mediterranean Diet, Redox–Metabolic Integration, and Exercise Adaptation. BioTech 2026-10-06. DOI: 10.3390/biotech15040088. 原著ライセンス:CC BY.