著者の所属・活動拠点の国は、中国、アメリカです。
掲載誌:Insects
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ニラの根や茎を食害するクロバネキノコバエの一種、ブラディシア・オドリファガ(Bradysia odoriphaga)は、ニラ、タマネギ、ニンニク、ショウガなど30種以上の作物に被害を与える土壌害虫です。論文によると、中国北部ではニラの生産量を30〜80%減らすことがあり、主な対策は化学殺虫剤です。しかし、繰り返し使うことで抵抗性の発達、環境汚染、野菜への残留が問題になっています。
著者らが注目したのは、「タイガーフライ」とも呼ばれる捕食性のハエ、コエノシア・アテヌアタ(Coenosia attenuata)です。成虫は飛んでいる小さな昆虫を捕らえ、幼虫は土の中でキノコバエ類の幼虫などを食べます。研究チームの以前の実験室研究では、成虫1匹が1日に約18.5〜24匹の害虫成虫を捕食したと報告されています。ただし、害虫の成虫は寿命が数日と短く、タイガーフライのほうが長く生きます。そのため、害虫が減ったときに天敵が餌不足で減ってしまうおそれがあります。
そこで研究チームは、天敵の餌と住みかを補う工夫を加えることで、タイガーフライを長く定着させ、害虫の抑制効果を高められるかを検証しました。
どのような実験を行ったか
試験は中国・天津の温室で行われました。網で囲った15個のケージを設置し、各ケージにニラの鉢を10鉢ずつ置きました。比較は、天敵を放さない対照区と4種類の処理区で、それぞれ3ケージずつ用意されました。処理区は、タイガーフライだけを放す区、土の表面にココナッツ繊維(ココヤシ繊維)の被覆層を敷く区、「バンカー資材」を加える区、そして被覆層とバンカー資材を組み合わせる区です。
バンカー資材とは、天敵が害虫以外の餌でも生き延びられるよう、代わりの餌を用意しておく仕組みです。この研究では、バナナを餌源として、ニラに害を与えないショウジョウバエを代替の餌にしました。ココナッツ繊維の被覆層は、天敵の産卵や幼虫の生育の場を整える目的で使われています。
試験は2025年5月6日に始まり、約50週間続きました。害虫と天敵の数を毎週数え、対照区と比べて害虫がどれだけ減ったかを示す「補正防除率」を節目ごとに算出しました。ニラの草丈、葉の緑の濃さの指標となるクロロフィル値、乾燥重量も4週間ごとに測定しています。
主な結果
タイガーフライを放したすべての処理区で、害虫の幼虫と成虫は試験期間を通じて抑えられました。幼虫に対する補正防除率は、バンカー資材を加えた区で試験開始3週目に73.03%、40週目には100%に達したと報告されています。試験終盤の50週目には、バンカー資材を使った2つの区が、被覆層だけの区より有意に高い幼虫防除率を示しました。また40週目には、被覆層やバンカー資材を加えた3つの区がいずれも、天敵だけの区より幼虫防除率が高くなりました。
成虫についても、工夫を加えた区は天敵だけの区より高い防除率を示す時期がありました。最も気温が低かった30週目には、被覆層を使った2つの区の成虫防除率が、ほかの区より有意に高くなっています。なお、10週目と20週目は夏の高温で、対照区も含めて害虫がほぼ全滅したため、防除率は算出できませんでした。著者らは、この高温自体が害虫を抑える要因になったと考えています。
ニラの生育を見ると、1年間に積算した乾燥重量は、対照区の29.28 gに対し、処理区では58.00〜63.03 gでした。4つの処理区はいずれも対照区より有意に多く、約98〜115%の増加にあたります。一方、草丈とクロロフィル値には、ほとんどの測定日で処理による差がみられませんでした。そのため著者らは、これらは根や茎の被害を評価する指標には向かないと述べています。また、被覆層とバンカー資材を組み合わせても、相乗効果は確認されませんでした。
研究が示すこと
この研究は、捕食性のハエであるタイガーフライが、温室栽培のニラで土壌害虫を抑えられることを示しました。さらに、代わりの餌を用意するバンカー資材や、ココナッツ繊維の被覆層を補助として加えることで、その効果が高まる場合があることも報告しています。著者らは、これらの工夫を天敵利用を支える補助的な手段と位置づけ、化学殺虫剤への依存を減らす総合的な害虫管理につながるものとしてまとめています。
原著論文の著者・所属:Deyu Zou(Institute of Plant Protection, Tianjin Academy of Agricultural Sciences, Tianjin 300384, China)、Huihui Wu(College of Horticulture and Landscape, Tianjin Agricultural University, Tianjin 300392, China)、Thomas A. Coudron(Biological Control of Insects Research Laboratory, USDA-Agricultural Research Service, Columbia, MO 65203-3535, USA)、Yang Liu(College of Horticulture and Landscape, Tianjin Agricultural University, Tianjin 300392, China)、Haiyan Ben(Institute of Plant Protection, Tianjin Academy of Agricultural Sciences, Tianjin 300384, China)、Weihong Xu(Institute of Plant Protection, Tianjin Academy of Agricultural Sciences, Tianjin 300384, China)、Jingyang Xu(Institute of Plant Protection, Tianjin Academy of Agricultural Sciences, Tianjin 300384, China)、Yuqiu Cong(Institute of Plant Protection, Tianjin Academy of Agricultural Sciences, Tianjin 300384, China)、Yuxin Bu(College of Horticulture and Landscape, Tianjin Agricultural University, Tianjin 300392, China)、Boxuan Hu(College of Horticulture and Landscape, Tianjin Agricultural University, Tianjin 300392, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Deyu Zou, Huihui Wu, Thomas A. Coudron, et al. Biological Control of Bradysia odoriphaga Using Coenosia attenuata with Banker Media System and Mulch Layer. Insects 2026-10-15. DOI: 10.3390/insects17101063. 原著ライセンス:CC BY.