この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Chemistry X
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
果物は栄養価が高い一方で水分が多く傷みやすいため、加工による保存は古くから重要な役割を果たしてきました。砂糖漬け(キャンディング)は、高濃度の砂糖によって食品中の「水分活性」(微生物が利用できる水の量の指標)を下げ、腐敗の原因となる細菌やカビの増殖を抑える伝統的な保存法です。同時に、糖と有機酸の組成や香り、食感を変化させ、素材を付加価値のある製品へと変えます。
この研究が扱ったのはウメ(Prunus mume)です。ウメは東アジアで広く栽培され、中国が主要な生産地となっています。果実には有機酸やポリフェノールなどが豊富に含まれる一方、成熟が早く収穫後に傷みやすいため、砂糖漬けをはじめとする加工が盛んに行われています。
著者らが注目したのは、原料となる果実の産地の違いが、同じ条件で加工した後の製品にも残るのかという点です。これまでのウメやモモ、オウトウなどの研究の多くは生の果実を対象としており、加工後の砂糖漬けウメについて、香気成分と非揮発性成分、品質特性を同時に調べた研究は限られていました。そこで研究チームは、産地に由来する化学的な違いが、統一した加工条件で作った砂糖漬けウメにどのように現れるかを明らかにすることを目的としました。
調べ方
研究チームは、2025年5〜6月の同じ収穫期に、中国の主要産地5省にまたがる14か所からウメ果実を集めました。熟度の基準をそろえ、傷や病気のある果実を除いたうえで、産地ごとに3つの独立した反復試料を用意しています。加工は全産地で同一条件とし、塩で下漬けした後に洗浄・乾燥し、果実重量の50%の砂糖と混ぜて室温で5日間置く方法をとりました。
できあがった砂糖漬けウメについて、可溶性糖と有機酸の量、総ポリフェノール量・総フラボノイド量、および抗酸化に関する指標(ABTS法、DPPH法、還元力)を測定しました。香りの成分は、加熱した試料の上部空間にたまった揮発性成分を繊維に吸着させて分析する手法(HS-SPME)とガスクロマトグラフ質量分析計を組み合わせて調べ、非揮発性の代謝成分は高速液体クロマトグラフィー質量分析で網羅的に測定しています。
得られたデータの解析には、主成分分析などの多変量解析に加えて、においの強さを閾値との比で評価する相対オドラー活性値(ROAV)、似た増減パターンを示す成分をグループ化する重み付き相関ネットワーク解析(WCNA)、そして機械学習のランダムフォレストにSHAPという解釈手法を組み合わせた手法が用いられました。ただし著者らは、この機械学習による解析は候補となる成分を絞り込むためのものであり、産地を決定づける確定的な指標ではないと位置づけています。
報告された主な結果
同じ加工条件をとったにもかかわらず、14産地の砂糖漬けウメには基本的な品質特性の明確な差が認められたと報告されています。総可溶性糖が最も高かったのはMB(12.06±0.25 mg/g)で、甘み寄りの組成を示しました。対照的にCXは有機酸が最も多く(13.31±0.15 mg/g)、糖が最も少なかったため(1.14±0.17 mg/g)、糖酸比は最小の0.09±0.01となりました。糖酸比が最も高かったのはCZ(1.87±0.26)です。機能性に関わる指標でも差があり、DLは総ポリフェノール量が最も高く、LJはDPPHによる評価と還元力、総フラボノイド量で最も高い値を示しました。
香気成分については、全試料を通じて75種類の揮発性成分が暫定的に同定され、アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、テルペノイドなど9つの化学分類に整理されました。1産地あたりで検出された成分数は6〜37と幅があります。省ごとに傾向は異なり、広東省と福建省ではアルコールが全体の約67%を占めた一方、四川省は特定の分類が突出せず、テルペノイド・酸・アルカンが混在する構成でした。雲南省と浙江省はいずれもアルコールとアルデヒドが中心でしたが、著者らは、分類レベルの割合が似ていても個々の成分の種類と量は異なっており、成分ごとににおいの閾値が大きく違うため、香りの印象が同じになるとは限らないと述べています。
さらに、同じ省の中でも産地ごとの違いが大きいことが示されました。たとえば四川省では、MBがリナロールなどのテルペン系、DYがベンズアルデヒド中心のアルデヒド系、DZがノナン酸などの酸系というように、それぞれ異なる特徴を示しています。WCNAによる解析では、75成分が8つの共変動モジュールに分かれ、PWやDZ、MBなど一部の産地は特定のモジュールと強く結びついた一方、他の産地ではそうした集中的な対応は弱いという違いが報告されました。
この研究が示すこと
著者らは、産地に由来する化学的な違いが、統一した砂糖漬け加工を経た後の製品にも残ることを示しました。甘み寄り、酸味寄り、ポリフェノールや抗酸化指標が高いといった特徴は産地ごとに異なり、どれか一つが最良というより、それぞれ異なる持ち味として現れています。
香りに関しても、産地の違いは単一の成分ではなく、複数の化学分類にまたがる成分の組み合わせと、成分どうしの協調した増減パターンとして現れていました。産地による品質の違いを化学的な根拠とともに整理したこの報告は、砂糖漬けウメという加工品を理解するうえでの手がかりを与えるものです。
著者:Jia-li Liao(Department of Forestry, Faculty of Forestry, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Yi-xiao Xiao(Department of Forestry, Faculty of Forestry, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Jia-xin Zhong(Department of Forestry, Faculty of Forestry, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Yi-jing He(Department of Forestry, Faculty of Forestry, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Wen-zhang Qian(Department of Forestry, Faculty of Forestry, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Ji-cheng Chen(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forest University, Fuzhou 350002, China)、Jinlin Guo(Key Laboratory of Characteristic Chinese Medicine Resources in Southwest China, College of Pharmacy, Chengdu University of Traditional Chinese Medicine, Chengdu 611137, China)、Shun Gao(Department of Forestry, Faculty of Forestry, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jia-li Liao, Yi-xiao Xiao, Jia-xin Zhong, et al. Origin-dependent chemical profiles and quality differentiation of candied Prunus mume: Insights from metabolomics, GC–MS volatile profiling, and interpretable machine learning. Food Chemistry X 2026-09-02. DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104391. 原著ライセンス:CC BY.