大麦は食物繊維が豊富な穀物として注目され、麦ご飯として日常的に食べられています。中でもβ-(1,3)-(1-4)グルカンという水溶性食物繊維は、食後の血糖値上昇を抑えたり血中コレステロールを整えたりする機能性が報告され、機能性表示食品の素材としても使われています。しかし健康によいとわかっていても、においが強かったり、酸味や苦味が気になったりすると、毎日続けて食べるのは難しくなります。この記事で紹介する研究は、大麦特有の酸味の原因とされる有機酸に着目し、精米ならぬ「洗麦」という処理によって食味を改善できるかを調べたものです。

酸味の原因とされる「リンゴ酸」に着目

研究グループは、事前の調査で酸味が強いと評価されていた大麦の系統「HK73」を材料に選びました。大麦の食味が落ちる要因として、有機酸の一種であるリンゴ酸が関係しているという報告がすでにあることを踏まえ、リンゴ酸は水に溶けやすい性質を持つ点に注目しました。そこで、原料に対して60%まで搗精(とうせい、外皮を削る精麦処理)した大麦200グラムを1リットルの水道水に浸け、10分間の静置と攪拌、水の入れ替え、続けて30分間の静置と攪拌、水の入れ替え、最後に120分間の静置という手順で「洗麦」処理を行いました。水を切った後は55℃で3日間、風を通しながら乾燥させて試料を仕上げています。できあがった試料については、リンゴ酸の含有量を分析するとともに、人が実際に食べて評価する官能評価も実施し、両者の関係を調べました。

洗麦でリンゴ酸は減ったが、それだけでは説明できない結果も

分析の結果、洗麦処理を行った大麦ではリンゴ酸の含有量が大きく低下していました。官能評価でも、酸味や酸っぱいにおいが弱まったと評価されており、洗麦によってリンゴ酸が水に溶け出し、食味の改善につながったことがうかがえます。一方で興味深い点として、比較対象として用意された品種「はねうまもち」は、洗麦処理をしたHK73よりもさらに酸味が弱いと評価されました。この結果から研究グループは、大麦の酸味や食味の低下にはリンゴ酸だけでなく、ほかの酸味成分や、えぐみ・収斂味(渋みに似た口当たり)に関わる物質など、複数の要因が複合的に影響している可能性を指摘しています。

この研究の位置づけ

この研究は、日本調理科学会大会の研究発表要旨として報告されたもので、著者にはmayu owada氏、Natsumi Kaneko氏、Koji Shimada氏、Yuki Nakano氏、Takashi Nagamine氏が名を連ねており、日本の研究機関に所属する著者が含まれています。麦ご飯として大麦を日常的に取り入れる日本の食習慣を背景に、食味という身近な切り口から研究が行われている点は、読者にとっても親しみやすい視点といえます。ただし、この報告は特定の系統(HK73)を対象とした一つの実験結果であり、洗麦処理によって酸味やにおいが必ず改善されると断定できるものではありません。また、比較品種のほうが酸味が弱かったという結果が示すとおり、食味の良し悪しはリンゴ酸以外の要因にも左右されると考えられ、今後さらに要因を絞り込む研究が必要とされる段階の知見です。

まとめ

この研究では、酸味の強い大麦を水に浸けて洗い流す「洗麦」処理により、リンゴ酸の含有量が減り、酸味や酸臭が和らぐ傾向が確認されたと報告されています。同時に、大麦の食味を左右する要因はリンゴ酸だけではなく、複数の物質が関わっている可能性も示されました。日々の食卓に取り入れやすい大麦の「おいしさ」を高める工夫として、今後の研究の広がりが期待される分野です。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:mayu owada, Natsumi Kaneko, Koji Shimada, et al. 洗麦処理による大麦の食味改善への影響. 日本調理科学会大会研究発表要旨集 (2026). DOI: 10.11402/ajscs.37.0_77.