この研究は、リビアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Al-Farooq Journal of Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ魚介類の水銀を調べるのか

水銀は環境中に長く残る汚染物質で、水域の生物の体内に蓄積し、魚介類を食べることを通じて人の食事にも入り込みます。そのため、食品の安全性を評価したり環境を監視したりするうえで、魚介類にどれだけ水銀が含まれているかを把握することが重要だと著者らは述べています。

この研究で著者らが目指したのは、いくつかの魚介類の試料について総水銀の濃度を測定し、互いに比較することでした。対象に選ばれたのは、イカ、エビ、生鮮魚(サバ)、そして缶詰の魚です。あわせて、用いた分析手順そのものが信頼できるかどうかも、検量線の直線性・回収率・繰り返し測定のばらつきという観点から確認されています。

どのように測定したか

著者らは、すり潰して均一にした魚介類の試料を約0.20グラム取り、濃硝酸とともに密閉容器に入れ、電子レンジと同じマイクロ波の加熱を利用する装置で分解しました。これは、試料の組織を酸で溶かし、含まれる水銀を測定できる状態にするための前処理です。

測定には冷蒸気原子吸光法(CVAAS)と呼ばれる手法を使い、NIC RA-3000という水銀分析装置で行いました。この方法では、溶液中の水銀を常温で気体(蒸気)に変えて取り出し、光の吸収の度合いから量を求めます。さらに、試料に含まれる他の成分が測定値を狂わせる「マトリックス効果」を抑えるため、標準添加法(測定したい試料そのものに既知量の水銀を加えて比較する方法)が用いられました。

報告された結果

著者らの報告によれば、測定の基準となる検量線は良好な直線性を示し、決定係数(R²)は0.9883から0.9956の範囲でした。回収率は65%から102%、缶詰魚での繰り返し測定のばらつき(RSD)は5.57%と報告されています。

測定された総水銀濃度は、イカが1.74 ppb、エビが1.22 ppb、生鮮魚が5.69 ppb、缶詰魚が6.92 ppbでした。ppbは10億分の1を表す濃度の単位です。検討された試料の中では缶詰魚の値が最も高く、エビが最も低いという結果になりました。

ただし著者ら自身が、試料の数が限られた設計であるため統計的な一般化はできないと明記しています。缶詰魚の値が高かったことを缶詰加工のせいだとすることもできない、と述べられています。著者らは今後の課題として、より多く代表性のある試料、独立した生物学的反復、包括的な分析法の検証、そして水銀の化学形態を区別する分析(スペシエーション)を挙げています。

この研究が示すこと

この研究は、マイクロ波分解と冷蒸気原子吸光法を組み合わせた手順で、魚介類に含まれるごく微量の総水銀を実際に測定し、種類によって濃度に違いがあることを示した報告です。同時に、限られた試料数から結論を広げることの難しさを著者ら自身が慎重に指摘している点も、この報告の特徴と言えます。

著者:Omema Khalid Atia(Department of Chemistry -Faculty of Education Ajelat, University of Zawia, Libya)、Safa Abd Alwahhab Albakkoush(Department of Chemistry- Faculty of Education Zaltan -Sabratha University- Libya)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Omema Khalid Atia, Safa Abd Alwahhab Albakkoush. Determination of Total Mercury in Selected Seafood Samples Using Cold Vapor Atomic Absorption Spectrometry (CVAAS). Al-Farooq Journal of Sciences 2026-09-19. DOI: 10.65405/pj51wh88. 原著ライセンス:CC BY.