脳梗塞のなかでも、太い血管の動脈硬化が原因で起こるタイプ(大血管アテローム性脳梗塞)は、発症後の回復の程度に個人差が大きいことが知られています。リハビリや治療だけでなく、患者さんがそれまでどのような食生活を送ってきたかが、その後の経過に関係している可能性はあるのでしょうか。今回、中国・浙江省の2つの病院で実施された多施設共同のコホート研究が、この問いに切り込みました。長年の食習慣の違いと、血液中の多価不飽和脂肪酸(PUFA、いわゆるω-3やω-6脂肪酸を含む一群の脂肪酸)のプロファイルに注目し、脳卒中から1年後の回復状態との関連を調べたというユニークな研究です。
研究でわかったこと
この研究は、2022年6月から2024年12月にかけて、大血管アテローム性脳梗塞と診断され入院した410名の患者を対象とした後ろ向きの多施設コホート研究です。対象者は長年の食事背景によって、魚介類を中心とした食生活を送ってきたグループ(210名)と、内陸部に多い混合・雑食型の食生活を送ってきたグループ(200名)に分けられました。全員が1年間追跡され、日常生活の自立度を示す指標(mRSスコア)、機能的な転帰が不良かどうか(mRSが2を超えるか)、神経症状の変化(NIHSSスコアの変化量)、脳卒中後のうつ症状(HAMD)、脳卒中後の認知機能低下(MMSE)が評価されました。さらに、100名の代表的な部分集団では、ガスクロマトグラフィー質量分析法という手法を用いて血清中のPUFAプロファイルが詳しく調べられています。
その結果、ベースライン時点での年齢や主要な臨床的特徴は両グループ間で大きな差はなかったものの、1年後の追跡調査では、魚介類中心の食生活を送ってきたグループの方が、mRSスコアが低く、機能的転帰が不良となる割合も低く、神経症状の改善も大きいことが示されました(いずれもP<0.05)。加えて、脳卒中後のうつ症状や認知機能低下の割合も、魚介類中心グループの方が低いという結果でした(いずれもP<0.01)。
血清PUFAを詳しく調べたサブグループでは、魚介類中心グループの方がω-3脂肪酸の値が高く、ω-6とω-3の比率(ω-6/ω-3比)が低いことが示されました(いずれもP<0.001)。さらに詳しい分析では、このω-6/ω-3比が高いほど、機能的転帰が不良になるリスク、脳卒中後うつのリスク、認知機能低下のリスクがいずれも段階的に高まる傾向が見られ(傾向性のP<0.05)、神経症状の改善度(ΔNIHSS)とは負の相関関係(β=−0.34、P=0.003)が認められたと報告されています。これらの結果から、著者らはω-6/ω-3比が、脳卒中後の機能的・神経学的・精神神経的な転帰と関連する一つの代謝マーカーとなりうる可能性を指摘しています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、特定の食事や脂肪酸が脳卒中後の回復を「改善する」「予防する」と証明したものではなく、あくまで食事背景・血清脂肪酸プロファイルと転帰との「関連」を観察した研究である点に注意が必要です。要旨からは、対象がすべて中国・浙江省の2施設に入院した患者であること、PUFAの詳細な測定は410名中100名のサブグループのみで行われたことがわかります。今回の記事では、要旨に記載された情報のみを紹介しており、それ以外の詳細な解析条件や交絡因子の調整方法などについては触れていません。一つの観察研究の結果であり、これによって因果関係や普遍的な結論が確定したわけではない点を踏まえて読んでいただければと思います。
まとめ
今回紹介した研究では、大血管アテローム性脳梗塞の患者を対象に、長年の食事背景(魚介類中心か、内陸の混合食か)と血清中のPUFAプロファイルが、脳卒中発症から1年後の機能的・神経学的・精神神経的な回復状態と関連している可能性が示唆されました。特に、血清中のω-6/ω-3比が高いほど、機能的転帰の不良、うつ症状、認知機能低下のリスクが段階的に高まる傾向が報告されており、著者らはこの比率が脳卒中後のリスク層別化や経過観察に役立つ可能性のある指標だとしています。今後、さらなる研究によってこうした関連がどこまで確認されるのか、注目したいところです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:食事背景、血清多価不飽和脂肪酸プロファイルと大血管アテローム性動脈硬化性脳卒中後1年転帰:多施設コホート研究(フロンティアーズ・イン・ニューロロジー・2026年07月)