この研究は、インドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Cureus Journal of Agriculture and Food Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
粒の色で米の血糖への影響は分かるのか
食後の血糖値の上がりやすさを示す指標に「グリセミック指数(GI)」があります。基準となる食品と比べて、同じ量の炭水化物を食べたあと血糖値がどれだけ上がるかを表すものです。精白した白米は消化が速く、GIが高い食品とされることが多い一方、米の品種によってでんぷんの性質や含まれる成分には大きな差があります。
インド南部のケララ州には、何世紀も栽培されてきた在来の米が多く残っています。なかでも薬用米のNjavara(ニャヴァラ)は、伝統医学アーユルヴェーダの治療にも使われてきました。赤米や茶色の米は白米より体によいという見方もありますが、粒の色が消化のされ方を本当に反映しているのかは分かっていませんでした。
研究チームは、ケララ州の薬用米と香り米の血糖への影響を推定し、州内で広く栽培されている多収品種「Uma」と比べることを目的としました。とくに、粒の色という見た目の特徴と、でんぷんの成分のどちらが消化のされ方に関係しているのかを調べています。
7品種の米を試験管の中で「消化」させる
対象は、薬用米3品種(Njavara Black、Njavara Yellow、Raktasali)、香り米3品種(Jeerakasala、Gandhakasala、Mullankaima)、多収品種Umaの計7品種です。薬用米とUmaは赤い粒、香り米は麦わら色の粒です。実際の食べ方に近づけるため、薬用米は精米していない状態、香り米とUmaは、もみを下ゆでしてから乾燥させる加工(パーボイル)を施した状態で分析しました。
著者らはまず、でんぷんを構成する2種類の成分のうち、まっすぐな鎖状のアミロースの割合を測りました。アミロースが多い米は一般に消化がゆっくり進むとされます。あわせて、小腸で消化されにくい「難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)」と、消化されやすいでんぷんの量を、生の米の粉と炊いた米の両方で調べました。
さらに、人の胃や腸での消化を酵素で再現する試験管内の方法を用いて、3時間のあいだ30分ごとにでんぷんの分解量を測定しました。分解の進み方を基準食品の白パンと比べて「加水分解指数」を出し、そこから推定GIを計算しています。人に実際に食べてもらって血糖値を測る方法は、費用や個人差などの制約が大きいため、その代わりとなる簡便な推定法として使われました。
薬用米は分解がゆっくり、赤いUmaは最も高い値に
アミロースの割合は、薬用米3品種が22.1〜22.9%で「高アミロース」に分類されました。香り米のJeerakasala(16.6%)とGandhakasala(11.5%)は低く、Mullankaima(17.8%)とUma(19.8%)は中間でした。難消化性でんぷんも薬用米で多く、生の状態で2.63〜2.79%でした。香り米は0.73〜1.08%にとどまりました。ただし、どの品種でも炊くと難消化性でんぷんが減り、薬用米では0.98〜1.65%になりました。
試験管内の消化試験では、薬用米の加水分解指数が最も低く、炊いた状態で34.39〜35.09%でした。香り米は37.80〜40.10%で、Umaは41.9%と最も高くなりました。推定GIも同じ傾向を示し、炊いた薬用米は57.6〜58.2、香り米は59.7〜61.1、Umaは62.0でした。なお、どの米も基準食品の白パンのように急激な分解は示さなかったと報告されています。
注目されるのは、Umaが薬用米と同じ赤い粒でありながら、7品種のうち最も高い推定GIを示し、麦わら色の香り米をも上回った点です。研究チームは、粒の色だけでは推定GIを予測できず、アミロースや難消化性でんぷんといった成分のほうが消化のされ方を強く左右していると結論づけています。
見た目より中身で米を見る
この研究は、「色の濃い米ほど血糖を上げにくい」という単純な見方が必ずしも当てはまらないことを、同じ赤い米どうしの比較から示しました。米を選ぶ際には、見た目ではなく、でんぷんの性質などの成分に目を向ける必要があることを伝えています。
一方で著者らは、今回の推定GIは試験管内の消化モデルから得た予備的な値であり、人が食べたときの血糖反応を直接示すものではないと明記しています。糖尿病の人への具体的な食事の勧めの根拠にもならないとしています。伝統的に大切にされてきた在来米を科学的に評価する試みとして、品種ごとの違いを成分の面から捉えた研究といえます。
著者:Nadiya Fasiludeen(University of Kerala)、Anagha Sreeja Manikantan、Rajalakshmi Radhakrishnan
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nadiya Fasiludeen, Anagha Sreeja Manikantan, Rajalakshmi Radhakrishnan. Grain Colour and Type as Determinants of Glycemic Response in Medicinal and Aromatic Rice Varieties of Kerala. Cureus Journal of Agriculture and Food Science 2026-10-06. DOI: 10.7759/s44497-026-00308-0. 原著ライセンス:CC BY.