ダイコンは煮物や漬物、乾物などさまざまな料理に使われる身近な野菜ですが、品種によって水分量や食感、加工への向き不向きが大きく異なることをご存じでしょうか。今回紹介する研究は、中国湖北省黄州(こうしゅう)地域に古くから伝わる在来種ダイコン「黄州(HZ)」を対象にしたものです。この品種は円錐に近い独特な根の形と、水分が少なく乾物含量が高いという特徴を持ち、加工用途に適しているとされています。ただし、こうした農業上の特徴を生み出す遺伝的な仕組みは、これまで参照となるゲノム配列が整備されていなかったため、よくわかっていませんでした。
研究でわかったこと
研究チームは、PacBio HiFi、Oxford Nanopore、Hi-Cという複数の最新シーケンシング技術を組み合わせ、HZダイコンについて父方・母方それぞれの染色体セット(ハプロタイプ)を区別できる高品質なゲノム配列を構築しました。2つのハプロタイプを比較すると、構造的に大きな違いが見られ、その違いにはトランスポゾン(ゲノム内を移動する反復配列)が関わっている可能性が示されています。
さらに、異なる地域から集めた8種類のHZダイコンと、それ以外の190品種のダイコンを合わせて集団レベルの解析を行ったところ、HZダイコンに特有の一塩基多型(SNP、遺伝子配列上の1文字の違い)が21,004カ所見つかりました。これらのSNPに関連する遺伝子は、環境中のpHやアルミニウムイオンへの応答に関わるものが多く含まれており、HZダイコンが生育地の環境に適応してきた可能性が示唆されています。
表現型の観察と組織を顕微鏡で調べる解析からは、HZダイコンの主根で乾物含量が高い理由として、セルロースの蓄積量が多く、細胞壁が厚くなっていることが主な要因として関連づけられました。加えて、根が成長する4つの段階でのトランスクリプトーム解析(遺伝子の発現量を網羅的に調べる解析)を行った結果、乾物含量の低い別の品種「大長白」と比較して、セルロース合成酵素に関連する複数の遺伝子がHZダイコンで一貫して高く発現していることが確認されました。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、特定の在来品種であるHZダイコンの遺伝的な特徴と、乾物含量やセルロース蓄積との関連を、ゲノム解析や遺伝子発現解析によって明らかにしたものです。あくまで1つの研究であり、ここで得られた知見が他の品種や環境条件でも同様に当てはまるかどうかは、今後の検証が必要と考えられます。また、この研究は品種の遺伝的な仕組みを明らかにすることを目的としたものであり、特定の食品や成分の摂取による健康への効果を検証したものではない点にもご留意ください。
まとめ
今回の研究により、加工用途に適した特徴を持つ在来ダイコン「黄州」の高品質なゲノム配列が新たに整備され、乾物含量の高さがセルロース蓄積や細胞壁の肥厚と関連していることが示されました。研究チームは、この成果がダイコンのゲノム研究における新たな遺伝資源となり、乾物蓄積やセルロース生合成の遺伝的な仕組みを理解するうえで新しい知見をもたらすと位置づけています。品種ごとの個性がどのような遺伝子によって支えられているのかを解き明かす、地道ながら興味深い基礎研究といえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:在来種「黄州」ダイコンの染色体レベルゲノムアセンブリが明らかにする高セルロース蓄積の知見(BMCプラント・バイオロジー・2026年08月)