この研究は、ケニア、フランスの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of soil science and plant nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

一酸化二窒素(N₂O)は、二酸化炭素・メタンに次いで影響の大きい人為起源の温室効果ガスです。著者らによれば、100年の時間スケールで見た温暖化への寄与は二酸化炭素のおよそ273倍とされ、さらに現在では成層圏のオゾン層を破壊する人為起源物質として最大の残存要因にもなっています。その主要な発生源が農地の土壌であり、窒素肥料の使用や有機物の分解にともなう微生物のはたらき(硝化・脱窒)を通じて放出されます。

論文では、マメ科作物は自ら窒素を固定できるため化学肥料への依存を減らせる点で環境によいと考えられがちだが、その前提が常に成り立つわけではないと指摘されています。大豆については、生育期間中だけでなく収穫後に根などの残渣が分解する時期にもかなりのN₂Oが出ると報告した研究があるといいます。

そこで着目されたのが、脱窒の最終段階を担う酵素です。土壌中では硝酸が段階的に変化してN₂Oになり、最後に無害な窒素ガス(N₂)へと還元されます。この最後の変換を担う酵素をつくる遺伝子がnosZで、これを持つ菌(nosZ⁺)が働けばN₂Oは大気に出る前にN₂へ変えられます。先行研究では、nosZ⁺の根粒菌を酸性土壌で接種するとN₂O排出が減ることが示されていました。ただし著者らは、もともとN₂Oを還元する能力が高いアルカリ性の石灰質土壌や、脱窒が起きにくい乾燥条件、さらに残渣の分解期については、この方法が効くかどうかがよく分かっていないとしています。本研究の目的は、こうした幅広い条件でもnosZ⁺接種がN₂O排出を減らせるかを確かめることでした。

何をどう調べたか

研究チームは、モデル作物として大豆(Glycine max、品種Angelica)を用いた温室実験を行いました。実験は2024年5月28日から9月27日までの生育期間と、その直後から11月下旬まで20℃で維持した分解期間の二段階で構成されています。

用意したのはN₂O還元能力が対照的な二つのフランスの土壌です。土壌Aは花崗岩由来の強酸性土(pH5.6)で、N₂Oを還元する潜在能力はごくわずかでした。土壌Bは石灰質のアルカリ性土(pH8.2)で、もともと高いN₂O還元能力を備えていました。いずれの土壌もそれまで大豆が栽培されたことがなく、大豆と共生する在来の根粒菌を含んでいませんでした。

ポットは全部で48個用意され、2種類の土壌、2種類の水分条件、3種類の接種処理という組み合わせごとに4反復が割り当てられました。接種処理は、何も接種しない対照区、N₂O還元酵素を持たないnosZ⁻株(Bradyrhizobium japonicum USDA138)を接種した区、nosZ遺伝子を持ちN₂Oを還元できるnosZ⁺株(Bradyrhizobium diazoefficiens MSDJ G49)を接種した区の三つです。水分条件は、灌水と排水を1日3回続ける湿潤区(WET)と、N₂O測定の72時間前から灌水を止めて測定時に萎凋点近くまで乾かす乾燥区(DRY)に分けられました。

N₂Oの放出量は、生育期間中は開花初期(7月8日)、成熟期(7月31日)、老化期(9月25日)の三つの生育段階で、分解期間中は10月14日・10月28日・11月13日の三回、それぞれ測定されました。各ポットを暗所・20℃で48時間チャンバーに密閉し、ガスクロマトグラフで濃度変化を測る方法がとられています。チャンバーの気密性を確かめるために不活性ガスのクリプトンを一定濃度で入れ、その濃度が安定しているかを監視するという工夫も行われました。生育期間の終わりには地上部を刈り取って乾燥・秤量し、生産性が評価されています。

主な結果

まず生育量については、接種しなかった対照区の地上部バイオマスが、土壌の種類や水分条件にかかわらず、どちらかの菌を接種した区よりも有意に少なくなりました。無接種の株の葉は乾いて黄色くなっており、窒素が不足した状態だったことが示唆されています。一方で、nosZ⁺株を接種した区とnosZ⁻株を接種した区のあいだには、試したすべての条件で生育量の有意差がありませんでした。著者らは、この結果からN₂O還元酵素遺伝子を持つことが共生の効率を損なうわけではないと述べています。

N₂Oの放出量は時期によって大きく変動しました。大豆が活発に生育している期間は、どの処理でも放出量は比較的低く、おおむね数g N ha⁻¹ d⁻¹以下にとどまりました。ところが収穫後の分解期間に入った10月以降は放出量が増え、200g N ha⁻¹ d⁻¹を超えるピークも観測されています。こうした非常に高い放出は、主に接種を行った区で見られました。

条件ごとに見ると、湿潤条件の酸性土壌(wet-A)では、生育期間を通じてnosZ⁻株の区のほうがnosZ⁺株の区より放出量が多く、その差は分解初期の放出がピークに達する時期(約100g N ha⁻¹ d⁻¹)まで続きました。乾燥条件の酸性土壌(dry-A)では全体に放出量が低かったものの、7月31日と分解の初期にnosZ⁻株で有意に高い放出が記録されています。湿潤条件のアルカリ性土壌(wet-B)では、分解初期の10月14日にnosZ⁻株の区で約200g N ha⁻¹ d⁻¹という高いピークが現れ、nosZ⁺区や対照区より有意に高い値でした。これに対しnosZ⁺株の区では放出量が20g N ha⁻¹ d⁻¹を超えることはありませんでした。乾燥条件のアルカリ性土壌(dry-B)では全処理で放出量がごく小さく(5g N ha⁻¹ d⁻¹未満)、分解期の初めにnosZ⁺接種による低減が見てとれました。

湿潤条件でのピーク時の放出量を比べると、nosZ⁻接種に対してnosZ⁺接種は酸性土壌で10倍以上、アルカリ性土壌で8倍の低減をもたらしたと報告されています。繰り返し測定を考慮した線形混合モデルによる解析でも、根粒菌の株の違いがN₂O放出に有意な影響を与えており(p<0.0001)、その効果は土壌条件とは独立していた(p=0.53)とされます。水分条件と測定時期も放出量に強く影響していました。また、nosZ⁺株とnosZ⁻株の差がもっともはっきり現れたのは、湿った条件下、そして収穫後など放出量が高まる時期であることが確認されています。

この研究が示すこと

論文がとくに新しい点として挙げているのは、もともとN₂Oを還元する力が高いアルカリ性土壌でも、nosZ⁺接種が根粒の分解期に生じる排出のピークを抑えられたことです。著者らは、高pHの土壌は一般にN₂Oを還元できるものの、分解によって基質が大量に供給される時期にはその能力だけでは足りない場合があると考察しています。

もう一つの注目点は、脱窒が起きにくいはずの乾燥条件でもnosZ⁺接種による低減が見られたことです。著者らはこれを、根粒の内部がレグヘモグロビンによって酸素の少ない状態に保たれているためではないかと推測しています。

全体として、この研究は、窒素固定や生育量を犠牲にすることなくN₂O排出を抑えうる微生物由来の方策があることを、酸性とアルカリ性という対照的な土壌、湿潤と乾燥という異なる水分条件、そして生育期と分解期という異なる段階にわたって示したものです。著者らは同時に、今回用いた土壌が大豆と共生する在来の根粒菌を含まないフランスの土壌であったことに触れ、在来の根粒菌がすでに定着している地域では、接種した菌が根粒を占有できるかどうかが課題として残ると述べています。作物の生育を落とさずに温室効果ガスの一部を減らしうる、という点に、この研究の意味があります。

著者:Simon Wambui Mburu(Department of Biochemistry, Microbiology and Biotechnology, Kenyatta University, Nairobi, Kenya)、Mubarak Mahmud(UMR 1347 Agroécologie, Université Bourgogne Europe, Institut Agro Dijon, INRAE, 17 Rue Sully - BP 86510, 21000, Dijon, France)、Catherine Hénault(UMR 1347 Agroécologie, Université Bourgogne Europe, Institut Agro Dijon, INRAE, 17 Rue Sully - BP 86510, 21000, Dijon, France)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Simon Wambui Mburu, Mubarak Mahmud, Catherine Hénault. NosZ + Rhizobial Inoculant Enable Climate-Smart Legume Cultivation Across Diverse Soil and Environmental Conditions –Study Case on Soja Cultivated on Soils Free of Indigenous Symbiotic Rhizobia. Journal of soil science and plant nutrition 2026-09-26. DOI: 10.1007/s42729-026-03558-1. 原著ライセンス:CC BY.