この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Food Measurement & Characterization

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

捨てられてきた果実に注目した理由

マテ茶(イェルバ・マテ、学名 Ilex paraguariensis)は南米を中心に飲まれ、近年は世界にも広がっている常緑樹です。飲用に使われるのは主に葉と茎で、赤黒く熟す小さな果実はほとんど利用されていません。研究チームによれば、1本の木は葉7.5kgあたりおよそ1kgの果実をつけるとされ、現状では相当量が畑に廃棄されていると論文は指摘しています。

果実には、クロロゲン酸やカフェ酸といったフェノール酸、ルチンなどのフラボノイド、カフェインやテオブロミン、さらにアントシアニンといった生理活性成分が含まれることがこれまでに報告されています。アントシアニンは果実や花の赤〜紫色のもとになる色素で、品種や加工・保存の条件、とくに温度によって含量が変わります。そこで著者らは、この果実の成分を明らかにしたうえで、フェノール類とアントシアニンを効率よく取り出す抽出条件を最適化し、さらにアントシアニンがpHと温度でどれだけ保たれるかを調べることを本研究の目的としました。

計算で溶媒を絞り、実験で条件を決める

抽出でまず問題になるのが、どの溶媒(成分を溶かし出す液体)を使うかです。論文ではこれを手当たり次第の実験ではなく、COSMO-RSという計算手法で事前に絞り込みました。これは分子の形と表面の電荷の分布から、溶質と溶媒がどれだけ相性よく引き合うかを推定する方法で、著者らは果実の代表的なフェノール化合物(カフェオイルキナ酸)を手がかりの分子として用い、実験の手間を減らしつつ分子レベルでの理解を得る狙いだったと説明しています。

計算では、溶けやすさの指標となる値が塩酸で最も有利、次いでアセトン、メタノール、エタノールと続き、無極性のヘキサンは極端に不利と予測されました。ただし著者らは、実際に使う溶媒は毒性や食品用途での規制適合性も考える必要があるとし、メタノールは毒性が高く飲食用途には適さない、アセトンも残留規制の懸念があるとして、溶解力と安全性のバランスからエタノールを選んでいます。また、アントシアニン(シアニジン-3-グルコシド)については酸の選択も計算で比較され、塩酸を加えた系が最も相性がよいと予測されたため、エタノール/水の混合液を塩酸で酸性にする方針が取られました。

次に実験側では、温度(10〜90℃)とエタノール濃度(0〜90%)を変えた中心複合計画という実験計画法で、総フェノール量・総アントシアニン量・DPPH法による抗酸化活性の3つを同時に最適化しました。試料の量に対する液量や抽出時間(5分)は予備検討をもとに固定しています。

報告された主な結果

まず果実そのものの分析では、1粒の平均直径は約5.56mm、重さは約0.16gで、果肉と果皮が56.7%、種子が43.3%を占めていました。凍結乾燥した果実では炭水化物が最も多く(51.74 g/100g、うち食物繊維が23.10 g/100g、グルコースとフルクトースがそれぞれ約12 g/100g)、続いてタンパク質、灰分、脂質の順でした。有機酸としてはクエン酸とリンゴ酸が主に検出されています。

抽出条件の検討では、温度を上げるほど3つの指標がいずれも高くなる傾向が示され、エタノール濃度については低すぎても高すぎても効率が下がる、中間が最も良い関係(負の二次効果)が認められました。総フェノール量は最低11.33 g CAE/kgから最高15.90 g CAE/kgまで、およそ29%の幅で変動しています。著者らはこれらの結果から、1 mol/L塩酸を全体の10%含む45%エタノール水溶液を90℃で用いる条件を最適点としました。この条件での検証実験では、総フェノール量16.03 g CAE/kg、総アントシアニン量469.37 mg C3G/kg、DPPH抗酸化活性58.35 mmol TE/kgが得られ、いずれもモデルの予測値および95%信頼区間と整合したと報告されています。なお、モデルの適合度(調整済み決定係数)は0.505〜0.638と中程度で、著者らはこれを植物組織に本来ある個体差を反映したものだと述べています。

最適条件で得た抽出物の色素を詳しく分析したところ、シアニジン-3-O-グルコシドが432.59 mg/kgと最も多く、次いでデルフィニジン系のアントシアニンが検出されました。また色素の安定性については、抽出物をpH 1.0、4.5、6.0に調整し、60・75・90℃で最長210分加熱して残存量の変化を追い、一次反応の速度定数、半減期、活性化エネルギーという形で整理しています。

この研究が示すこと

この論文の特徴は、分子レベルの熱力学計算による溶媒の合理的な選択、実験計画法による条件の最適化、成分の同定と定量、そして色素の熱安定性の評価を、一つの流れとしてつないだ点にあります。著者らは、この統合的な進め方が、分子レベルの理解と、規模を拡大する際に必要になる実務的な数値の両方をもたらすと位置づけています。

飲料として使われてこなかったマテ茶の果実に何がどれだけ含まれ、どういう条件でそれを取り出し、どこまで色素が保たれるのか。その基礎的な見取り図が示されたことで、これまで畑に残されてきた副産物を資源として扱うための出発点が整った、という研究だといえます。

著者:Isabela Maria Macedo Simon Sola(Graduate Program in Food Science and Technology, State University of Ponta Grossa (UEPG), Ponta Grossa, Brazil)、José Pedro Wojeicchowski(Food Engineering Department, State University of Ponta Grossa (UEPG), Ponta Grossa, Brazil)、Renata Dinnies Santos Salem(Food Engineering Department, State University of Ponta Grossa (UEPG), Ponta Grossa, Brazil)、Alessandro Nogueira(Food Engineering Department, State University of Ponta Grossa (UEPG), Ponta Grossa, Brazil)、Aline Alberti(Food Engineering Department, State University of Ponta Grossa (UEPG), Ponta Grossa, Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Isabela Maria Macedo Simon Sola, José Pedro Wojeicchowski, Renata Dinnies Santos Salem, et al. Integrated COSMO-RS modeling and experimental approach for solvent selection, bioactive recovery and anthocyanin stability from Ilex paraguariensis A.St.-Hil. fruits. Journal of Food Measurement & Characterization 2026-09-09. DOI: 10.1007/s11694-026-04932-4. 原著ライセンス:CC BY.