この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Aquaculture nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
養殖の現場では、エネルギー密度が高くタンパク質の節約にもつながることから、脂肪分の多い「高脂肪飼料」が広く使われるようになってきました。しかし研究チームは、高脂肪飼料を長く与え続けると魚の脂質代謝のバランスが崩れ、体内に脂肪がたまりすぎたり、酸化ストレス(体内で生じる活性酸素などによる負荷)が高まったり、身の品質が落ちたりすることが課題になっていると説明しています。
身の品質のなかでも、かたさなどの食感は消費者の評価を左右する重要な性質で、筋繊維の状態やコラーゲン、筋肉内脂肪の量と深く結びついています。適度な筋肉内脂肪は多汁性や風味を高める一方、過剰にたまると筋肉の構造がゆるみ、かたさや弾力が損なわれやすいと著者らは述べています。
そこで著者らは、二つの飼料添加物に着目しました。一つは長鎖脂肪酸をミトコンドリアへ運び、脂肪の燃焼(β酸化)に欠かせないL-カルニチン。もう一つは脂質代謝にかかわる受容体PPARαを活性化させ、中性脂肪の合成を抑えるフェノフィブラートです。これまでの研究は主に肝臓(肝膵臓)の脂質代謝に集中しており、高脂肪飼料のもとで筋肉の脂質代謝や身の品質がどう変わるかを体系的に調べた例は限られていました。中国北方の淡水養殖の主要魚種であるキゴイ(黄河コイ)を対象に、成長、身の質、脂質代謝の調節を合わせて評価することが、この研究の目的です。
何をどう調べたか
著者らは、タンパク質量をそろえた6種類の飼料を用意しました。対照飼料(大豆油3%)、高脂肪飼料(大豆油10%)、そして高脂肪飼料にL-カルニチンを1キログラムあたり200ミリグラムまたは500ミリグラム加えたもの、同じくフェノフィブラートを200ミリグラムまたは500ミリグラム加えたものの計6区です。
平均体重およそ156グラムのキゴイを、1群あたり3反復の生け簀に分けて飼育し、1日3回の給餌を行いました。水温は25〜30度、溶存酸素はおよそ8.8ミリグラム毎リットル、pHは7.5前後に保たれています。8週目と12週目の二つの時点で採材し、成長の指標、血清の生化学指標、筋肉の組織像(H&E染色による筋繊維の太さと密度、オイルレッドO染色による脂肪滴)、テクスチャー測定による食感、一般成分、脂肪酸組成、抗酸化関連の指標、そして脂質代謝・抗酸化・筋肉の発達に関わる遺伝子の発現量を調べました。統計は一元配置分散分析とダンカン検定で、有意水準は5%としています。
主な報告結果
まず成長について。8週目には高脂肪区の最終体重、増重率、比成長率が対照区より高く、脂肪の多い飼料が初期の成長を後押しすることが確認されました。ただし12週目になると高脂肪区では飼料効率が落ち、内臓脂肪指数の上昇もみられました。一方、L-カルニチンやフェノフィブラートを加えた区では体重の増加そのものは促進されず、L200区・F200区の最終体重はむしろ高脂肪区より低くなりました。著者らは、これらの添加物の主な役割は成長を直接押し上げることではなく、脂肪の過剰な蓄積を和らげて代謝のバランスを整えることにあると解釈しています。
脂質については、高脂肪区で血清の中性脂肪が対照区より高く、12週目にはL-カルニチン・フェノフィブラートいずれの添加でも中性脂肪とLDLコレステロールが高脂肪区より低下しました。筋肉の粗脂肪も高脂肪区が最も高く、8週目・12週目とも添加区では有意に減少しています。脂肪滴の面積でみると、8週目はL500区が、12週目はF500区が高脂肪区より明確に少なくなりました。
身の食感では、8週目に生の切り身のかたさ・咀嚼性・弾力などがF200区とF500区で対照区より向上し、L500区でも弾力やせん断力、咀嚼性が高い値を示しました。12週目でもF500区とL500区のかたさ・咀嚼性・ガム性は高脂肪区より高いままでした。ただし加熱した切り身では、飼料による差は認められていません。
脂肪酸組成では、高脂肪区はEPAやDHA、n-3/n-6比が対照区より低くなっていました。12週目には、L-カルニチン添加区でDHAや高度不飽和脂肪酸、n-3/n-6比が高脂肪区より増え、F500区ではDHAに加えて多価不飽和脂肪酸やn-3系脂肪酸なども増加しました。抗酸化の面では、12週目にL500区の血清SOD・GSH-Px活性が高脂肪区より高く、筋肉でもF200区・F500区で同じ酵素の活性が高くなっています。遺伝子発現では、脂肪の燃焼に関わるcpt-1やpgc-1α、ampkα2が添加区で上昇し、脂肪の合成に関わるfasやsrebp1が抑えられる傾向が報告されました。
この研究が示すこと
著者らの報告は、高脂肪飼料が短期的には成長を後押しする一方で、長く続けると脂質代謝の偏りや身の質の低下という代償を伴うことを、キゴイという具体的な魚種で丁寧に描き出しています。そしてL-カルニチンとフェノフィブラートは、体を大きくする添加物としてではなく、余分な脂肪の利用を促し、筋肉にたまる脂肪を減らして食感や脂肪酸組成、抗酸化の状態を整える方向に働いた、というのがこの研究から読み取れる像です。
二つの添加物の効き方が同じではなかった点も示唆的です。効果が現れる時期や、どの指標に強く出るかは添加物と量によって異なっており、脂肪の「量」を減らすことと身の「質」を保つことは、別々に考える必要のある課題であることがうかがえます。集約的な養殖で増えつつある高脂肪飼料の使い方を見直すうえで、栄養面からの調節という選択肢を具体的に検討した一例といえます。
著者:Zhao M(Aquatic Animal Nutrition and Feed Research Laboratory, College of Fisheries, Henan Normal University, Xinxiang 453007, China, henannu.edu.cn.)、Zhi S(Aquatic Animal Nutrition and Feed Research Laboratory, College of Fisheries, Henan Normal University, Xinxiang 453007, China, henannu.edu.cn.)、Qin C(Aquatic Animal Nutrition and Feed Research Laboratory, College of Fisheries, Henan Normal University, Xinxiang 453007, China, henannu.edu.cn.)、Yang L(Aquatic Animal Nutrition and Feed Research Laboratory, College of Fisheries, Henan Normal University, Xinxiang 453007, China, henannu.edu.cn.)、Nie G(Aquatic Animal Nutrition and Feed Research Laboratory, College of Fisheries, Henan Normal University, Xinxiang 453007, China, henannu.edu.cn.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhao M, Zhi S, Qin C, et al. Effects of L-Carnitine and Fenofibrate on Lipid Metabolism, Oxidative Status, and Flesh Quality of Yellow River Carp (<i>Cyprinus carpio</i>). Aquaculture nutrition 2026-08-11. DOI: 10.1155/anu/1500743. 原著ライセンス:CC BY.