紅茶を発酵させてつくる発酵飲料コンブチャは、近年では紅茶以外の素材を使う試みも研究されています。今回紹介する研究は、南米で親しまれているマテ茶と、コーヒー豆を精製する際に出るコーヒー果皮という二つの素材を使い、同じ条件でコンブチャを発酵させたときに、飲料の成分や微生物の顔ぶれがどのように違ってくるのかを調べたものです。研究を行ったのは、ペルーのサンタ・マリア・カトリカ大学とブラジルのパラナ連邦大学の研究者らです。
コーヒー果皮は、コーヒー豆を取り出した後に廃棄されることの多い副産物であり、これを飲料の原料として活用できれば、農産物の廃棄を減らすことにもつながる可能性があります。一方のマテ茶は、ポリフェノールなどの植物由来成分を豊富に含むことで知られています。この二つは成分の性質が大きく異なるため、同じ発酵種(SCOBY、酢酸菌と酵母の共生体)と同じ発酵条件を使った場合でも、できあがる飲料や発酵中の微生物の変化に違いが出るのではないかと考えられました。
どのように調べたのか
研究チームは、同じ親株のSCOBYを使い、マテ茶コンブチャ(YMK)とコーヒー果皮コンブチャ(CHK)を作製しました。素材10グラムと砂糖60グラムを1リットルの湯に加えた浸出液を用意し、30度で9日間静置発酵させたのち、4度で4日間冷蔵保存するという、同一の手順で両者を比較しています。発酵と保存を通じて、ポリフェノール(フェノール類)やフラボノイドの含有量、抗酸化に関連する反応、有機酸の種類と量、香りに関わる揮発性成分、そして発酵にかかわる細菌・カビ(酵母を含む微生物群)の移り変わりが調べられました。
研究でわかったこと
マテ茶コンブチャ(YMK)は、発酵から冷蔵保存の終わりまで一貫してフェノール含有量が高く保たれ、抗酸化に関連する反応も高い水準を維持していたと報告されています。冷蔵保存終了時点でのフェノール含有量は、没食子酸相当量として1ミリリットルあたり467.97±43.09マイクログラムに達したとされています。また、香りにかかわる揮発性化合物の種類も、YMKの方が幅広く、その傾向が保存期間を通じて持続していたことが示されています。
これに対してコーヒー果皮コンブチャ(CHK)は、フェノール含有量や抗酸化に関連する測定値はYMKより低めであったものの、比較的安定して推移したことが報告されています。揮発性化合物の種類はYMKよりも限られたものだったとされています。有機酸については、両方の飲料で発酵が進む間に単調ではない変動(増減を繰り返す動き)がみられましたが、最終的な段階ではYMKの方がリンゴ酸の濃度が高かったことが示されています。
微生物の移り変わりにも違いがみられました。YMKでは発酵の全期間を通じて酢酸菌の一種であるKomagataeibacter属が優勢な状態を保っていたのに対し、CHKでは発酵が進むにつれて別の酢酸菌であるAcetobacter属へと優勢種が移っていく、より明確な変化がみられたとされています。一方、カビ・酵母にあたる真菌の顔ぶれは両方の飲料で比較的安定しており、StarmerellaとDekkeraという酵母が主体を占めていたことが報告されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、マテ茶とコーヒー果皮という性質の異なる二つの素材を、同一の発酵条件下で直接比較した点に特徴があります。著者らは、これまで個別に検討されてきたマテ茶やコーヒー果皮を使ったコンブチャの研究を一歩進め、農産物の副産物であるコーヒー果皮が、持続可能な発酵飲料づくりの素材となりうる可能性を示すものだと位置づけています。
ただし、この研究はあくまで実験室レベルでの発酵挙動の比較であり、報告されている抗酸化に関連する反応や成分量の違いが、飲用した際の健康への影響を直接示すものではない点には注意が必要です。今回示された結果は一つの研究によるものであり、素材の配合比率や発酵条件を変えた場合に同じ傾向が得られるかどうかも含めて、さらなる検証が必要と考えられます。
まとめ
今回の研究では、マテ茶とコーヒー果皮という異なる素材を同じ条件で発酵させることで、できあがる飲料の成分プロファイルや、発酵を担う微生物の種類の移り変わりが、素材によって明確に異なることが示されました。コーヒー果皮という農産物の副産物が発酵飲料の原料として活用できる可能性を示した研究として位置づけられており、今後の食品開発における素材選びの参考情報の一つになると考えられます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Luis Daniel Goyzueta-Mamani, Flavia Yuri Shimizu, Agnes de Freitas Diniz de Souza, et al. Fermentation dynamics of yerba-mate and coffee-husk kombuchas: bioactive compounds, organic acids, volatile metabolites, and microbial succession. フロンティアーズ・イン・ニュートリション (2026). DOI: 10.3389/fnut.2026.1935769.