夜勤明けに「ぐっすり眠れた」と感じる日と、眠った気がしない日がある。その差に、食事が関係している可能性を示す研究が2026年6月、学術誌「フロンティアーズ・イン・ニュートリション」に掲載されました。夜勤を伴う不規則な勤務形態にある方、あるいは食事と睡眠の質のつながりに関心がある方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
研究でわかってきたこと
この研究は、ヨルダンのアンマンにある病院に勤務する医師研修医50人(24〜34歳)を対象にした横断研究です。3日間の食事記録と、ウェアラブルデバイスによる客観的な睡眠計測を組み合わせることで、「何を食べているか」と「眠りの構造(睡眠アーキテクチャ)」の関係を調べました。
睡眠には、浅い眠り・深い眠り・レム睡眠といった段階があります。この研究で特に注目されたのは、亜鉛の摂取量と「深い眠り(深睡眠)」の長さとの関係でした。亜鉛の摂取が多いほど深睡眠が長い傾向があると報告されており(相関係数r=0.43、p=0.010)、統計的に有意な関連として示されています。ただし、これはあくまでも観察研究で見られた傾向であり、亜鉛を摂れば深く眠れるという直接的な因果関係を示すものではありません。
一方、総エネルギー・炭水化物・食物繊維の摂取量が多いほど、夜中に目が覚める回数(夜間覚醒)が多い傾向も報告されています。さらに、ジャンクフードの摂取頻度が高いグループでは、睡眠の総時間は長い一方で浅い眠りの割合が増えることが示唆されており、「長く眠っても質が低い」状態につながる可能性が示されました。研究者らは、こうした食事の傾向が睡眠の構造と関連していることから、栄養面からの改善が夜勤従事者の睡眠の質や職業的な健康に役立てられる可能性があると結論づけています。
亜鉛を含む食品として——かきのデータを見てみると
特定の食品が睡眠を改善したりリスクを下げたりするものではありませんが、亜鉛を含む食品の一例として、日本食品標準成分表(八訂)の実測値をご紹介します。
かき(養殖・生)は、亜鉛を可食部100gあたり14mg含みます。これは日本人の食事摂取基準における女性30〜49歳の亜鉛推奨量(1日8mg)の175%に相当する値です。この175%という数値は推奨量に対する割合であり、過剰摂取の基準(耐容上限量)に対する割合ではありません。かきには耐容上限量が設定されており(成人女性で35mg/日)、通常の食事でむき身を数個食べる程度であれば過剰摂取を心配する必要はありませんが、サプリメント等との重複摂取には注意が必要です。
むき身1個は約20gですので、2〜3個で日常的に亜鉛を摂り入れやすい食品といえます。ただし、かきは1度に大量に食べる食品ではなく、また食塩相当量も100gあたり1.2gと高めです。少量でも亜鉛密度が高い点が特徴で、旬の時期に味わいながら取り入れるのが自然な方法といえるでしょう。
なお、かきにはセレン(100gあたり46µg、女性30〜49歳の推奨量25µg/日の184%)も含まれます。セレンにも耐容上限量(成人女性で150µg/日)が設定されているため、この割合も推奨量に対するものであり、通常の食事量での摂取であれば問題ないレベルですが、サプリメントとの併用時は注意が必要です。
植物性の食品にも亜鉛は含まれますが、大豆や穀類に含まれるフィチン酸という成分が腸での亜鉛の吸収効率を下げることがあるとされています。ごま(乾)や糸引き納豆など日常的に使いやすい食品と組み合わせながら、食事全体でバランスよく摂ることが大切です。
日々の食事に取り入れるヒント
- 亜鉛を含む食品(かき・肉類・豆類など)を日々の食事に無理なく組み込む。加工食品には亜鉛の吸収を妨げる添加物が使われることがあるとされているため、できるだけ素材に近い形で摂ることが勧められます。
- 今回の研究では、エネルギー・炭水化物・食物繊維の過剰摂取が夜間覚醒の増加と関連する傾向が示されました。夕食や就寝前の食事量を整えることが、睡眠の連続性を保つうえで参考になるかもしれません。
- ジャンクフードの頻度が高いほど睡眠時間は長くなる一方で眠りが浅くなる傾向が報告されています。「量より質」の視点で、食事の内容を振り返ってみることも一つの手がかりです。
食事全体のバランスを大切に
1つの栄養素や食品が睡眠を「良くする」「悪くする」と単純に言い切れるものではありません。今回の研究はあくまでも限られた集団での横断的な観察であり、今後さらなる検証が必要な段階です。とはいえ、「食べ方が眠り方に影響しうる」という視点は、忙しい日常のなかで見落とされがちな気づきをもたらしてくれます。特定の食品に頼るのではなく、主食・主菜・副菜をそろえた食事を規則正しく続けることが、睡眠を含む体全体の調子を整える基本として大切です。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。参考文献:Dietary intake, lifestyle behaviors, and sleep architecture among night-shift medical residents: a cross-sectional study(フロンティアーズ・イン・ニュートリション(2026-06-01))
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準