この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Adolescencia e Saude

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

イレオストミー(回腸ストーマ)は、回腸を腹壁に引き出して便の流れを一時的あるいは永続的に迂回させる手術です。消化器疾患の治療において重要な役割を果たす一方で、著者らによれば、ストーマ周囲の皮膚トラブル(ストーマ周囲皮膚合併症)が起こりやすく、造設後の第1〜2週という早い時期から生じることが報告されています。

論文では、イレオストミーから出る排出物が液状でアルカリ性であり、タンパク質を分解する酵素やリパーゼ、胆汁酸を含むことが説明されています。この排出物の漏れや過剰な湿り、局所のpHの変化、さらに粘着式の装具を貼り替えるたびに生じる機械的な刺激が皮膚のバリアを損ない、局所の炎症反応を引き起こしうると述べられています。

研究チームは、モリンガ(Moringa oleifera)の葉抽出物、緑茶(Camellia sinensis)抽出物、酸化亜鉛という3つの成分に着目しました。原著では、モリンガ葉抽出物が抗炎症作用などをもつフラボノイドやフェノール性化合物を含むこと、緑茶に豊富なエピガロカテキン-3-ガレート(EGCG)が炎症の経路に働きかけると報告されていること、酸化亜鉛が皮膚のバリア機能の維持に関わり湿気や刺激物から皮膚を守る働きをもつことが、組み合わせの根拠として挙げられています。本研究の目的は、この3成分を配合した外用パウダーが、ストーマ周囲皮膚の炎症を病理組織学的に見て抑えるかどうかを評価することでした。

何をどのように調べたか

研究はインドネシア・スラバヤのDr. Soetomo総合教育病院の消化器外科で実施された、ランダム化・単盲検(参加者は自分がどちらの群かを知らない)の比較試験です。対象は新たにイレオストミーを造設した18〜60歳の患者32人で、1対1の割り付けにより対照群16人と介入群16人に分けられました。慢性皮膚疾患や免疫の異常、重い感染症、炎症反応に影響しうる全身状態をもつ人などは除外されています。

介入群には、モリンガ葉抽出物15%、緑茶抽出物5%、酸化亜鉛3%を含む外用パウダーを、1日2回、約12時間おきに7日間連続して使用しました。塗布は、清潔にして完全に乾かしたストーマ周囲の皮膚に、ストーマの縁から約1〜2cmの範囲へ薄く均一にふりかける方法で行われ、装具の粘着を妨げないよう余分な粉は除去されました。対照群は同じ標準的なストーマ周囲ケアに加えて、プラセボとして白色ワセリンを同じ頻度・期間で塗布しました。

7日目に全員からパンチ生検で4mmの皮膚組織を採取し、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色という一般的な組織染色を行って、真皮の炎症細胞の浸潤を顕微鏡で評価しました。評価は治療の割り付けを知らない病理医が担当し、炎症の程度は0〜3の4段階(0=炎症なし、1=軽度で炎症細胞の浸潤が5%未満、2=中等度で5〜30%、3=重度で30%超)で判定されました。群間の比較にはマン・ホイットニーのU検定が用いられました。

主な報告結果

32人全員が7日間の介入を完了し、脱落はなく、全員が解析に含まれました。平均年齢は対照群52.13歳、介入群50.50歳でした。

炎症スコアの中央値は、介入群が1(範囲0〜2)、対照群が2(範囲0〜3)で、介入群のほうが低い値でした。また、重度の炎症(スコア3)は介入群では1例も認められず、対照群にのみみられたと報告されています。一方で、炎症が全くなかった人の割合は対照群のほうが高かったことも示されています。

しかし、マン・ホイットニーのU検定による群間の比較では、統計学的に意味のある差は認められませんでした(p=0.603)。著者らは、介入群で炎症の程度が軽いほうへ分布がずれる「記述的な傾向」はみられたものの、この傾向は統計学的に有意な群間差には結びつかなかったと述べています。

論文では結果が有意にならなかった理由も検討されています。ストーマ周囲の炎症は外用薬だけでなく、排出物にさらされる強さや時間、局所の湿り、装具の密着具合、漏れ、貼り替え時の機械的刺激など多くの要因に左右されますが、これらは本研究では定量的に測定・管理されていませんでした。また両群に標準的なスキンケアが行われたことで、パウダー自体による上乗せの効果が見えにくくなった可能性、評価が7日目の1回のみで炎症反応の早い段階しか捉えていない可能性も挙げられています。さらに、半定量的な4段階スコアは連続的な変化を離散的な区分に圧縮するため、微妙な違いを捉えにくいという限界も指摘されています。3成分を同時に用いたため、それぞれの成分の寄与や相乗作用は判別できていません。

この研究から読み取れること

著者らは結論として、7日間の外用パウダーの使用は、炎症スコアの中央値の低さと重度炎症の不在という点で、より軽い炎症へ向かう記述的な傾向を示したものの、群間差は統計学的に有意ではなく、この配合による抗炎症的な保護効果は本研究では統計学的に示すことができなかったとしています。

この研究が伝えているのは、有望に見える成分を組み合わせても、実際の患者でその効果を数値として確かめるには別の検証が必要だということです。研究チーム自身が、今回の所見は治療効果の証明ではなく、あくまで生物学的なシグナルの可能性を示す予備的なものとして解釈すべきだと位置づけています。期待と検証を慎重に区別しながら報告する姿勢そのものが、この論文の読みどころと言えるでしょう。

著者:Sandi Halim Naga Saputra、Tomy Lesmana(Digestive Surgery Consultant , Department of Surgery , Faculty of Medicine , Universitas Airlangga , Surabaya)、Edwin Danardono(Digestive Surgery Consultant , Department of Surgery , Faculty of Medicine , Universitas Airlangga , Surabaya)、Denny Septarendra(Digestive Surgery Consultant , Department of Surgery , Faculty of Medicine , Universitas Airlangga , Surabaya)、Ismu Nugroho(Digestive Surgery Consultant , Department of Surgery , Faculty of Medicine , Universitas Airlangga , Surabaya)、Adhitya Angga Wardhana(Digestive Surgery Consultant , Department of Surgery , Faculty of Medicine , Universitas Airlangga , Surabaya)、Anton Sugianto(Digestive Surgery Consultant , Department of Surgery , Faculty of Medicine , Universitas Airlangga , Surabaya)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sandi Halim Naga Saputra, Tomy Lesmana, Edwin Danardono, et al. Protective Effect of A Topical Powder Combining Moringa Oleifera Leaf Extract, Green Tea Extract, and Zinc Oxide on Peristomal Skin Damage Following Ileostomy: Assessment of Inflammatory Cell Density By Hematoxylin and Eosin Staining. Adolescencia e Saude 2026-09-06. DOI: 10.67440/ahj.vi.2231. 原著ライセンス:CC BY.