日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
何を調べた研究か
この研究は、アルツハイマー病によって生じた軽度認知障害(MCI)のある人が、ウコン(学名 Curcuma longa)の抽出物を含む食品を摂取した期間に、認知機能の測定値がどう変化するかを調べたものです。MCIとは、記憶や注意などの働きの低下が本人や周囲に気づかれる程度にあるものの、日常生活は保たれていて認知症の段階には至っていない状態を指します。
著者は背景として、ウコンの成分に関する基礎研究の報告を挙げています。動物や細胞を使った先行研究では、ウコンに含まれるターメロノールAおよびBが炎症にかかわる物質の産生を抑えたこと、ビサクロンが単球の血管内皮細胞への接着を抑えたことが報告されています。また、ターメロノールを含むウコンの熱水抽出物が、アルツハイマー病モデルマウスでミクログリアの活性化と認知機能の低下を和らげたという報告もあります。人を対象とした研究では結果が一致していませんが、作業記憶など特定の認知領域で良い方向の変化を示唆する報告があり、著者はこれらを踏まえて今回の観察研究を計画したと述べています。
どのように行われたか
研究は日本の一施設で、2023年9月から2025年6月にかけて実施されました。参加者は、アミロイドPETまたは脳脊髄液検査によってアルツハイマー病が生物学的に確認され、MCIと診断された人のうち、抗アミロイド抗体療法の開始を待っている人たちです。13人が登録され、1人が個人的理由で中断し、カプセルの摂取率が60%未満だった1人と生活習慣が変わった1人が解析から除外された結果、最終的な解析対象は10人(男性2人、女性8人、平均年齢74.8歳)となりました。
参加者は4か月間、ウコン抽出物を含むカプセルを1日2粒摂取しました。1日量に含まれるのはビサクロン400マイクログラム、ターメロノールA 100マイクログラム、ターメロノールB 100マイクログラムです。認知機能は開始時と4か月後の2回、タブレット型の検査ツール「のうKNOW」、日本語版モントリオール認知評価(MoCA-J)、トレイル・メイキング・テスト(TMT)で測定しました。あわせて血液中の高感度CRP、TNF-α、BDNFも調べています。
この研究は比較対照を置かない単群・非盲検の設計で、参加者も検査者も何を摂取しているか分かった状態で行われました。著者自身が限界として、対照群がないこと、人数が少ないこと、観察期間が短いこと、21項目もの認知指標を評価したうえで多重比較の調整をしていないことを挙げ、得られた結果は探索的なものであり因果関係の解釈はできないと明記しています。
報告された主な結果
のうKNOWでは、記憶スコア(Composite B)が開始時より4か月後に有意に高く、推定脳年齢が有意に低いと報告されました。ただし著者は、推定脳年齢の3.2歳の低下について、脳が実際に若返ったと解釈すべきではなく、年齢を考慮した認知成績の変化を示すものだと注意を促しています。この指標の基準データはMCIの人向けに作られたものではないため、補助的・探索的な指標として扱われています。一方、処理速度を反映する集中スコア(Composite A)には有意な差はありませんでした。
MoCA-Jでは、合計点は開始時18.8点、4か月後19.0点で有意な差はありませんでした。下位項目のうち注意の領域と数唱課題の得点が有意に上昇しましたが、それ以外の下位項目に有意な変化はありませんでした。TMTのパートA・パートBの所要時間にも有意な差はなく、血液中の高感度CRP、TNF-α、BDNFにも有意な変化は見られませんでした。安全性の指標でも開始時からの有意な差はなかったと報告されています。
著者は、記憶スコアと数唱課題がいずれも作業記憶(情報を一時的に保持しながら操作する働きで、前頭葉が中心的な役割を担う)を反映する一方、TMTはより複雑で負荷の高い処理を必要とするため、両者の結果が一致しなかった可能性を論じています。また、MoCA-J合計点やTMTに変化がなかったことから、認知機能全体への影響は限定的かもしれず、注意領域の得点上昇も慎重に解釈すべきだとしています。血液指標に変化がなかった以上、今回の結果が抗炎症作用やBDNFを介した仕組みによるという証拠は得られていないとも述べています。
この報告が示すこと
この研究は、アルツハイマー病によるMCIのある10人という小規模な集団で、ウコン抽出物の摂取期間中に作業記憶に関連する指標が変化したことを示す予備的な報告です。対照群がなく、繰り返し検査による慣れの影響も完全には否定できないため、著者はこの変化がウコン抽出物によるものかどうかを明確に判断することはできないと結論づけています。
そのうえで著者は、より大規模でプラセボ対照を置いた研究によって、摂取量や期間を変えた場合の影響を検証する必要があると述べています。身近な食材の成分と認知機能の関係を人で確かめようとする試みの、入り口に位置づけられる報告といえます。
著者:Yuta Manabe(Division of Dementia and Geriatric Medicine, Department of Advanced Clinical Medicine, Kanagawa Dental University School of Dentistry, Yokosuka, Japan)、Yuta Manabe(Dementia Diagnosis Center, Department of Internal Medicine, Yokohama Shintoshi Neurosurgical Hospital, Yokohama-shi, Kanagawa, Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yuta Manabe, Yuta Manabe. Influence of Curcuma longa extract on cognitive function in mild cognitive impairment due to Alzheimer’s disease: a single-arm, open-label, observational study. Frontiers in Nutrition 2026-10-01. DOI: 10.3389/fnut.2026.1951923. 原著ライセンス:CC BY.