アサイーといえば果肉を使ったボウルなどが知られていますが、果実の大部分を占める「種」は通常廃棄される部位です。ブラジル・リオデジャネイロ州立大学の研究グループは、このアサイー種子(Euterpe oleracea Mart.)から得られるポリフェノールを豊富に含む抽出物(ASE)に着目し、高脂肪食によって引き起こされる脂肪肝(MASLD、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)に対する効果を、ラットを用いた実験で調べました。
近年、脂肪肝の背景には肝臓の細胞内でエネルギーを作り出す小器官「ミトコンドリア」の機能低下や、酸化ストレスと抗酸化のバランス(酸化還元恒常性)の乱れが関わっていると考えられています。この研究は、ASEがこうしたミトコンドリアの働きや構造にどう作用するかを、有酸素運動という比較対象とあわせて検証した点が特徴です。
どのように調べたのか
研究では雄のSprague-Dawleyラットに16週間にわたって高脂肪食を与え、脂肪肝の状態を作り出しました。その後、最後の6週間において、ASE(1日あたり体重1kgあたり200mg)を単独で投与する群、有酸素トレーニングを単独で行う群、そして両者を併用する群に分け、対照食を与えた群と比較しています。
評価には、肝臓の脂肪蓄積の程度、ミトコンドリアの微細構造(超微形態)、ミトコンドリアの新生や機能に関わるタンパク質・遺伝子の発現量、酸化ストレスの指標、そして実際の呼吸機能(脂質や糖質を材料としたミトコンドリアの呼吸活性)などが含まれています。
研究でわかったこと
ASEを投与した群では、肝臓の脂肪症が対照食群と比べて約52%減少したと報告されています。また電子顕微鏡的な観察でミトコンドリアの超微形態が改善したこと、ミトコンドリアの新生(biogenesis)に関わるPGC-1αとNRF-1の発現が増加したこと(PGC-1αのmRNA量は約3倍に増加)、ミトコンドリアDNA調節に関わるTFAMというタンパク質の免疫反応性が高まったこと、さらに脂質代謝に関わる核内受容体PPARαの発現も増加したことが示されています。あわせて酸化ストレスの指標が減少し、脂質を材料としたミトコンドリア呼吸機能が回復したとされています。
一方、有酸素トレーニングを単独で行った群では、血糖コントロールやミトコンドリアの構造面での改善が見られたものの、呼吸機能や酸化還元バランスへの効果は限定的だったと報告されています。ASEと運動を併用した群では、血漿中の中性脂肪が41%減少し、脂肪酸をミトコンドリア内に取り込む際に働くCPT1αというタンパク質の発現が増加、さらに糖質を材料としたミトコンドリア呼吸が高まったとされ、ASE単独とは異なる代謝的特徴が観察されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究はラットを用いた動物実験であり、ヒトにおいて同様の効果が得られるかどうかはこの要旨からは分かりません。論文の記述では、得られた結果は肝ミトコンドリアの機能に対する作用機序を示唆するものにとどまるとされています。ASE単独と運動併用とでは、影響を受ける代謝経路(脂質を優先的に使う経路か、糖質を優先的に使う経路か)が異なる可能性が示されており、単純に「効果が大きい・小さい」で比較できるものではなさそうです。今回のデータは一つの研究で得られたものであり、結論が確定したわけではない点に留意が必要です。
まとめ
この研究では、高脂肪食を与えたラットにアサイー種子由来のポリフェノール豊富な抽出物を投与したところ、肝臓の脂肪蓄積の減少やミトコンドリアの構造・機能面での改善、酸化ストレスの低下といった変化が報告されました。有酸素運動との併用では、また異なる代謝的な特徴が見られたとされています。アサイーの種という、通常は利用されにくい部位に着目した基礎研究として、今後ヒトでの検証も含めたさらなる研究の蓄積が待たれるところです。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Dafne Lopes Beserra da Silva, Julia F. Gouveia, Beatriz C. de Oliveira, et al. Polyphenol-Rich Euterpe oleracea Mart. Seed Extract Improves High-Fat-Diet-Induced MASLD Through Modulation of Hepatic Mitochondrial Respiration, Biogenesis, and Redox Homeostasis. モレキュールズ (2026). DOI: 10.3390/molecules31162925. 原著ライセンス: cc-by.