この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

クズ(Pueraria thomsonii)の根はイソフラボン類を豊富に含み、伝統的に薬用・食用として利用されてきました。しかし、その主要成分であるプエラリンやダイジン、ゲニスチンなどは配糖体(糖がくっついた形)として存在しているため、腸での吸収や利用が限られること、また独特の青臭さや渋みがあり、高級な機能性食品や医薬品としての用途を制限してきたことが背景として述べられています。こうした課題を解決する手段として、微生物発酵による加工が注目されています。

今回紹介する研究では、酵母の一種であるSaccharomycopsis fibuligera(S. fibuligera YPD01株)と、納豆菌の近縁種にあたるBacillus velezensis(B. velezensis NA03株)という2種類の微生物を組み合わせた「共発酵」によって、クズの栄養・代謝物・香気成分がどのように変化するかが、複数のオミクス解析(メタゲノム解析、非標的メタボローム解析、GC-MSによる揮発性成分分析)を用いて詳しく調べられました。

どのような方法で調べられたか

実験では、乾燥・粉砕したクズの根を用い、30℃・72時間・微好気条件での固体発酵が行われました。比較対象は次の5群です。未発酵の原料(Y)、天然由来の微生物による自然発酵(K)、S. fibuligera単独発酵(S)、B. velezensis単独発酵(B)、そして両菌を1対1の比率で加えた共発酵(M)です。各群で、粗タンパク質・粗繊維・還元糖・総フラボノイド・総フェノール・アミノ酸などの栄養成分、α-アミラーゼ、β-グルコシダーゼ、セルラーゼという3種の酵素活性、微生物の群集構造と機能遺伝子(メタゲノム解析)、そして代謝物や揮発性香気成分が測定されました。

研究でわかったこと

共発酵(M)群は、比較したすべての群の中で最も高い栄養的な数値を示しました。具体的には、還元糖が15.45±0.26 mg/g、総フラボノイドが9.30±0.17 mg RUT/g、総フェノールが13.19±0.25 mg GAE/g、総アミノ酸が52.11±0.53 g/kg、粗タンパク質が12.56±0.26%となり、いずれも他の処理群を有意に上回ったと報告されています。未発酵原料(総アミノ酸44.16±0.52 g/kg、粗タンパク質7.40±0.13%)と比べると、共発酵によって総アミノ酸は約18%増加したとされています。

アミノ酸組成の内訳としては、必須アミノ酸であるリジンが2.28→2.60 g/kgに、ロイシンが2.08→3.08 g/kgに増加した一方、フェニルアラニンは2.48→1.69〜1.83 g/kgへと減少しており、これはフラボノイド合成の材料として使われた可能性が指摘されています。未発酵原料には検出されなかったメチオニンも、発酵後のすべての群で検出され、共発酵群が最も高い値(0.44±0.01 g/kg)を示しました。また、うま味に関わるアスパラギン酸が11.53→16.13 g/kgに増加するなど、発酵によってうま味・甘味を持つアミノ酸が増える傾向が見られたとされています。

酵素活性についても、共発酵群でβ-グルコシダーゼ活性(90.67±2.66 U/g)とセルラーゼ活性(343.77±10.75 U/g)が最も高くなりました。β-グルコシダーゼは配糖体型のフラボノイドをアグリコン型(糖が外れた、吸収されやすいとされる形)に変換する酵素であり、この活性の高さが総フラボノイド・総フェノール量の増加と関連づけられています。

メタゲノム解析では、約6億5900万リードの配列データから7,737件のKEGGエントリーが同定され、共発酵群では炭水化物分解に関わるCAZy遺伝子ファミリーが充実していたことが示されました。門レベルの微生物構成を見ると、未発酵原料ではクズ由来のStreptophyta(植物)のDNAが35.55%を占めていましたが、発酵後の各群では0.13〜0.30%まで減少しました。天然発酵(K)群ではPseudomonadota(プロテオバクテリア)が68.36%まで増加し、属レベルでもEnterobacterやKlebsiellaという菌が合計61.52%を占めるまでに増殖したことが報告されており、著者らはこれについて「食品産業での応用では制御されていない自然発酵は避けるべきことを示唆する」と述べています。一方、酵母を含むS群や共発酵群では、これらの菌の増殖が強く抑えられていました。

非標的メタボローム解析では合計1,693種類の代謝物が同定され、共発酵群ではイソフラボンのアグリコン型、ペプチド類、エステラーゼ関連化合物が他の群にはない形で濃縮されていたとされています。さらにGC-MS分析により、共発酵群では果実のような香りを持つエステル類が最も多く生成されており、具体的にはエチルリノレートが1009.73±32.51 μg/g、エチルパルミテートが335.85±9.76 μg/gと報告されています。また、青臭さの原因とされる成分の一つであるヘキサナールは、発酵させたすべての群で検出されなくなったとされています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、クズという薬用・食用兼用素材に対して、酵母と枯草菌という機能の異なる2種類の菌をあらかじめ組み合わせて発酵させる「共発酵」が、天然発酵や単独菌での発酵よりも、フェノール化合物やイソフラボンアグリコンの生成、アミノ酸の増加、香りの改善において優れていたことを報告するものです。著者らは、この成果がクズを使った高付加価値な発酵食品の開発、および薬食同源とされる他の素材を微生物によって精密に変換していく際の参考になりうるとしています。

なお、これは一つの研究室での実験結果であり、各群3反復での比較に基づくものです。ヒトが実際に摂取した場合の吸収性や体への効果を検証したものではなく、あくまで発酵前後の成分・微生物・香気の変化を分析したものである点に留意が必要です。

まとめ

クズの根にSaccharomycopsis fibuligeraとBacillus velezensisという2種の微生物を組み合わせて発酵させると、単独の菌や自然任せの発酵と比べて、還元糖・フラボノイド・フェノール・アミノ酸・タンパク質などの栄養関連の数値が高まり、青臭さの原因物質が消える一方で果実様の香り成分が増えることが、今回のマルチオミクス解析によって示されました。今後、こうした発酵技術が高付加価値な食品開発にどうつながっていくか、さらなる研究の進展が注目されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):Saccharomycopsis fibuliegraとBacillus velezensisの共発酵によるクズ(Pueraria thomsonii)の栄養・代謝・香気品質向上に関するマルチオミクス解析(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)

著者:Lei Li(China Tobacco Henan Industrial Co. Ltd., Zhengzhou, China)、Xu Yang(College of Food and Bioengineering, Zhengzhou University of Light Industry, Zhengzhou, China)、Yibo Ning(China Tobacco Henan Industrial Co. Ltd., Zhengzhou, China)、Nana Tang(College of Food and Bioengineering, Zhengzhou University of Light Industry, Zhengzhou, China)、Wei Chen(College of Food and Bioengineering, Zhengzhou University of Light Industry, Zhengzhou, China)、Yuhan Yang(College of Food and Bioengineering, Zhengzhou University of Light Industry, Zhengzhou, China)、Yiduo Xue(College of Food and Bioengineering, Zhengzhou University of Light Industry, Zhengzhou, China)、Xiaodong Pei(College of Food and Bioengineering, Zhengzhou University of Light Industry, Zhengzhou, China)、Xiaoxiao Jiang(College of Food and Bioengineering, Zhengzhou University of Light Industry, Zhengzhou, China)、Feng Zhang(College of Food and Bioengineering, Zhengzhou University of Light Industry, Zhengzhou, China)、Zhifei Chen(China Tobacco Henan Industrial Co. Ltd., Zhengzhou, China)、Tao Wei(College of Food and Bioengineering, Zhengzhou University of Light Industry, Zhengzhou, China)