ラーメンや煮物のだしに欠かせない「うま味」は、グルタミン酸などのアミノ酸によって生み出されています。近年、こうしたうま味成分を天然由来の食品原料から取り出そうとする研究が世界各地で進められており、その候補として海洋生物が注目を集めています。今回紹介するのは、インドネシアの沿岸に生息するホシムシの一種を原料に、天然のフレーバーエンハンサー(風味増強剤)を作る試みを報告した研究です。
研究対象となったのは、Siphonosoma australe-australeという学名を持つホシムシです。この生物は、インドネシアの東南スラウェシ州やマルク諸島の沿岸水域に豊富に生息しており、タンパク質含有量が高く、うま味成分であるグルタミン酸を天然に含んでいることから、フレーバーエンハンサーの原料として有望視されています。
どのように研究が行われたのか
研究チームは、このホシムシから得た抽出液(加水分解液)と水の混合比率を5段階に変えて実験を行いました。具体的には、抽出液と水の量を7.5対42.5、10対40、12.5対37.5、15対35、17.5対32.5(いずれもミリリットル単位)という5つの割合に設定し、それぞれ5回ずつ繰り返す形で、合計25の実験区を設けています。統計的な偏りを避けるため、条件の割り付けを完全にランダム化した実験計画(一元配置)が採用されました。
各比率で作った加水分解液は、「フォームマット乾燥」と呼ばれる方法で乾燥させ、粉末状のフレーバーエンハンサーに加工されました。これは、液体を泡状にしてから乾燥させることで、熱に弱い成分を保ちながら安定した粉末を作る技術です。できあがった粉末は、色調(機器による測色)、グルタミン酸量、タンパク質含有量、脂質含有量、塩化ナトリウム(食塩)含有量について分析されました。
抽出液の比率を変えると何が変わったのか
分析の結果、抽出液と水の比率は、できあがった粉末の色調に有意な影響を与えることが示されました。また、抽出液の割合を増やすほど、粉末中のタンパク質含有量と脂質含有量がともに増加する傾向が確認されています。これは、原料であるホシムシの抽出成分が濃くなるほど、その成分が粉末によく反映されることを示す結果といえます。
これらの結果から、研究チームは、フォームマット乾燥によるホシムシ由来フレーバーエンハンサー粉末の品質を高めるには、抽出液と水の比率を最適化することが重要だと結論づけています。あわせて、この粉末が天然由来の海洋性タンパク質原料として応用できる可能性を持つことも示唆されています。
この研究を読むうえでの注意点
この研究は、特定の条件下で実施された一つの実験結果であり、ホシムシ由来のフレーバーエンハンサーがすぐに食品として実用化されることを保証するものではありません。今回検討されたのは色調やタンパク質・脂質・塩分含有量といった理化学的な特性であり、実際の風味の強さや官能評価(人が味わった際の評価)については、この要旨の範囲では言及されていません。今後、さらなる検証を経て実用化の可能性が検討されていくと考えられます。
本研究はインドネシアのムハマディヤ・スマラン大学およびスリウィジャヤ大学の研究者らによって行われたもので、日本の研究機関との関連については、提供された情報の中では言及されていません。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Muhammad Yusuf, Iga Astrina, Yunan Kholifatuddin Sya’di, et al. Production and Characterization of Flavour Enhancer from Sipou Worm (Siphonosoma australe-australe): Effects of Extract-to-Water Ratio on Physicochemical Properties. 応用食品技術誌 (2026). DOI: 10.17728/jaft.33642. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.