お茶の中には、作った直後よりも時間をかけて保存することで独特の風味が育つ種類がある。中国産の黒茶の一種「安茶(アンチャ)」もそうしたお茶で、自然な保存過程を経ることで香りや味わいが変化していくとされる。今回紹介する研究は、この保存という工程そのものに注目し、保存される場所の気候条件が香味の変化にどう関わっているのかを調べたものである。

研究を行ったのは、中国・安徽農業大学茶学院(安徽省合肥市)の研究者らと、安徽省にある祥源安茶有限公司の研究者からなるグループである。

気候の異なる3都市で3年間保存したお茶を比較

研究チームは、同じ安茶を北京(気温11〜13℃、湿度50〜60%)、上海(気温15〜19℃、湿度69〜74%)、仏山(気温22〜24℃、湿度73〜78%)という気候条件の異なる3つの都市で、それぞれ3年間自然保存した。3都市は気温・湿度がこの順に高くなっており、保存環境の違いによる影響を比較できるように設計されている。分析には、香り成分や味に関わる非揮発性成分を網羅的に調べる「分子感覚オミクス」および「メタボロミクス」という手法が組み合わせて用いられた。

気温・湿度が高いほど「甘い・焙煎香」から「かび臭さ・木質香」へ

分析の結果、保存時の気温と湿度が高くなるにつれて、安茶の香りは甘さや焙煎したような香りから、こもったような古い匂い(かび臭さ)や木のような香りへと変化していく傾向が見られた。この香りの違いには、13種類の主要な香り成分の含有比率の違いが関わっていることが示された。

味については、保存時の気温・湿度が高いほど、茶を淹れた際の苦味や渋味が弱まる傾向が確認された。この変化は、カテキン-3-O-没食子酸エステル、エピガロカテキンガレート、ジヒドロケルセチン、エピカテキン、エピガロカテキンといった、渋味・苦味に関わることが知られる非揮発性成分が保存中に減少したことによるところが大きいと分析されている。

この研究をどう読むか

本研究は、3つの都市・3年間という特定の条件下で保存された安茶を対象にした調査であり、香味形成のメカニズムを完全に解明したものではない。保存温度・湿度と香味変化の間に見られた対応関係は、あくまでこの研究で観察された傾向であり、他の産地や保存年数、保存方法(容器や通気条件など)が異なれば結果が変わる可能性もある。一つの研究として得られた知見であり、安茶の香味形成について結論が確定したわけではない点に留意したい。

まとめ

この研究では、安茶を気候条件の異なる3都市で3年間保存し比較した結果、気温・湿度が高い環境ほど香りが甘さ・焙煎香からかび臭さ・木質香へ変化し、苦味・渋味は弱まる傾向にあることが示された。こうした知見は、保存条件を意図的に調整して香味を管理したい生産者や、好みに合わせて安茶を選びたい消費者にとって、一つの参考情報になると report されている。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Luyao Yang, Shengmei Xie, Junyao Wang, et al. Effects of storage environments on flavor formation in Ancha tea. エルダブリューティー(LWT) (2026). DOI: 10.1016/j.lwt.2026.119836. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.