この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Applied Economics and Policy Studies
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
中国福建省漳州市に属する東山島は、長い海岸線を活かした海面養殖の重要拠点として知られています。著者らによれば、この島ではいかだに吊るして育てる方式、沖合の生けすを使う方式、陸上の高位置池を使う方式という三つの養殖形態が発達し、カキ、マルアジ、アワビ、海藻類などが育てられており、沿岸住民にとって漁業は主要な収入源になっています。
この論文が出発点としたのは、養殖に使われる資材そのものが抱える問題です。沖合には多数の生けすが密に並び、係留ロープ、浮き、網といった資材は定期的な補修と交換を必要とします。著者らは、破損した浮きが海に沈められる慣行があることを調査で確認したとし、こうした資材が海の環境に与える影響と、漁業者が負担する費用の増加の両面を検討することを研究の狙いとしました。
どのように調べたか
研究チームは、東山島の養殖業者への現地聞き取り調査を行い、あわせて東山県の漁業統計年鑑や地域の漁業資料を参照しています。論文の記述によれば、聞き取りは2026年8月に実施されました。
得られた情報をもとに、著者らは現在の沖合海面養殖が抱える実務上の問題を、生態、種苗、費用、産業連鎖、災害への強さといった観点から整理しています。さらに福建省の深海養殖に関する支援政策や島の生態環境の整備計画と照らし合わせ、生態的な養殖への転換、種苗産業の自立、産業の融合、設備の高度化、養殖のデジタル化という五つの方向から、この産業の見通しを論じています。
報告された主な内容
種苗をめぐる位置づけについて、論文は東山島がマルアジの大規模な人工養殖を実現している世界で唯一の中核生産地であるとしています。ただし世界の天然漁獲量が大きいため、世界全体の生産量に占める割合は限られていると著者らは補足しています。アワビについては、東山島の種苗生産量が国内で首位を保ち、国内市場の6割超、世界のアワビ種苗市場のほぼ半分を占めるとされます。一方で成貝のアワビやマナガツオ類、オゴノリなどの養殖は地域規模にとどまり、世界的に見た産出比率は高くないと整理されています。
資材については、2000年代初頭から2020年にかけて、東山島の12万ムーを超える海面養殖区域に1500万個以上の従来型の発泡スチロール(EPS)製の浮きが投入されたと報告されています。著者らはこの素材が紫外線に弱く、平均使用年数は約2.5年、年間の破損率は25%に達するとし、破損した浮き一つから毎年5000万個から2億個の微小なプラスチック粒子が周囲の海水に放出されるという観測結果を引いています。破損した残骸の回収率は5%未満とされます。費用の面では、補助金を差し引いても標準的な浮き一つあたり漁業者の自己負担は100元近くになり、1ムーあたり25個を用いると仮定すると、3年ごとの交換で6万から10万元の費用が生じ、さらに残骸の回収と交換の作業に年間1万2000元程度がかかると試算されています。著者らは10年間の総費用で比べると、従来の発泡スチロール製の浮きは新しい高密度ポリエチレン(HDPE)製の浮きより35%以上高くなり、購入価格の安さという利点は失われると述べています。
網についても、東山島沿岸では従来の天然繊維の網や品質の低い合成網が長く使われ、摩耗と劣化によって繊維状の微小プラスチックを出し続けていると指摘されています。従来型の網の使用年数は2年から5年、台風や高波の年には2年から3年に縮まるという聞き取り結果が示されています。著者らはまた、廃棄された漁具の回収率が中国沿岸海域全体で15%未満であるとする2023年の全国漁具調査のデータを引用しています。
代替資材として広まりつつあるHDPE製の浮きや樹脂製の踏み板についても、論文は利点と課題の双方を挙げています。樹脂製の板は海水による腐食や紫外線による劣化に強く、原料が適正なものであれば理論上の使用年数は10年から15年で、木製の踏み板の2年から4年を大きく上回るとされます。他方で、HDPEは温度差による膨張と収縮が大きく反りが生じやすいこと、再生材を使い紫外線対策の添加剤が不足した安価な製品が市場に多く、実際の使用年数が設計値より短くなりがちなこと、重量があるため海上での回収に手間がかかり、回収されずに放置される場合があることが課題として挙げられています。
この報告が示すこと
この研究が描き出しているのは、購入時の価格の安さが、その後の頻繁な交換、海上での回収作業、海洋環境の修復に要する費用によって打ち消されてしまうという構図です。著者らは結論として、自己負担割合を抑えた段階的な補助の仕組み、改良されたHDPEや付着生物の付きにくい網の普及、廃棄漁具の陸上処理を促すデジタルな回収・追跡の仕組みという三つの方策を提案しています。
資材という一見地味な部分が、沿岸の生態系の状態と漁業者の家計の双方に直結していること。東山島の現場を歩いて集められたこの報告は、海面養殖を考えるうえで、そうした足元の条件を見過ごせないことを伝えています。
著者:Qihang Xia(WLSA Shanghai Academy)、Bofan Zhu(Shenzhen International College)、Yuliang Ma(Beijing New Talent Academy)、Yushen Zhao(Beijing Yuying School, Wanshoulu Campus)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Qihang Xia, Bofan Zhu, Yuliang Ma, et al. Analysis of environmental conditions of offshore raft-culture areas in Dongshan Island. Journal of Applied Economics and Policy Studies 2026-09-16. DOI: 10.54254/2977-5701/2026.36979. 原著ライセンス:CC BY.