肉や穀類、野菜や果物など、私たちが日々口にする食品は、体内で代謝される過程で酸性またはアルカリ性の性質を残すと考えられています。こうした食事全体の『酸-塩基バランス』を表す指標は「食事性酸負荷(dietary acid load, DAL)」と呼ばれ、糖代謝に影響を与える可能性が指摘されてきました。欧米の研究では、食事性酸負荷が高いほど糖尿病リスクが高くなる傾向、特に女性でその関連が強いことが示唆されてきましたが、東アジアの人々を対象とした研究では結果が一貫しておらず、男女差についてもはっきりしていませんでした。今回紹介する研究は、日本人を対象に、食事性酸負荷と糖尿病発症リスクとの関連を、男女別に詳しく調べたものです。

研究でわかったこと

この研究は、日本多施設共同コホート研究(JACC研究)のデータを用いた前向き研究で、7,037人の男性と12,003人の女性、合計19,040人が対象となりました。食事性酸負荷は、妥当性が確認された食物摂取頻度調査票をもとに、「潜在的腎臓酸負荷(PRAL)」と「正味内因性酸産生量(NEAP)」という2つの指標で推定されました。参加者はこれらの指標の値によって4つのグループ(四分位)に分けられ、追跡期間中の糖尿病発症との関連が、社会人口学的要因や生活習慣、健康状態、栄養素摂取などを考慮した統計モデルによって、男女別に解析されました。

追跡期間中に、新たに490人が糖尿病を発症したことが確認されました(男女とも245人ずつ)。解析の結果、女性では食事性酸負荷が高いほど糖尿病発症リスクが高いという関連が統計的に有意にみられました。具体的には、酸負荷が最も低いグループと比べて最も高いグループでは、PRALに基づく評価で約1.6倍、NEAPに基づく評価で約1.7倍、糖尿病発症のオッズ比が高いという結果が報告されています。一方、男性では、こうした明確な関連は認められませんでした。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、日本人を対象に食事性酸負荷と糖尿病リスクとの関連を性別に検討したものであり、女性において関連が示唆された一方、男性では関連がみられなかったという点が特徴です。ただし、これは一つの前向きコホート研究の結果であり、この関連だけで因果関係が証明されたとは言えません。食事性酸負荷はあくまで食物摂取頻度調査票から推定された指標であり、実際の体内での酸-塩基バランスを直接測定したものではない点にも留意が必要です。論文の著者らも、より精密な食事評価方法を用いた今後の研究によって、東アジアの人々における食事性酸負荷と糖尿病発症との関連をさらに明らかにしていく必要があると述べています。

まとめ

今回紹介した研究では、日本人女性において食事性酸負荷の高さが糖尿病発症リスクの高さと関連することが示唆された一方、男性では明確な関連はみられませんでした。食事の酸-塩基バランスと糖代謝との関係は、性差も含めてまだ研究途上のテーマであり、今後さらなる研究の積み重ねが期待されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:日本人成人における食事性酸負荷と糖尿病発症リスクとの関連:日本多施設共同コホート研究(JACC研究)の知見(ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ニュートリション・2026年07月)