エノキタケは鍋料理や炒め物でおなじみのキノコですが、私たちが食べているのは主に上の部分(傘や柄)で、根に近い部分(根部)は加工の際に副産物として大量に出ます。この根部をどう活用するかは、食品資源を無駄にしないための課題の一つとされています。今回紹介する研究は、河南科技学院(中国)食品科学学院の研究者らが、この余りがちなエノキタケ根部に乳酸菌を使った発酵を施すことで、栄養や風味、香りにどのような変化が起きるのかを調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、Lactiplantibacillus plantarum(Lpb. plantarum)とLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus(Lab. bulgaricus)という2種類の乳酸菌をスターター培養菌として用い、エノキタケ根部を発酵させました。そのうえで、理化学的な性質、抗酸化活性、香りの特徴、官能(人による味や香りの評価)、そして代謝物のプロファイルへの影響を評価しています。
結果として、発酵によって水溶性食物繊維(SDF)の量が増加し、Lpb. plantarumで処理した試料では1.537 g/100 gから1.722 g/100 gへと有意に増えたことが報告されています。また、抗酸化活性の指標であるDPPHラジカル消去活性も、同じくLpb. plantarum処理により27.88%から59.92%へと有意に上昇したとされています。
香り成分については、GC-IMS(ガスクロマトグラフィー-イオン移動度分析)という手法を用いた解析により、発酵によって香りに関わるアルデヒド類、エステル類、アルコール類、有機酸類、ケトン類がいくつも増加し、香りの複雑さが増したことが示されています。さらにLC-MSを用いた非標的メタボロミクス解析からは、アミノ酸代謝、脂肪酸代謝、有機酸代謝、そしてフェニルプロパノイド関連の代謝経路が、香りの形成や抗酸化活性の向上と密接に関連していることが明らかにされました。
興味深いのは、2種類の乳酸菌で代謝の変化のしかたに違いが見られた点です。Lpb. plantarumはヒドロキシ脂肪酸やエステル類を含む、より広範な代謝変化を引き起こした一方、Lab. bulgaricusは有機酸や芳香族代謝物の蓄積をより強く促進し、より酸味があり麦芽様(malty)の風味プロファイルに寄与したと報告されています。官能評価と電子舌(味を数値的に評価する機器)による分析でも、発酵によって香りと嗜好性(食べやすさ・好ましさ)が高まり、酸味が増す一方で苦味や渋みが減少したことが確認されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、特定の2種類の乳酸菌を用いた発酵条件のもとでエノキタケ根部の成分変化を調べたものであり、他の菌株や発酵条件、あるいは他のキノコの副産物にそのまま当てはまるとは限りません。また、DPPHラジカル消去活性の上昇や食物繊維量の増加が示されたことは、抗酸化力や機能性成分量の変化を示すものであり、これが直接的な健康効果を保証するものではない点にも留意が必要です。あくまで一つの研究であり、実際の食品への応用や人での効果については、さらなる検証が必要と考えられます。
まとめ
この研究では、これまで活用が難しかったエノキタケ根部という副産物に対し、Lpb. plantarumとLab. bulgaricusという2種の乳酸菌による発酵を行うことで、水溶性食物繊維や抗酸化活性が高まり、香りの複雑さや官能的な好ましさも向上する可能性が示されました。また、使用する菌株によって生じる風味や代謝物の変化に違いがあることも示されています。研究チームは、スターター培養菌を用いた乳酸菌発酵が、エノキタケ根部副産物の機能性・官能特性を改善するための有効な戦略になりうると結論づけています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:スターター培養菌に依存したLactiplantibacillus plantarumおよびLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus発酵がエノキタケ根部の栄養品質、風味特性、代謝物プロファイルに及ぼす影響(フーズ・2026年08月)