この研究は、タイ、カナダ、オランダの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Toxicology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

穀類やその加工品には、カビが作り出す有害物質「カビ毒(マイコトキシン)」が混入することがあります。なかでもフザリウム属というカビが作るボーベリシン(BEA)、エンニアチンB(ENN B)、モニリフォルミン(MON)の3種類は、分析技術が高感度になるにつれて穀物や飼料からしばしば検出されるようになったものの、現時点では規制上の基準値が定められていないため「新興のカビ毒」と呼ばれています。著者らは、これら3種が同じ試料の中から一緒に見つかる例が繰り返し報告されている点に注目しています。つまり消費者や家畜は、単独ではなく混合物として口にしている可能性が高い、というのが論文の出発点です。

一方で、食品安全のリスク評価はこれまで主に1種類ずつの試験データに基づいてきました。著者らは、混ざったときに互いの毒性を強め合う(相乗作用)のか、打ち消し合う(拮抗作用)のかは十分に調べられていないと指摘し、この空白を埋めることを研究の目的に掲げています。今回の研究では、免疫を担う細胞が標的になりうるという考えから、ヒト由来のJurkat T細胞という培養細胞を用い、細胞の生存率と細胞内の活性酸素種(ROS、細胞に酸化的なダメージを与えうる分子)の量を指標として、3種を単独・2種組み合わせ・3種組み合わせで24時間作用させた場合の影響と相互作用のパターンを評価しました。

調べ方と主な報告結果

著者らは、細胞の生存率をMTT法(生きて代謝している細胞の量を色の変化で測る方法)で測定し、細胞内のROSは蛍光を用いた測定キットで調べました。組み合わせ試験では、あらかじめ求めた単独での毒性の強さに応じた一定の比率で混ぜ、同じ比率を保ったまま濃度を段階的に薄めていく設計を採りました。相互作用の判定にはChou–Talalay法という手法を使い、混合したときの効果が単独の効果の足し算からどれだけずれているかを示す「組み合わせ指数(CI)」を算出しています。CIが1前後であれば単純な足し算に近く、1より小さければ相乗、大きければ拮抗と解釈されます。

単独で作用させた場合、細胞の半数の活性を抑える濃度(IC50)はBEAが1.81 µM、ENN Bが4.47 µM、MONが40.45 µMと報告されました。つまり毒性の強さはBEA、ENN B、MONの順であり、MONは同程度の影響を出すのにかなり高い濃度を必要としたことになります。どの処理でも濃度が高くなるほど生存率は下がり、それに伴って細胞内ROSに由来する蛍光の信号が上昇したと報告されています。

相互作用については、組み合わせによって様子が異なりました。2種の組み合わせ(BEA+ENN B、BEA+MON、ENN B+MON)では、影響が小さい〜中程度の水準(IC10〜IC50)で相乗作用が見られた一方、影響が大きい水準(IC75〜IC90)では拮抗の側へ転じました。これに対し、3種すべてを混ぜた場合は、評価したIC10からIC90までの全範囲でCIが1を下回り、相乗作用が持続したと報告されています。

この報告が意味すること

著者らは、これら3種のカビ毒への同時曝露が単純な足し算では予測しにくい複雑な相互作用を生み、とくに3種混合では相乗的な影響が持続したことを、組み合わせ指数の解析に基づく結果として示しています。1種類ずつのデータだけを積み上げる評価では、こうした混合時の挙動を捉えきれない可能性がある、という問題意識がここに重なります。

なお論文自身が述べているように、今回の効果レベルは培養細胞での相対的な抑制の程度を表すもので、実際の食事による曝露量にそのまま対応するわけではありません。また、細胞の反応がROS関連の蛍光上昇と強く相関していたとはいえ、その先でどの分子機構が働いているのかを確かめるには、なお直接の実験的検証が必要だと著者らは記しています。単独の毒性を並べるだけでなく、混ざった状態で何が起きるかを測ることの重要性を、この研究は具体的な数値とともに示した報告といえます。

著者:Chanamon Maleeratana(Department of Pharmacology, Faculty of Veterinary Medicine, Kasetsart University)、Phattarawadee Wattanasuntorn(Department of Pharmacology, Faculty of Veterinary Medicine, Kasetsart University)、Saranya Poapolathep(Department of Pharmacology, Faculty of Veterinary Medicine, Kasetsart University)、Imourana Alassane‐Kpembi(Department of Veterinary Biomedicine, Faculty of Veterinary Medicine, Université de Montréal , , QC)、Johanna Fink-Gremmels(Institute for Risk Assessment Sciences, Faculty of Veterinary Medicine, Utrecht University)、Isabelle P. Oswald(Toxalim (Research Centre in Food Toxicology), Toulouse University, INRAE, ENVT, INP-Purpan, UPS)、Amnart Poapolathep(Department of Pharmacology, Faculty of Veterinary Medicine, Kasetsart University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chanamon Maleeratana, Phattarawadee Wattanasuntorn, Saranya Poapolathep, et al. Combined exposure to emerging Fusarium mycotoxins produces concentration-dependent synergistic toxicity in Jurkat T cells. Frontiers in Toxicology 2026-09-22. DOI: 10.3389/ftox.2026.1924250. 原著ライセンス:CC BY.