ジャガイモは収穫後、光にさらされると皮の内側で緑色の変化が進むことがあります。これは光の刺激でクロロフィル(葉緑素)が作られると同時に、α-ソラニンやα-チャコニンといった配糖体アルカロイドという物質が増えることが原因とされています。こうした緑化を防ぐために従来使われてきたのは石油由来のプラスチック包装が中心ですが、生分解しにくく環境負荷が課題になっています。今回紹介する研究では、黒ごま(Sesamum indicum L.)から抽出した色素メラニンを、食べられる素材でできたコーティング膜に混ぜ込み、ジャガイモの緑化を抑えられるかどうかを調べています。

研究チームはまず黒ごまからメラニンを抽出し、UV-Vis分光法とFTIR(赤外分光法)という手法で、その純度や化学構造上の特徴を確認しました。次に、ペクチン・寒天・ゼラチンという3種類の生分解性素材を組み合わせた三元フィルム(PEC/AGR/GEL)にこのメラニンを配合し、コーティング膜としての性質を調べています。その結果、メラニンを加えることでフィルムの疎水性(水をはじく性質)が高まり、水蒸気を通しにくくなること(水蒸気透過度は1.687±0.113×10⁻⁹ g/m²Pa sという値)が確認されました。また、ラジカル捕捉活性(酸化を抑える働きの指標)は90.40%まで高まったと報告されています。

さらに、メラニンを5%配合したコーティングをジャガイモに施し、直射日光の下で30日間の保存試験を行ったところ、無加工のジャガイモと比べてクロロフィルの生成が約80%抑えられたとされています。あわせて、ビタミンCにあたるアスコルビン酸の含有量が16.17±1.265 mg/100gの水準で保たれ、pH値も6.27±0.015と安定していたことが示されました。これらの結果から、メラニンを配合した生分解性コーティングが、合成プラスチック包装に代わる選択肢となりうる可能性が示唆されています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究はインド・パンジャブ州にあるLovely Professional University食品技術栄養学部の研究者によるもので、日本の研究機関や日本の食品・生産に関する言及は、提供された情報の中には見当たりません。また、著者ら自身も今後の課題として、緑化と関連の深いグリコアルカロイド(α-ソラニンやα-チャコニンなど)の濃度を定量的に評価することや、コーティング技術を実際の生産規模に広げていくことを挙げています。つまり、今回の研究は主にクロロフィル生成の抑制や水分保持、フィルムの物性面での効果を確かめた段階であり、毒性に関わる配糖体アルカロイドそのものへの効果は今後の検証課題として残されています。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点には留意が必要です。

まとめ

黒ごま由来のメラニンを、ペクチン・寒天・ゼラチンからなる食用フィルムに配合することで、ジャガイモの緑化を抑え、品質保持に役立つ可能性があることが、この研究では示されました。生分解性の素材を使った食品保存技術として注目される内容ですが、実用化に向けてはさらなる検証が必要とされています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Reshma Elizabath Reji, Swarup Roy. Extraction of melanin from black sesame seeds and its incorporation as a functional ingredient in pectin, agar and gelatin based ternary film for potato greening prevention application. ネクスト・ケミカル・エンジニアリング (2026). DOI: 10.1016/j.nxcen.2026.100111. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.