スーパーで買ったきのこが数日で傷んでしまった経験がある人は多いのではないでしょうか。きのこ類は収穫後も呼吸や代謝を続けており、カビなどの微生物による汚染も進みやすいため、野菜や果物に比べて保存が難しい食材とされています。今回紹介する研究は、食用きのこの一種であるハタケシメジ(Stropharia rugosoannulata)を対象に、保存期間を延ばす新しいコーティング素材を開発し、その効果を温度条件ごとに検証したものです。研究は湖南医薬学院と華中農業大学の研究者らによって行われ、フード・ケミストリー・エックス誌に2026年08月に掲載予定です。
どんなコーティングを作ったのか
研究チームが開発したのは、キトサン(CS)、窒素ドープ二酸化チタン(N-TiO₂)、そしてナタマイシン(NT)という抗菌性物質を組み合わせた複合フィルム『CS/N-TiO₂/NT』です。この複合コーティングをきのこの表面に施すことで、腐敗の原因となるカビの働きを抑えることが試みられました。実際に、Fusarium pseudoanthophilumという菌の増殖を71.30%、Talaromyces purpureogenusという菌の増殖を75.04%抑制したと報告されています。またフィルム自体の物性としても、引張強度が132.20%向上し、酸素透過性は69.29%低下したとされ、素材としての強度やガスバリア性が高まったことが示されています。
保存温度によって効果が大きく変わった
この研究で特に注目されるのは、コーティングの効果が保存温度によって大きく異なった点です。25℃で保存した場合、コーティングによる保存効果はわずかなものにとどまりました。一方、10℃で保存した場合には、総菌数の増加を有意に抑え、酵素活性にも変化が見られたとされています。具体的には、ペルオキシダーゼという酵素の働きを活性化させ、抗酸化に関わるスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の活性低下を遅らせ、褐変に関わるポリフェノールオキシダーゼの働きを抑えたと報告されています。そして最も保存効果が高かったのは4℃での保存で、呼吸強度と微生物の増殖がともに抑えられ、SOD活性も効果的に維持されたとされています。統計的な解析(Cox比例ハザード分析)により、4℃で保存したコーティング処理済みのハタケシメジは、コーティングを施していないものと比べて保存期間が33.33〜38.46%延びたことが確認されたとしています。
この研究を読むうえでの注意点
この研究は、特定の複合コーティングと特定の保存温度の組み合わせについて、実験室的な条件下で効果を検証したものです。今回のデータはハタケシメジという特定のきのこを対象としたものであり、他の食品や他のきのこの種類に同じ効果が当てはまるかどうかは、この要旨からは分かりません。また、コーティングの効果は保存温度に強く依存しており、常温に近い25℃ではほとんど効果が見られなかった点も踏まえると、実用化にあたっては保存条件の管理が重要な前提になると考えられます。一つの研究成果であり、これによって保存技術のあり方が確定したわけではない点に留意する必要があります。
まとめ
この研究では、キトサン・窒素ドープ二酸化チタン・ナタマイシンを組み合わせた新しいコーティング素材が、低温保存と組み合わさることでハタケシメジの保存期間を延ばす可能性が示唆されました。特に4℃という低温条件との組み合わせが最も効果的であったとされ、微生物の増殖抑制や酵素活性の調節が保存性向上のメカニズムに関わっていると考えられます。今後、他の食材への応用や実用面での検証が進むかどうかが注目されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Xingjun Lu, Kun Qiao, Xinyan Liu, et al. Synergistic effect of novel CS/N-TiO₂/NT coating and low temperature in prolonging the storage life of Stropharia rugosoannulata. フード・ケミストリー・エックス (2026). DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104290. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.