この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何のための研究か
ビスフェノールAをはじめとするビスフェノール類は、プラスチック製品などに関わる化学物質として環境中や食品中での存在が注目されてきました。こうした物質が魚の身にごく微量含まれているかどうかを調べるには、分析装置が正しい値を出しているかを確認するための「ものさし」が必要になります。この役割を果たすのが標準物質(リファレンスマテリアル)です。あらかじめ含まれる量とその不確かさが与えられた試料で、各機関が自分たちの測定結果の正しさを点検するために使われます。
研究チームは、魚肉中のビスフェノールA(BPA)、ビスフェノールF(BPF)、ビスフェノールS(BPS)、ビスフェノールAF(BPAF)の4種類を正確に定量するための、マトリックス標準物質を初めて開発したと報告しています。ここでいうマトリックス標準物質とは、目的の物質を溶媒に溶かしただけのものではなく、実際の分析対象と同じ「魚の肉」という複雑な試料の形をとった標準物質のことです。
どのように作り、確かめたか
標準物質の候補は、ティラピアに対象となる4種類の化合物を腹腔内投与したうえで、筋肉をひき肉状にし、均質化、凍結乾燥、粉砕を行い、小分け包装するという手順で調製されたと述べられています。魚肉を粉末にして分けることで、どの容器を取っても同じ組成の試料が得られるようにする狙いがあります。
調製した標準物質については、均質性(容器ごと・容器内での中身のばらつきの小ささ)、安定性(時間がたっても含有量が変わらないか)、そして含有量の値付けが、同位体希釈法を用いた液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(ID-LC-MS/MS)を最適化した手法で調べられました。同位体希釈法は、目的の物質と化学的にほぼ同じで質量だけが異なる標識化合物を加えて比較することで、測定の偏りを補正する手法です。
報告によれば、分散分析(ANOVA)の結果から標準物質は十分な均質性を持つことが示されました。安定性については線形回帰分析に基づく評価が行われ、60 ℃で10日間保存した短期条件、および−20 ℃で12か月保存した長期条件のいずれでも、時間に伴う有意な値の変動(ドリフト)は認められなかったとされています。
報告された値
含有量の値付けは、8つの試験所が参加する試験所間比較研究によって行われました。複数の機関が同じ試料を独立に測り、その結果をまとめることで、一つの機関のくせに左右されない値を求める方法です。
付与された参考値(indicative value)は、BPAが8.71 μg/kg、BPFが7.36 μg/kg、BPSが10.10 μg/kg、BPAFが5.43 μg/kgでした。それぞれに対応する拡張不確かさ(包含係数k = 2)は、順に0.71、0.56、0.80、0.42 μg/kgと報告されています。拡張不確かさは、真の値が収まると考えられる幅の目安を示すもので、値とあわせて示すことで測定結果の信頼性の程度が伝わります。
この研究が示すこと
この研究は、魚肉という実際の試料に近い形で、4種類のビスフェノールの含有量と不確かさが与えられた標準物質を作り、その均質性と安定性を確認したうえで、複数の試験所による測定から値を付けた過程を報告しています。
魚の身に含まれる微量成分の分析では、試料そのものの複雑さが測定を難しくします。実試料に近いマトリックスを持つ標準物質が用意されたことは、異なる試験所が出した測定値を同じ土俵で比べるための基盤を整える取り組みとして位置づけられます。
著者:Yunjia Yang(Beijing Center for Disease Prevention and Control, Beijing 100013, China)、Xiao Xu(Beijing Center for Disease Prevention and Control, Beijing 100013, China)、Qian Jiang(Beijing Center for Disease Prevention and Control, Beijing 100013, China)、Jing Zhang(Beijing Center for Disease Prevention and Control, Beijing 100013, China)、Jie Yin(Beijing Center for Disease Prevention and Control, Beijing 100013, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yunjia Yang, Xiao Xu, Qian Jiang, et al. Development of a Novel Matrix Reference Material for Four Bisphenols in Fish Muscle Powder. Foods 2026-08-25. DOI: 10.3390/foods15172986. 原著ライセンス:CC BY.