チョウザメと聞くとキャビアを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、その加工過程では皮も大量に副産物として出ます。チョウザメの皮にはコラーゲンが豊富に含まれていることが知られており、これを有効活用できれば、水産加工の廃棄物削減と、コラーゲンペプチドという素材の生産を同時に実現できる可能性があります。今回紹介する研究は、この「捨てられがちな皮」から、環境負荷が少ないとされる溶媒を使ってコラーゲンペプチドを取り出す方法を検討したものです。

研究チームが着目したのは「深共晶溶媒(DES)」と呼ばれる特殊な溶媒です。今回の研究では、コリンとシュウ酸を組み合わせたDESが開発され、コラーゲンが豊富なチョウザメ皮(タンパク質78.28%、コラーゲン63.47%を含む)からコラーゲンペプチドを取り出す実験が行われました。コリン系の有機酸DESを3種類比較したところ、コリン-シュウ酸の組み合わせが最も抽出性能に優れており、コリン-乳酸やコリン-酢酸のシステムに比べて、より分子量の小さいペプチド画分が得られたと報告されています。

研究でわかったこと

抽出条件を70℃、固液比1対80、処理時間2時間に最適化したところ、抽出率は98.45%に達したとされています。さらに興味深いのは、処理時間によって得られるペプチドの分子量を調整できた点です。2時間の処理では主に分子量1〜10キロダルトンのコラーゲンポリペプチドが生成された一方、反応時間を4時間に延ばすと、0.5〜1キロダルトンという、より小さいオリゴペプチドが中心になったと報告されています。つまり、時間をコントロールすることで、目的に応じたサイズのペプチドを作り分けられる可能性が示されたことになります。

抽出後にペプチドを回収する工程についても検討が行われ、イソプロパノールを使った沈殿法が最も効率が良く、抽出液と溶媒の比率を1対6にした場合、約92%の回収率が得られたとされています。また、紫外可視分光分析では波長230nm付近にコラーゲンペプチド特有の吸収帯が確認され、赤外分光分析でも、アミドI帯(約1630cm⁻¹)やアミドIII帯(1240〜1300cm⁻¹)といったコラーゲンに特徴的な吸収パターンが確認されたことから、得られた産物がコラーゲン由来であることが裏付けられたとしています。

加えて、分子シミュレーションによる解析も行われました。それによると、シュウ酸がコラーゲンのタンパク質骨格の水素結合と競合するように働き、また塩化物イオンがヒドロキシプロリンという特徴的なアミノ酸残基と相互作用すること(ヒドロキシプロリンと塩化物イオンの間に0.328nmの位置で相互作用のピークが見られたこと)が示唆されました。これらの働きが組み合わさることで、コラーゲンの膨潤や三重らせん構造の緩み、そして分子量を制御した分解が促進されると考察されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、DESという溶媒を使ってチョウザメ皮からコラーゲンペプチドを効率よく、しかも分子量を調整しながら取り出せることを示した基礎研究です。あくまで一つの研究であり、ここで得られた抽出率や回収率、分子メカニズムに関する知見が、実際の産業スケールでの生産や、他の魚種・素材にそのまま当てはまるかどうかは、この要旨だけからは分かりません。また、得られたコラーゲンペプチドの健康への効果や機能性について、この研究では検証されていない点にも留意が必要です。

まとめ

今回の研究では、コリン-シュウ酸系の深共晶溶媒を用いることで、チョウザメ皮という水産加工の副産物から高い効率でコラーゲンペプチドを抽出でき、しかも反応時間によって生成するペプチドの分子量サイズをある程度コントロールできることが示されました。分子シミュレーションによって、シュウ酸やイオンがコラーゲンの構造に働きかける仕組みについても考察がなされています。水産副産物の新たな活用法として、今後の展開が注目される研究といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:深共晶溶媒を介したチョウザメ皮からのコラーゲンペプチド抽出:分子量制御とメカニズムの解明(フード・ケミストリー:エックス・2026年07月)