この研究は、ナイジェリアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Acta fytotechnica et zootechnica/Acta fytotechnica et zootechnica
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
コメは世界人口の半数以上にエネルギーを供給する主食作物です。論文によると、ナイジェリアは世界有数のコメ生産国ですが、農家レベルの収量が低く、国内需要を満たせていません。低地の水田土壌では有機物が少なく、亜鉛・鉄・マンガンといった微量栄養素も不足しやすいため、作物の生育が妨げられます。こうした土壌で育ったコメは微量栄養素が少なくなり、人の栄養不足、いわゆる「隠れた飢餓」にもつながると著者らは指摘しています。
作物の栄養を改善する方法として、論文は二つに注目しました。一つはアーバスキュラー菌根菌(AMF)の接種です。AMFは多くの植物の根と共生する菌類で、根の外に菌糸を伸ばし、リンや微量栄養素の吸収を助けることが知られています。もう一つは、微量栄養素を溶かした液を葉に直接吹きかける葉面散布です。土壌中で栄養素が吸収されにくくなる問題を避けて、植物に届けられます。
研究チームによれば、この二つを組み合わせた効果、特に複数の微量栄養素の組み合わせを西アフリカの低地イネで比べた研究は十分ではありませんでした。そこで、低地向けの品種NERICA L-19を対象に、AMF接種と葉面散布の微量栄養素の組み合わせが、収量、植物体の重さ(バイオマス)、穀粒の栄養含有量に与える影響を調べました。食用部分の栄養素を増やす取り組みは「バイオフォーティフィケーション(栄養強化)」と呼ばれ、本研究の関心の一つです。
どのように調べたか
実験は、ナイジェリアのアベオクタにある大学のスクリーンハウスで、ポットを使って行われました。スクリーンハウスは防虫網で囲まれた施設です。常に水を張る栽培ではなく、2日ごとに手で水やりをし、水浸しにしない条件で育てています。
条件は二つの要因を組み合わせました。一つは、AMFの一種であるリゾファグス・イレギュラリス(Rhizophagus irregularis)を接種するか、しないかです。もう一つは葉面散布の内容で、散布なし、亜鉛+鉄、鉄+マンガン、亜鉛+マンガン、亜鉛+鉄+マンガンの5通りです。各栄養素は0.5%の濃度で、移植後20日と40日に散布しました。合計10通りの条件をそれぞれ3ポットずつ設け、茎や根の重さ、穂の数、穀粒の重さ、穀粒や地上部に含まれる窒素・リン・カリウム・亜鉛・鉄・マンガンの量を測りました。
なお著者らは、収穫時に根へのAMFの定着率を測定していないことを、方法上の限界として明記しています。そのため、AMFに関わる差は「AMFの働きが確認された効果」ではなく、「接種という処理に伴って見られた効果」として解釈すべきだとしています。
主な結果
AMFを接種したイネは、接種しなかったイネに比べて、茎の重さ(43.9グラム対36.8グラム)、根の重さ(15.9グラム対12.7グラム)、全体の生重量が有意に大きく、1株あたりの穂の数もやや多くなりました。穀粒のリン、鉄、マンガンの含有量も接種により高くなりました。一方、接種の有無だけで比べた場合、穀粒の重さそのものには統計的に意味のある差は見られませんでした。
葉面散布の組み合わせでは、亜鉛+鉄+マンガンの3種類をそろえた処理が、生育、収量、栄養含有量のほとんどの項目で最も高い値を示しました。AMF接種と亜鉛+鉄+マンガンの散布を組み合わせた条件では、穀粒の重さが12.3グラム、1穂あたりの粒数が181.5粒と、全条件中で最大になりました。この値は、AMF接種だけで散布しなかった条件(3.4グラム)を262%、接種なしで同じ散布をした条件(8.6グラム)を43%上回ったと報告されています。
ただし、個々の栄養素で最も効果的な組み合わせは同じではありませんでした。穀粒の亜鉛の増加率は、亜鉛を含む2種類の組み合わせのほうが3種類の組み合わせよりわずかに高く、穀粒の鉄は鉄+マンガンの処理で最も高くなりました。著者らは、3種類の組み合わせを、単一の栄養素を最大にするのではなく、複数の栄養素をバランスよく高める処理として位置づけています。
AMF接種によって穀粒の重さがどれだけ変わったかを散布条件ごとに見ると、亜鉛+鉄+マンガンや鉄+マンガンの散布では大きなプラスになりました。これに対し、散布なしや亜鉛+鉄の散布ではマイナスでした。研究チームはこの結果から、AMF接種の収量面での利点は微量栄養素が十分に供給されているかどうかに左右されると解釈しています。
この研究が示すこと
この研究は、微量栄養素が不足しがちな土壌の低地イネで、AMF接種と亜鉛・鉄・マンガンの葉面散布を組み合わせると、ポット実験の範囲で収量や穀粒の栄養含有量が高まったことを示しています。また、AMF接種の効果が栄養素の供給条件によって変わる可能性も示しました。
一方で著者らは、根へのAMFの定着を確認していないこと、穀粒の栄養素の「含有量」は体内で実際に吸収される量と同じではないことを注意点として挙げています。後者は、吸収を妨げるフィチン酸などの成分を測っていないためです。穀粒の重さと栄養素との関連は10条件の平均値にもとづく探索的なもので、因果関係を示すものではないとも述べています。広く生産現場に勧める前には、圃場での検証が必要だとしています。
著者:Olanrewaju Emmanuel Oni(Department of Plant Science and Crop Production, Federal University of Agriculture, Abeokuta, Nigeria)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Olanrewaju Emmanuel Oni. Synergistic Effects of Arbuscular Mycorrhizal Fungi Inoculation and Foliar Micronutrient Combinations on Yield, Biomass, and Grain Biofortification of Lowland Rice (Oryza sativa L.). Acta fytotechnica et zootechnica/Acta fytotechnica et zootechnica 2026-10-01. DOI: 10.15414/afz.2026.29.03.360-373. 原著ライセンス:CC BY.