日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
妊娠糖尿病と診断されると、食後の血糖値を上げないようにと炭水化物を極端に減らしてしまう妊婦が少なくありません。しかしエネルギーや炭水化物が不足すると、体は脂肪を分解してケトン体という物質を作り出し、尿中にケトン体が検出される「ケトン尿」という状態になります。ケトン体は胎児に影響しうる物質とされ、母体の血中ケトン体濃度が高いことが子どもの知能指数(IQ)の低下と関連していたとする報告もあるといいます。今回、京都女子大学や京都府立医科大学などのグループが、妊娠糖尿病の女性を対象に、管理栄養士が主導する食事療法とケトン尿の関係、そして生まれてくる赤ちゃんへの影響を調べた研究をニュートリエンツ誌に発表しました。
この研究は日本主導で行われたものです。筆頭著者は京都女子大学食物栄養学科に所属し、責任著者を含む複数の著者が京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学教室に所属しています。対象となったのも、2010年から2023年の間に京都府内の産婦人科病院で妊娠糖尿病と診断され、京都の糖尿病専門クリニック「梶山クリニック」で管理栄養士による栄養食事療法を受けた日本人女性517人です。
どんな食事指導が行われたのか
対象者は、75gブドウ糖負荷試験(OGTT)によって妊娠中期(24〜28週)に妊娠糖尿病と診断された女性たちです。診断から1〜2週間以内にクリニックを受診し、妊娠中に3〜6回通院しながら、毎回、管理栄養士による個別の栄養指導を受けました。指導の柱は二つで、一つは野菜を最初に食べ、次にたんぱく質、最後に炭水化物を食べるという「食べる順番」の工夫、もう一つは炭水化物を1日4〜5回の食事・間食に分けて摂る「分割摂取」です。夜遅い時間の間食は避けるよう指導されました。1回あたりの炭水化物量はおよそ30〜70gで、対象者ごとの推定エネルギー必要量に応じて調整されました。おにぎりやサンドイッチ、大豆プロテインバーなど身近な食品を使った分割摂取や、トマトジュースや冷凍野菜、電子レンジ調理を活用した簡単な野菜料理など、実践しやすい具体的な提案も行われたとしています。目標エネルギー摂取量は、日本の診療ガイドラインに沿って標準体重1kgあたり25〜30kcalに、妊娠による必要量の増加分として1日50〜450kcalを追加する形で設定されました。なお、この栄養指導以外に運動療法や血糖降下薬は用いられておらず、初診時点ですでにインスリン療法が必要だった女性は解析対象から除外されています。
ケトン尿があった女性で何が起きていたか
517人のうち143人(27.7%)が、診断後に少なくとも一度は尿中ケトン体が陽性になった「陽性群」に分類され、残る374人(72.3%)は一貫して陰性の「陰性群」とされました。両群を比べると、年齢やHbA1c、グリコアルブミン、妊娠前のBMIそのものには統計的な差がなかった一方、OGTTの60分値(食後早期のインスリン分泌の状態を反映するとされる指標)は陽性群で有意に高い値を示しました。また、妊娠前にBMIが18.5未満の「やせ」に該当する人の割合は、陽性群でやや高い傾向がみられました(p=0.098)。エネルギー・炭水化物摂取量は、妊娠前および診断後のいずれの時点でも陽性群のほうが有意に少なく、診断後にはさらに両群とも摂取量が落ち込んでいたといいます。しかし栄養食事療法の開始後は、エネルギー・炭水化物摂取量が両群で有意に増加し、それに伴って陽性群のケトン尿は最終的に全員で消失したと報告されています。野菜摂取量も、妊娠前・診断後は両群とも少なかったものの(陽性群65g、陰性群90g前後など)、栄養食事療法後にはおよそ270gまで増え、カルシウムや鉄、ビタミン類などの摂取量も改善したとされています。出生時体重や帝王切開の割合、先天異常の頻度については、陽性群と陰性群の間で有意な差は見られず、妊娠中に新たにインスリン療法が必要になった人もいなかったとのことです。
この研究の読み方と限界
著者らは、野菜を先に食べることで食物繊維が炭水化物の消化・吸収を遅らせ、その後のたんぱく質・脂質摂取がGLP-1やGIPといったホルモンの分泌を促して胃排出を緩やかにし、インスリン分泌のタイミングを整えるといった仕組みを想定していると述べています。ただし、この研究は過去の診療記録をさかのぼって調べた観察研究であり、他の要因の影響を統計的に調整する多変量解析は行われていません。そのため、栄養状態の改善や新生児アウトカムの良好さを、この食事療法だけの効果と結論づけることはできないと著者らも述べています。また、子どもの発育や神経発達、母親のその後の代謝状態(2型糖尿病の発症など)といった長期的な経過は評価されておらず、食事摂取量の把握も対象者の自己申告の記録と管理栄養士による聞き取りに基づくもので、実際の摂取量とのずれが生じた可能性も指摘されています。血糖の変動についても、持続血糖モニタリング(CGM)のような詳細な評価は行われていません。単一施設での研究である点も踏まえ、著者らは今後、多施設でのより大規模な研究や、無作為化比較試験による検証が必要だとしています。
まとめ
この研究では、野菜を先に食べる食事順序と炭水化物の分割摂取を組み合わせた管理栄養士主導の栄養食事療法を受けた日本人妊娠糖尿病女性517人において、もともとケトン尿がみられていた人でも栄養指導後にはケトン尿が消失し、出生時体重や分娩様式などの新生児アウトカムにも両群で大きな差がなかったことが報告されました。ただし観察研究としての限界があり、この食事法の効果を確定づけるものではなく、著者ら自身も今後の前向き研究の必要性を指摘しています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Saeko Imai, Shizuo Kajiyama, Yuki Higuchi, et al. Medical Nutrition Therapy with Meal Sequence and Divided Carbohydrate Intake: Associations with Ketonuria Resolution and Neonatal Outcomes in Gestational Diabetes Mellitus. ニュートリエンツ (2026). DOI: 10.3390/nu18162665. 原著ライセンス: cc-by.