近年、米国では「超加工食品(UPF)」や特定の食品添加物を規制しようとする動きが州レベルで相次いでいます。清涼飲料や菓子パンなど、原材料を高度に加工して作られた食品群をめぐり、健康との関係が議論される一方で、「では実際にどれくらいの速さで規制できるのか」という素朴だけれど重要な問いには、これまで明確な答えがありませんでした。今回紹介する論文は、この問いに正面から取り組んだものです。
連邦の定義がないまま進む「事実上の全国期限」
論文によると、2023年から2026年半ばにかけて、米国の各州は連邦レベルでの統一的な定義がないまま、食品添加物や超加工食品に関する規制を次々と導入してきました。その結果として、2027年1月1日〜15日ごろが「事実上の全国的な再処方(レシピ変更)期限」のようになっている、と著者は指摘しています。つまり、法律で明文化されているわけではないのに、企業側が実質的にこの時期までに商品の中身を見直さざるを得ない状況が生まれている、というわけです。
この状況を踏まえ、著者は「州はどこまで、どれだけ速く規制を進められるのか」という問いを検証するために、一つの思考実験(ストレステスト)を設定しました。それは、NOVA分類という食品加工度の分類法における「グループ4」、つまり超加工食品に該当するものすべてを、米国全土でわずか30日以内に全面禁止するという、現実にはかなり極端な仮想シナリオです。あわせて、そのような禁止が行われた場合に予想される大規模な訴訟の動きも想定し、どこにボトルネック(制約)が生じ、それぞれにどれくらいの時間がかかるのかを洗い出す、という分析手法が取られています。
「超加工食品=安い」という前提を修正
この論文でとりわけ興味深いのは、これまでの同種の分析にあった誤りを、著者自身が3点にわたって訂正している点です。
第一に、「超加工食品を禁止すると、消費者は10倍も高いカロリーを取らざるを得なくなる」という主張は、そもそも前提が誤っていたとされています。2026年7月の米国労働統計局(BLS)の平均価格データを用いた検証によれば、米国の食品供給の中で最も安価なカロリー源は、実は超加工食品ではなく、小麦粉・米・パスタ・乾燥豆といった、常温保存が可能でほとんど加工されていない主食(NOVAグループ1・2)でした。具体的には、これらの主食は1,000kcalあたり0.33〜1.07ドルであるのに対し、代表的な超加工食品は1.51〜2.70ドル、生の葉物野菜サラダに至っては23〜29ドルにもなると報告されています。つまり、急な禁止によって生じる本当の課題は「価格」ではなく、「調理にかかる時間」や「生産・供給の余力」「入手のしやすさ」といった制約である、と論文は位置づけています。
第二に、規制の状況そのものを2026年8月19日時点まで更新し、2件の予備的差止命令、審議中のニューヨーク州法、米食品医薬品局(FDA)によるGRAS(一般に安全と認められる)規則案(意見募集の締切は2026年12月9日)、そして行政管理予算局(OMB)で審査中の連邦レベルの超加工食品の定義といった、最新の動向が反映されています。
第三に、「対応を遅らせることのコスト」と「急ぎすぎることのコスト」を比較する計算が新たに加えられています。ここでは、食生活に関連する死亡者数が年間およそ32万〜52万人、経済的な負担が年間0.4兆〜1.1兆ドルにのぼるとされる、検証済みの既存の推計値が用いられています。
研究の位置づけと読むうえでの注意
この論文は、超加工食品そのものの健康影響を新たに調べた研究ではなく、「規制を進めるとしたら、どのくらいの時間軸が現実的か」を制度・経済・供給の観点から分析した政策分析の性格が強い論文です。著者は、超加工食品が消費者に選ばれている理由は価格よりもむしろ「手軽さ・便利さ」にあると考えており、規制が円滑に進むかどうかは、同じくらい便利で、かつ加工度の低い食品の選択肢が同時に存在するかにかかっている、としています。実際、着色料を使わない商品への切り替えや、加工度の低い冷凍食品・調理済み食品の供給がすでに広がりつつあることや、低コストで導入しやすい対策として、低所得者向け食料支援制度(SNAP)における温かい調理済み食品の対象除外が挙げられている点も、要旨の中で触れられています。
そのうえで結論として著者は、「即時禁止」も「30日での全面禁止」もどちらも適切なペースではないとし、食品添加物レベルの規制であれば18〜36か月程度、超加工食品の定義そのものに関わるようなより大きな規制であれば5〜10年程度の段階的なスケジュールを組み、実行に時間のかからない対策を早い段階に前倒しし、明確な適用除外規定を設けることが望ましいと提案しています。遅らせすぎるコストと急ぎすぎるコストの合計が最小になるのは、両極端ではなく、こうした制約に基づいた現実的な時間軸の付近である、というのが本論文の主張です。この分析はあくまで一つの思考実験・政策分析に基づくものであり、実際の規制の進み方や効果を確定的に示したものではない点には注意が必要です。
まとめ
超加工食品をめぐる規制は、健康や栄養の観点だけでなく、価格・供給体制・法制度といった複雑な要素が絡み合う問題であることが、この論文からうかがえます。「禁止すれば健康になる」といった単純な話ではなく、実行のスピードや移行の設計そのものが、社会に与える影響を大きく左右しうるという視点は、食の安全や政策に関心のある読者にとって示唆に富むものといえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:各州は超加工食品に対してどれだけ迅速に動けるか(ゼノド(欧州原子核研究機構)・2026年08月)