著者の所属・活動拠点の国は、ペルーです。

掲載誌:Molecules

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

酸化しやすい油をどう守るか

サチャインチは脂質を多く含む種子で、その油は「多価不飽和脂肪酸」が豊富なことで知られています。研究チームが分析した油でも、多価不飽和脂肪酸が脂肪酸全体の約82%を占め、なかでもω-3系のα-リノレン酸が46.7%と最も多く含まれていました。一方、こうした脂肪酸は酸化しやすく、酸化が進むと品質や風味が損なわれ、保存できる期間が短くなります。

酸化を遅らせる方法の一つが、植物由来の抗酸化成分の利用です。これまでにも、精油(植物から得られる香り成分の混合物)を加えるとサチャインチ油の酸化安定性や推定保存期間が改善するという報告がありました。ただし、酸化がどれくらいのエネルギーを必要として進むのかといった「熱速度論的」な性質は調べられていませんでした。

そこで研究チームは、精油の種類、添加量、保存日数が、サチャインチ油の酸化のエネルギー的な性質、酸化安定性、推定保存期間にどう影響するかを調べました。

三種類の葉の精油を加えて加速試験

研究チームは、植物化学的な特徴が異なり、抗酸化性の報告がある3種の植物、マティコ、レモン、スペアミントを選び、その葉から水蒸気蒸留で精油を取り出しました。成分を分析したところ、主な成分は、マティコがジラピオールとミリスチシン、レモンがリモネンとβ-ピネン、スペアミントがメントールとメントンでした。また、化学的な試験(DPPH法)で測った抗酸化能は、マティコが最も高く、スペアミントが最も低い結果でした。

これらの精油をサチャインチ油に体積比で0.1%、0.3%、0.5%加え、0日、7日、15日、30日、90日保存した時点で酸化安定性を測りました。測定には、油を90℃、100℃、110℃に加熱して酸化を早め、酸化が急速に進み始めるまでの時間を求める「ランシマット法」という加速試験を使いました。この時間は酸化安定性指数(OSI)と呼ばれ、長いほど酸化しにくいことを示します。

さらに、温度ごとのOSIの違いから、酸化反応が進むために越えるべきエネルギーの壁にあたる「活性化エネルギー」や、温度が10℃上がると反応がどれだけ速くなるかを示す「Q10」などの値を計算しました。これらをもとに、25℃で保存した場合の保存期間を推定しています。著者らは、OSI自体は加速条件での安定性を表すものであり、実際の保存条件で保存期間を直接測ったものではないと注意しています。

スペアミントで推定保存期間が最も長く

精油を加えたサチャインチ油は、加えていない油に比べてOSIが高くなりました。推定保存期間も、精油の種類、濃度、保存日数のいずれによっても統計的に有意に変わりました。精油を加えていない油の推定保存期間は約170日でした。

精油ごとに見ると、スペアミントは保護効果が最も長続きし、OSIが最も高く、推定保存期間は約350日でした。レモンは90日間の保存を通じて推定保存期間が約300〜310日の範囲で比較的安定していました。マティコは対照より長い推定保存期間を示したものの、保存日数が進むにつれて効果が低下する傾向が見られました。濃度については、高いほど酸化安定性が高まる傾向がありましたが、その程度は精油の種類や保存条件によって異なりました。

エネルギーの面では、活性化エネルギーが、精油を加えていない油の113.22 kJ/molから、精油を加えた油では約120 kJ/molに上がりました。著者らは、これを酸化が起こるための見かけのエネルギーの壁が高くなったことを示すものと解釈しています。Q10も2.665から約2.86に上がりました。

興味深いのは、化学試験で最も高い抗酸化能を示したマティコが油の中では長続きする保護を示さず、逆に抗酸化能が最も低かったスペアミントが最も高いOSIを示した点です。著者らは、油の中での抗酸化効果は化学試験での値だけでは予測できず、成分の性質や安定性、油の中での振る舞い、成分同士の相互作用なども関わると考えています。ただし、マティコの成分が加熱で分解したといった仕組みや、成分同士の相乗作用は今回直接確かめたものではなく、可能性として示されています。

研究が示すこと

この研究は、精油がサチャインチ油の酸化を遅らせるかどうかだけでなく、酸化反応のエネルギー的な性質を変えることを数値で示しました。また、精油によって効果の大きさや持続性が異なり、化学試験での抗酸化能の高さがそのまま油の中での保護効果につながるわけではないことも明らかにしています。著者らは、精油が酸化しやすい食用油を安定させる天然の手段となりうる可能性を指摘しています。

原著論文の著者・所属:María Alina Cueva-Ríos(Departamento de Ingeniería de Industrias Alimentarias, Universidad Nacional de Jaén (UNJ), Cajamarca 06801, Peru)、Frank Fernandez-Rosillo(Departamento de Ingeniería de Industrias Alimentarias, Universidad Nacional de Jaén (UNJ), Cajamarca 06801, Peru)、Javier S. Córdova-Ramos(Escuela Profesional de Ciencia de los Alimentos, Universidad Nacional Mayor de San Marcos, Lima 09001, Peru)、Beetthssy Z. Hurtado-Soria(Departamento Académico de Ingeniería en Industrias Alimentarias, Universidad Nacional Autónoma de Tayacaja Daniel Hernández Morillo (UNAT), Urb. Av. Universitaria s/n, Ahuaycha 09151, Peru)、Eudes Villanueva(Departamento Académico de Ingeniería en Industrias Alimentarias, Universidad Nacional Autónoma de Tayacaja Daniel Hernández Morillo (UNAT), Urb. Av. Universitaria s/n, Ahuaycha 09151, Peru)、Gilbert Rodríguez(Facultad de Ingeniería, Universidad Nacional del Santa (UNS), Urb. Av. Universitaria s/n, Nuevo Chimbote 02712, Peru)、Elza Aguirre(Laboratorio de Microbiología y Toxicología de Productos Agroindustriales, Universidad Nacional del Santa (UNS), Urb. Av. Universitaria s/n, Nuevo Chimbote 02712, Peru)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):María Alina Cueva-Ríos, Frank Fernandez-Rosillo, Javier S. Córdova-Ramos, et al. Thermokinetic Parameters and Shelf-Life Prediction of Sacha Inchi Oil Stabilized with Essential Oils. Molecules 2026-10-08. DOI: 10.3390/molecules31193574. 原著ライセンス:CC BY.